現在進行形のパトちゃんとキャル ← だからパトちゃんと(以下略)
饕餮さん主催【2014大人の制服萌え企画】参加作品です。
『キャル~久し振りやな~』
久し振りに艦から本土の地面に降り立った俺の腕の中に飛び込んできた赤毛ちゃんを抱き締めながら笑う。相変わらず元気な女子やな、キャルは。
「だからその関西弁はやめなさいって言ってるでしょ!! まったく!!」
『ええやんええやん、日本語が通じるのは俺等だけなんやし? で? お店の方はどうなん? 繁盛してるん?』
「お陰様でね。やっぱりしばらく日本で修業して良かったわ。以前よりずっとレパートリーが増えた感じだし、お客さんにも評判は上々。それに新しい常連さんに近くに住む日系商社の奥様方が増えた」
「それは良かった」
俺とキャルがどうして付き合うようになったのか、結局のところスイーツが二人の仲を取り持ったとしか言いようがない。この火の玉みたいなキャルは俺がなかなか陸に戻ってこれないのなら私がそっちに行くわなんて一方的に宣言し、何故か先々の港で俺の前に現れてはケーキを問答無用で口に押し込むということを繰り返した。
そのうちに艦でも“バートレットの彼女は神出鬼没なパティシエらしい”なんていう妙な噂が立ち始め、その頃には既に周囲には公認のカップルとして扱われていたわけだ。ただ俺とキャルはそんな噂が流れ始めた当初は恋人ではなく気の合うスイーツ仲間な気分でいたわけなんだが。
そんなことを考えているとキャルがこちらを変な顔をして見上げている。
「なに?」
「どうして関西弁で話すとカッコ良さが激減するのかしらっていつも不思議なのよね」
「どういうこと?」
「だから、そうやって制服を着て黙って立っていれば素敵な海軍さんなのに、口を開いて出てきた言葉が日本語の、しかも関西弁だとそのカッコ良さのバロメーターが急降下するのよ。何故かしら」
「酷い言い草だなあ……」
『めっちゃ傷つくわ、ゲハッ』
大阪弁を口にした途端にみぞおちに拳がめり込んできた。いやいや相変わらずの破壊力。
「いつにも増して強烈ですな、お嬢さん。まあしかしあれだ、少なくともキャルは俺が男前だと思ってはくれているわけだ」
「関西弁でまくしたてなければね」
「俺が日本語であれこれ話しかけるのはキャルだけなんだけどな」
「当然でしょ。あっちこっちの港に私みたいな女がいるなんてことがあったら許さないからね」
「そんなキミョウキテレツな女、ゲハッ」
「だから変な四文字熟語をしれっと会話に入れてこないでって言ってるでしょ!」
再び拳が飛んできた。もう少し手加減してくれても良さそうなのに容赦がないな俺の彼女様は。
「……それで? 今回はどんな新作ケーキを食わせてくれるんだ?」
「毎度毎度ケーキを用意しているわけじゃないんだけど」
「そうなのか?」
「新作じゃないけど友達の結婚式に招待されてるじゃない? その時に出すケーキを作ってくれって頼まれたから今はそれを色々と考えているところ」
「ああ、なるほど」
「マリンの時以来だから張り切ってるのよ」
ついこのあいだ生まれたと思っていた腹違いの妹マリンがいつの間にか大人になり結婚したのは二年前のことだ。相手は高校の同級生で今は東京都の職員、つまりは公務員。なかなか手堅い職業の男を選んだなって電話で話したら年がら年中どこかの海にいてなかなか連絡が取れない男は父親と兄貴だけで十分だと言われてちょっとお兄ちゃんは傷ついている。
『パトちゃん、そろそろキャルにちゃんと結婚申し込んだ方が良いんとちゃうん? あまり待たせるとほんまに捨てられるんちゃう?』
そして先日その妹に第一子が生まれ、そのお祝いの電話をした時に言われた言葉がこれ。まだ妹のマリンが妊娠中に日本に立ち寄った時にも言われたことで、その時はキャルがお好み焼きやらケーキの修行に来日しており離れ離れになっていてとうとう逃げられたんじゃないかと心配までされてしまったのだ。
もちろん長い間付き合っているのだから結婚のことは考えないわけではない。だが父親と自分の母親の顛末を見てきた自分としては本当にキャルに結婚を申し込んで良いものかと二の足を踏んでいるのも事実だ。
『ところでキャルちゃんや、自分の結婚式の時のケーキはどないするつもりなん? やっぱ自作なん?』
「……」
いきなり歩いていたキャルが立ち止まる。
「ちょっと!!」
「あ?」
「あのね、貴方が申し込んでくれないと自作するにしたって作るに作れないんですけど!!」
驚いてキャルの顔を見下ろせば顔を真っ赤にして怒っている……わけじゃないのか?
「え、えーと……その、申し込んでもいいのか俺」
「何で申し込むのに許可がいるなんて思っているのよ。それって実戦で相手にキルコールするようなものじゃない」
最近になってキャルが覚えたパイロット用語だ。まさかこんな時に使ってくれるなんて少し嬉しいぞ。ただその嬉しさとプロポーズをするかどうかは別問題なんだがな。
「なかなか陸に戻ってこないような男と結婚してくれなんてなかなか言えないぞ?」
「あのね、待つ気がなかったら早々にサヨナラしてたでしょ? 別にケーキの試食係としてキープしたいからずっとこうやって付き合っているわけじゃ、きゃあ、何なのよ!!」
俺がキャルを抱き上げると彼女の方はギョッとしたようにこっちを見詰めてきた。
『ほんまに? ほんまに俺と結婚してくれるん?』
「だからどうしてその大事な時に大阪弁なのよ……」
『ほら、他の人に聞かれたら恥ずかしいやん?』
「今の状況だって十分に恥ずかしいけど」
そう言われて周囲に目をやれば知り合いの水兵がこっちを見てニヤニヤした笑みを浮かべている。
『とにかくや、この件に関してはゆっくりと二人で話し合わなな?』
「二人っきりになったら大阪弁は禁止だからね」
『えー、そうなん? いたたたたた、わかった、ちゃんと真面目にプロポーズさせてもらいます』
耳を力任せに引っ張るとか本当にメチャクチャだ。とにかく、そんな訳で俺はキャルにプロポーズすることになった訳だ。ん? 返事はどうなったかって?
妹のマリンに後れを取ったぶん頑張らなあかんなあ?なんて笑って言ったらどつかれたわ、うん。




