side - キャル
饕餮さん主催【2014大人の制服萌え企画】参加作品です。
脳天気な海軍バカに無理やり約束を取り付けた当日、何種類かのケーキをあとは焼くだけという状態にまで準備をし、その作業を終えた私は出かける用意を開始した。
「……」
あれこれ服を選んでいる自分に気がついて溜息をつく。なんで気合いを入れてお洒落しなくちゃならないのよ。相手はあの海軍バカ男じゃない。今日はランチをご馳走してケーキの味見をしてもらうだけ。これも長年の夢だった自分の店の為。だから味見をしてもらったらそれで終わり、何が赤毛ちゃんを食べたい? まったくふざけんなって感じ。
ブツブツと呟きながら約束の時間が迫ってきたので車のキーを片手に外に出る。今回は補給諸々の為に寄港しているだけで奴の住処はここではないらしい。俺いま車ないねんから迎えに来てな?なんて関西弁でニッコリと笑っていた。まったく軍人ってもっとクールで厳つくてマッチョな男ばかりだと思っていたのに、なんなのよ、あの優男。しかも口から出るのが日本語でしかも関西弁だなんて。
「まあ……見てくれは悪くはないわよね」
そこは認めよう。そこだけは。港近くのパーキングに車を止めて奴が来るのを待つ。確か名前はロイ・パトリック・バートレットとか言っていたっけ。お好み焼きの次に飛ぶのが好きやねんとか言ってたってことはパイロットってことよね。
『おーい、赤毛ちゃ~ん』
久し振りに戻った夫や恋人との再会を喜んで抱き合っているカップル達を何となく気まずい思いで横目にしながら待っていると、いきなりの関西弁訛りの日本語に脱力。こっちが日本語を理解できると知って日本語で通すことにしたらしい。まったくもう……変なヤツ。こちらに手を振りながらやってくる彼は海軍さんの夏服を着ていて黙っていれば映画にも出てきそうなぐらいのハンサム君なのに、全てがその口から出てくる関西弁で台無しだ。日本では制服を着れば軍人は五割増しでかっこよく見えるらしいけど、こいつの限って言えば先ずはその口を縫い合わせないと駄目かもしれない。
『お待たせやで?』
「なんで関西弁なのよ」
『そんなこと言うたってなあ……俺、今めっちゃ日本語に飢えとんねん』
「それに赤毛ちゃんなんて呼ばないでよね。私にはキャロラインって名前があるんだから」
『へいへい。ほな、さっそくキャルちゃんちにいこか』
まったく……。これ以上の言い合いは回りに見物人を増やすだけだし、まだ言い返したりないけど今はぐっと堪えて車を止めてあるところにこの海軍オバカを引っ張っていくことにした。その間も私に引き摺られるようにして隣を歩く男は非常に上機嫌な様子だ。
「なんでそんなにご機嫌なのよ」
「こんな美人さんに誘われるなんて滅多にないから」
ニコニコしながら返事をしてくる。言葉は英語に戻っているので何気に不自然な雰囲気は和らいでいた。うん、変な男から、何となく変な男になったって感じ。
「まさか女日照りで、なんてことないわよね?」
美人さんだなんてそんなお世辞を言われてもねと呟きながら続けた私の言葉にヤツはショックを受けたような顔をした。
「女日照りだなんて何てお下品な!! 俺、女の子の口からそんな言葉が出てきたのを見て超ショックを受けた!! うげっ」
すかさずボディブローを食らわす。
「ショックを受けているような顔してないでしょ!!」
『ほんまに逞しい女やなあ、キャルちゃんは……まあ気ぃの強いとこなんかは俺の好みではあるけどな』
また何やら再び日本語で意味不明なこと呟いているし。
「ところで本当にスイーツの店を?」
「そうよ」
『ふーん、ほんまやったんかあ……絶対に新手のナンパやと思ったんやけどなあ……』
「私、運転しながらでも隣の人間ぐらいは殴れるんだけど」
『怖い怖い、クワバラクワバラ。んで? ランチは何処に連れてってくれるん? もしかしてお好み焼きの美味しい店でもあるん?』
「そんな訳ないでしょ。ちゃんと家で用意したわよって、だから何でそんなガッカリした顔するのよ。あのね、私だってケーキしか作れないとかいう人間じゃないんだから」
『おお、女の子の手料理なんて久し振りかもしれへん』
嬉しそうに笑っている。
「もしかして、もてないとか?」
「そんなことはないと思いたいが、なかなか連絡が取れない戻ってこないなんて男と付き合いたいっていう奇特な女というのはなかなか少なくてね」
「ふーん」
「現に俺が子供の頃にウチのオヤジもそれで離婚したわけなんだけどな。帰ってきたら自分のベッドに別の男がいたっていう典型的なパターンで」
「貴方のお父さんも軍人なの?」
「ああ、同じ海軍所属の船乗り」
「そういうのって子供にとっても悲惨ねよ。うちの両親はもう御馳走様ってぐらいに仲が良いから考えられないわ」
本人は大したことないって顔をしているけど、子供の頃の彼はきっとショックを受けて傷ついたに違いないのだ。あ、なんでしみじみしちゃってるんだろ、私。こんなことで絆されてたら駄目じゃない。目的はスイーツの味見なんだから。
「ま、今はオヤジも再婚して新しい家族も増えたし今度の奥さんはよくできた人だよ。ああ、ちなみに日本人」
「貴方が日本贔屓なのは義理のお母さんの影響ってわけね」
「ああ、そうとも言うかな。俺に家庭の温かさとかそういうのを教えてくれたのは彼女だから。彼女の作った飯は美味いよ。今でもたまに日本に寄港した時には顔を出している」
「お母さんは日本に住んでいるの?」
「妹が生まれたんでね、一人でいる期間が長いから住み慣れた日本の方が安心だってんで」
「まあ日本は治安も良いし?」
「そんなところ」
自宅の到着して車から二人で降りるとお隣の奥さんがこちらをポカンとした顔で見詰めていた。確かに私が男の人をここに連れてくるのって珍しいかもしれない。頻繁にここに出入りするのはケーキ作りを楽しむ女友達ばかりだから。
『なんか、めっちゃガン見されてるんやけど……』
「気にしないで。あの人はいつもあんな感じだから」
『そんなこと言われても……』
あからさまに見詰められて居心地が悪いのか、彼は制帽のツバに手を添えてちょっと曖昧な笑みを浮かべながら隣の奥さんに挨拶をした。奥さんは間近で軍人さんに挨拶をされて逆に驚いたのか、何やらゴニョゴニョ口の中で呟きながらそそくさと家の中へと戻っていく。これ以上の騒ぎにならないようにと、謎な人やと呟いている彼を家の中に押し込んだ。
「変わった住人が隣にいるんだな」
「根は良い人なのよ。ちょっとお節介なだけで」
「お節介ねえ……」
「その制服効果で暫くは大人しくていると思うわよ。良かったわ、変なサービス精神を出して大阪弁で喋り出さなくて」
「あのな、別に俺だってのべつ幕無しに日本語で喋りたおしているわけじゃないんだぞ?」
そう言いながら何とも微妙な顔で私と隣の家を交互に見ている。
「さあ本題よ本題。私はスイーツの味見をしてほしくてここに招待したんですからね」
「その前に飯を食わせて下さい。比喩的な意味ではなく」
そんな訳でケーキの味見をしてもらうことを見越して作った少し軽めなランチを彼に提供した。彼の方も特にそれがお好み焼きではなかったことに不満は無いようで“キャルちゃんはホンマに料理が上手いねんな”と関西弁で感心していた。
「それで? スイーツの感想はどうなのよ」
ランチの後、先ずはデザートとして出したのは日本で食べて感激したスイートポテト。この原材料のサツマイモをアメリカで手に入れるのはなかなか難しくて、こちらに住んでいる日系人で農家を営んでいる人に栽培している人がいると聞いて直接交渉をして仕入れることに成功したものだった。あちらもまさかアメリカ人の私がスイートポテトを作りたいのでおたくのサツマイモを売って下さいと言うとは思っていなかったようでとても驚いていた。だけど話をしていくうちに気持ちが伝わったみたいで、お店で人気が出たら作付を増やしましょうかねというところまで話が進んでいる。
「美味いよ、うん。このスイートポテト、日本で食べたのと同じ味がする。だけどこの微妙な甘さを分かるアメリカ人がいるとは思えないんだがな」
「確かにね。私の知り合いでもサツマイモの甘さは理解したようだけど、もっと砂糖やバニラビーンズを入れたら?って言ってた」
「バニラ……」
「どうして私が貴方に声をかけたか分かったでしょ?」
私の言葉に納得したように笑うと残りのひとかけをパクリと口に放り込んだ。
「さあ、次いくわよ次」
「もう少し余韻を楽しむとかさせてくれても良いのに」
「なに言ってるのよ、今日はあと十種類ぐらいは食べてもらうつもりで用意しているんだからね。サクサク行くわよサクサク。貴方がここにいる間に少なくとも来年の春用のケーキを決めるんだから覚悟しなさいよね」
「何だか俺、ここに来るたびに太りそう……」
そう言うと、ロイは諦めたように溜息をついて“次はどんなケーキ?”と尋ねてきた。