side - パトちゃん ← パトちゃん言うな!
パトちゃんとキャルの出会いがどんなものだったか書きました。
饕餮さん主催【2014大人の制服萌え企画】参加作品です。
「不味いものを不味いと言って何が悪いのよ」
久し振りに堅苦しい制服から私服に着替えて陸に上がると港の近くに日本料理の新しい店が開店していた。懐かしい味に出会えるのではないかという微かな期待と共に店に入った途端、そんな尖がった女の声がした。声がした方に視線を向ければ可愛い赤毛ちゃんが店のシェフと睨み合っていて、周囲の野郎共はどんな騒動が起きるのやらと無責任なニヤニヤ顔を浮かべて事の成り行きを見守っているようだった。その面々には同じ空母に所属している見知った顔がたくさんあった。
おいおい、あのシェフを見てみろ、赤毛ちゃんの倍ぐらいの横幅があるぞ、大丈夫なのかよ。それを見物しているなんてお前達、それでも海軍男子か? 制服着たままでそこに座っているんだったらもう少しレディを守るとかしないと海軍の男共は腰抜け野郎の集団だって言われるぞ?
「なんだと?! 注文しておいてその言い草はなんだ!!」
「仕方がないからお金は払って“あげる”けど、こんな不味いものを出すんなら、さっさと店じまいした方が良いんじゃないの? いくら味覚馬鹿の海軍さん達でもそのうち怒り出すわよ」
……おい、俺達を味覚音痴集団みたいな言い方をするな。
「おーい、客がここにいるんだがオーダー取りにきてくれないのかー?」
俺が声をかけると角を突き合わせていた二人が揃ってこちらに顔を向けた。おお、なかなかの美人じゃね? シェフじゃなくて赤毛ちゃんがな。そしてその赤毛ちゃんは俺に指をつきつけてきた。
「ちょっとそこの貴方!」
「ん? お邪魔だったか?」
「そうじゃなくて、これ、どう思うか試してみなさいよ」
赤毛ちゃんはテーブルの上に置かれてた皿を手にこちらにズカズカとやってきて、俺の目の前に皿をガンッと置いた。中のものが飛び上がるほどの勢いってどんなんだ。そして飛び上がった皿の中のもの。ん? この真っ黒焦げの物体、何やら懐かしい匂いがするぞ? これはもしかして?
「これってもしかして、お好み焼き?」
「もしかしなくてもOKONOMIYAKIよ!!」
「へえ……」
最近じゃあこんなものまで日本食として出されるようになったのか。たこ焼きは何処かで見た記憶があるがお好み焼きは初めてな気がするな。
「じゃあ遠慮なく」
もしかして赤毛ちゃんと間接キスじゃね?と思いつつ、そこにぶっ刺さっているフォークで一口。
「……」
「どうよ」
「……言っちゃあ悪いが不味い」
おっさんがこっちを睨みつけてくるが不味いものは不味い。お世辞にも美味いとは言えない。これは絶対にお好み焼きの聖地、大阪に喧嘩を売っているとしか思えない。
「おっさん、衛生局が煩いのは分かるけどさ、厨房でこれと同じものを俺に作らせてくれね?」
「は?!」
「いいからいいから。ちゃんと俺が伝授してやるから。そうすればお客がたくさん来て商売繁盛間違いない。ああ、嘘だと思ってるだろ。だったら俺が乗っている空母の名誉に誓ってやるぞ」
「あんたも海軍さんか」
「今は制服着てないけどね。将来の常連さんを大事にした方が良いぞ、おっさん」
と言うわけでオッサンの聖域である厨房に入ると、先ずは調理に使われていた材料を並べる。ふむ、材料はきちんとしたものを使っているじゃないか、なのにどうしてあんな風に不味くなり得るのか理解できない。さっきの赤毛ちゃんは厨房の向こう側からこちらを覗いている。どうやら入りたくないらしい。ま、気持ちは分からないでもないな。
「おっさん、日本に行ったことは?」
「ねーよ。あんた達と違って世界中の海を回っているわけじゃないんだからな」
別に空母の乗組員は旅のジプシー集団じゃないんだけどな。確かにあちらこちらの海に出ているからなかなか陸に上がってこないだけで。
「日本はいいぞー。飯は美味いしスイーツも美味い。どうせ日本食の店をするなら本場の味は試しておかなきゃ勿体無い」
「そういうあんたはどうなんだ」
「俺? 俺は日本で暮らした時間が長いからな。特に変わったものじゃなれば大体のものは食ったと思う」
「そうなのか、だったら色々と意見を聞かせてくれよ」
「あのなあ、俺もそんなに長い間陸にいるわけじゃないんだから」
「いる時だけでよいからよお」
そんな押し問答を続けながらプレートの上のお好み焼きを眺める。なんだか無性に日本でお好み焼きを食いたくなってきたな、あっちの先生達は元気だろうか、あ、明石焼きも食べたくなってきた。こうなるとあっちの艦隊へ転属願いを出すかなと真剣に悩んでしまう。けど大阪には米軍施設は無いしなあ……。まあ日本は狭いし新幹線で移動すりゃ東京と大阪なんて目と鼻の先なんだが。
「そうやって常連客にするつもりなんだろ……ほれ、できたぞ、本場オオサカのオコノミヤキ。あんなカチカチに硬いオコノミヤキなんて有り得ないから」
焼き上がったお好み焼きにソースを塗って鰹節と青海苔をふりかける。材料は完璧なのになんであんなクソ不味いものが出来るんだか。ある意味それも才能じゃないかとは思うが、ここに来る客があれが本場のお好み焼きだと勘違いしても困るからな。
プレートのお好み焼きを半分に切って皿に乗せると半分をおっさんに押し付け、半分をこちらを覗いている赤毛ちゃんに渡した。
「ま、最低こんな感じじゃね?」
「……美味しそう」
「そりゃ子供の頃から焼いていたからなあ」
二人して美味い美味いと言いながらあっという間に完食。そこまで美味いと言ってもらえるなんて作ったかいがあったなあとちょっと自己満足。
「とにかく、ベースは悪くないんだからパンパン叩きまくったり強火で焦げるぐらい焼いたりするのをやめたら、良いんじゃね?と俺は思う。あとはそうだな、何処か美味い店を見つけて観察するのが一番じゃないかと思うわけだ。んじゃあ、俺はそろそろ戻らないといけない時間が迫ってるんで帰るわ」
結局、飯は食い損ねたなあ……とぼやきながら店を出た。
「仕方ねえなあ……なんか買って帰るか」
そう思ってよく知っているタコスの美味い店でテイクアウトでもするかと一歩踏み出したところで後ろから襟首を掴まれた。
「?!」
「ちょっと待って!!」
振り向けば赤毛ちゃんが俺の襟首を掴んでいる。
「なにか?」
「貴方、日本で暮らしていたの?」
「ああ、子供の頃に」
「長い期間?」
「まあ日本語が話せる程度には」
「じゃあ日本のスイーツの味も分かってるってことよね、だったら私のケーキも味見して!!」
「……なんだって?」
話がついていけないというか、どうして見ず知らずな赤毛ちゃんのケーキの味見を俺がしなきゃならんのだ?
「実は私、パティシエで近々自分のお店を持つ予定にしているの」
「だったらプロに任せた方が良いんじゃないのか?」
素人に味見をさせるのはなかなか冒険だと思うんだがな。そりゃ日本のスイーツは美味いけど。
「そのスイーツは私が日本で暮らしていた時に食べて美味しいって思ったものばかりなんだけど、それの味を分かる人ってなかなかいないのよ。だから! 貴方なら日本に住んでいたから少しは分かるんじゃないかと思って」
「へえ、君も日本に住んでいたのか」
「ええ。東京なんだけどね。貴方は……聞かなくても分かるわね、大阪かその近くでしょ?」
「当たり。神戸に住んでいたんだ。だから明石焼きも好きだぞ」
赤毛ちゃんは神戸という地名を聞いて目をキラキラさせている。確かに神戸は歴史的にも昔から西欧文化と深く関係のある街で、そのせいか関西の中でもスイーツの美味い店が多い。それを知っているってことだな。
「じゃあ決まりね」
「と言っても、俺はこれから艦に戻るんだけどな」
「私だって直ぐにケーキを用意なんて出来ないもの。明後日のお昼とかどう?」
「ふむ……昼間にケーキっていうのがなあ」
「分かった、ちゃんとランチをご馳走するから」
「ケーキの味見の報酬がランチか。できたら別のものも食わせて欲しいかなあ……」
「たとえば?」
「赤毛のお嬢さんとか」
次の瞬間、顔面にパンチが飛んできた。間一髪のところで避けると第二波が襲い掛かってくる。
『このスットコドッコイ!!』
『おお、久し振りにそんな日本語聞いたわ♪』
『なに日本語で喜んでいるのよ、しかも関西弁とか有り得ない、このドスケベ!!』
傍から見たら何処から見てもアメリカ人な俺達が日本語で罵り合っているというのも面白い光景だろうな。ここに日本人観光客でもいたら愉快かもしれないと思いながらニヤニヤしながら赤毛ちゃんが怒っているのを見下ろしてた。
『これはケーキで釣る新手のナンパか?と思ったんやけど違うん?』
「まったく、あんた達って本当に馬鹿の集団ね」
『お褒めに預かり恐悦至極~』
「褒めてない、それと四文字熟語な日本語は分からないんだからちゃんと母国語で喋りなさいよ」
『俺にとっては関西弁は第二の母国語やのに……』
ちょっとしょんぼりして見せるが火に油を注いだだけだったようで、更に赤毛ちゃんの目が吊り上り空手キックが飛んできた。ほんま、最近の女子って逞しい子が増えたわ……。