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boy meets girl 2 - 粉モン彼氏 -  作者: 鏡野ゆう
boy meets girl 2 - 粉モン彼氏 -
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前編

【空と彼女】の社と水姫、【空を感じて】の羽佐間、そしてアルファポリスで饕餮さんが掲載されている【軍人な彼】【とある彼女の災難な一日】のコスナー中将とハズキ少尉がゲスト出演でござる。

※饕餮さんの承諾は得ています。※

ちょっと変な人が入ったお兄ちゃんの彼女さんって一体どんな人?

「おー……本当に要請どおり三機飛んできましたねえ……さすが佐伯幕僚長、顔が大きい、じゃなくて広い」


 滑走路脇の格納庫前に立つ水姫が着陸態勢に入った米軍機を見て呟いた。それぞれ米国海軍所属の航空機で、日米上層部の招請を受けてこの基地の航空祭に合わせて飛来した。これに関しては海自幕僚長の佐伯さんに頭が上がらなくなったとこちらの神崎幕僚長がぼやいていたとかいないとか。


「羽佐間さんの従兄弟さんはどれなんですか?」

「変わっていなければ最後のスーパーホーネットに乗っているのが従兄弟なんだけどな」

「へえ……まさか海軍さんの御親戚がいらっしゃるとは驚きです」

「従兄弟と言っても血は繋がってないんだ。叔母の再婚相手の連れ子だから」


 羽佐間が彼と初めて会ったのは叔母が結婚した時のこと。見た目は何処から見ても外国人なのにその口から出るのは関西弁。そのギャップに子供ながら度肝を抜かれた記憶が残っている。


 同い年の義理の従兄弟になった少年と羽佐間は意外と馬が合い、お互いに空を飛ぶ夢を持っていて良く語りあったものだ。そして従兄弟はアメリカ海軍の、自分は航空自衛隊のパイロットとなり今に至る。


 目をきらきらさせている水姫の顔を羽佐間は面白そうに眺めた。


「姫ちゃん、触らせては貰えないと思うよ?」

「え? 整備じゃなくて触るだけでも駄目ですかね」

「……どうかなあ……。まあ大阪人のノリでOKしてくれるかも」

「大阪人? 日系?」

「いや、生粋のアメリカ人だよ。ただね、育ちが大阪なもんだから、まあ会えば分かるよ」

「はあ」


 暫くして停止した戦闘機からそれぞれパイロットさん達が降りてきた。トムキャットのコックピットから出てきたパイロットが自分の後ろに座っていた相方を抱えるようにして引っ張り出している。


「もしかして急病かしら。医官、呼んだ方がいいですかね?」

「んー……なんか元気そうに怒ってるみたいだから放置でいいんじゃないかな……」



+++++



―― おお、怒っとる怒っとる ――


 トムキャットのパイロットはうちの艦長の上にいる更に偉い人でコスナー中将。


 そんな人間が何で戦闘機を飛ばして日本くんだりまでやって来たか、なんていうのは上の事情だからこの際とっとと横に放り出す。まあウチの国は大統領が戦闘機で空母にやってくるような国だから、その辺はあまり気にしない方が良いよ、マジな話。


「私は非戦闘員だって言ってるじゃない!」


 そして同乗していたのが中将閣下の大切なパートナーのバーナード少尉殿。


 彼女は日本人とアメリカ人のハーフで今回は通訳として連れて来られたらしい。そんな彼女は軍医、つまり対G訓練を受けていない。そんな彼女を乗せているのに離陸して十分もしないうちの宙返りなんてしたら、そら怒るわな。ちょっと怒られて痛い目に遭えばエエねん、あの人も。


「ほらほら、日本の皆さんが見てますよ、お二人さん。もうちょっとお行儀よくしないと」


 俺の言葉に二人は慌てて居住まいを正す。もうガキかあんたらは。とにかくだ、これで暫くは俺は自由の身。久し振りの日本で自由時間を満喫できる、ってことはだ。


『お好み焼きく腹一杯食うたんねーーーーんっ!』


 あ、しもうた、思わず声に出して叫んでしまった、しかも日本語で。そして目の前にいた従兄弟が「バカかお前は」と呟いた。



+++++



「だから何で挨拶する前にお好み焼き食うたんねんなんだよ。お前のせいで米国海軍の威信が駄々下がりだろ、あれ」

「康平、それちゃう。食うたんねん、や」

「どう違うのかサッパリ分からんぞ……しかも何でお前の方が関西弁に詳しいんだよ」

「そら俺が浪速っ子やからやな」


 上との折衝は中将殿に丸投げ。整備士は米軍の方から派遣されてきた連中にお任せ。そんな訳で俺は今日から数日間は自由の身、ヒャッホーッ!!


「そんな訳でやな、俺のソウルフードなお好み焼きが食いたいねん。この基地の近くに美味しい店ってあるん?」

「ねーよ」

「なぬっ?! ここは日本なのにお好み焼き屋が無いのか?!」

「無いわけじゃないが、お前が納得するようなものを出す店を知らないってことだよ。お好み焼きだったら何でもいいわけじゃないだろ?」

「そら俺としてはや、大阪まで行って食いたいねんけどな、その移動はアカンって言われとるし」

「ふむ……」


 康平は考えこみながら俺の愛機の方に目をやった。そこにはこいつと一緒に俺達を出迎えてくれた整備士のお姉ちゃんがいて、目をキラキラさせながらこちらの整備士から色々と話を聞いていた。


「ほんまに好きなんやな、飛行機が」

「そうなんだよ。F-2戦闘機の整備員なんだが、自分が整備する機体に太郎ちゃんなんて名前をつけるぐらい愛しているらしい。姫ちゃん、ちょっと良いか?」


 呼ばれたお姉ちゃんは残念そうな顔をして機体から離れ、こちらにやって来た。


「なんでしょう」

「姫ちゃん、お好み焼きの美味い店、知ってる?」

「お好み焼きですか? だったらうちの近所にある商店街にご主人の実家が大阪でこちらでお店をやってるってとこがありますよ。あそこはなかなか美味しいと評判です」

「つれてってーな、そこ」

「はい?」


 首を傾げる仕草がごっつう可愛い。日本人てほんまに童顔な子が多いわあ……。


「おい、変な目で姫ちゃんを見るなよ。この子にはちゃんとした彼氏がいるんだからな」

「なんや残念。で、姫ちゃん、俺をそのお好み焼屋さんに連れてってくれるか?」

「まあ、良いですけど……いつ行きましょう」

「今から」

「へ?」

「もう食べとうてなあ……ここ一年ほど食べてないねん。そろそろ禁断症状が出そうやねん」


 どうしましょうと言う顔で康平の方を見る姫ちゃん。


「……これも日米交流? 許可もらってくるから連れていってやって」

「それは構いませんけど……」

「おおきにぃ、姫ちゃん最高やん。改めて自己紹介しとくな、俺はロイ・パトリック・バートレット。康平と同じ大尉さんや」

「その代り条件があるぞ、ロイ」

「なんや」

「姫ちゃんの彼氏、つれてけ」

「えー? なんでやねん」


 なんで男までついてくんねんっ?!


「もしかして姫ちゃんの彼氏って超束縛系?」

「……なんでそんな日本語知ってるんですか」

「え、ビンゴかい」


 姫ちゃんこと藤崎水姫はF-2戦闘機の整備員を任されている三等空曹。その姫ちゃんが整備している戦闘機に乗っているのが彼女の彼氏な社一等空尉、こっちで言うところの大尉ってことやね。自分の彼女に愛機を整備してもらえるなんて最高やん?


 で、そのラッキーな彼氏は今俺の前でムッツリしたまま座っている。あー……日米交流する気がまったくないのんなあ、この男。まあ俺はお好み焼きさえ食えれば細かいことは気にせえへんけど、もうちょっとその仏頂面なんとかならへん?


「ここでパンパン叩いたらアカンで? 焼き上がるまでジッと我慢の子や」

「そうなんですか? でもこれだけ厚みがあったら火が通らないんじゃ?」

「ゆっくりじっくり焼くのが大阪流。その間は他のモン食べたりお喋りしたりして待つねん。お姉ちゃん、ビールまだあ?」


「はーい、ただいまー」


 お店のお姉ちゃんがビール瓶とコップを持ってきてくれた。お、可愛いやん? こっちの視線に気がついたのかちょっと恥ずかしそうに会釈するとごゆっくりと言ってテーブルを離れていった。


「ロイさんって本当に日本語っていうか関西弁がお上手ですね」

「そりゃね、小さい頃からずーっとあっちに住んどったから」

「お父様は海軍の方ですよね、それがどうして大阪に?」

「俺のオヤジのネエチャン夫婦が大阪の教会の牧師でな、俺はそこに預けられててん。その頃のオヤジは殆ど洋上勤務で子供の俺を一人にはでけへんってことで」


 御苦労なさったんですねーと同情的な姫ちゃん。父親と離れて暮らすのは寂しいこともあったけど、それだけやないよ? お陰で今のオカアチャンとも出会えたわけやし? そして可愛い妹も生まれて家族が増えて俺的には結構幸せな人生なんやけどね。


 そして焼き上がったお好み焼き。お好み焼きとビール、最高。そんな時に携帯が鳴る。


「ん? あ、マリンや。妹やねん、ちょっと失礼。もしもーし?」

『お兄ちゃん、こっちに来とるん?』

「おお、今な、お好み焼き食うとんねん、美味いわー、やっぱ日本最高」

『何でうちに連絡せえへんの?!』

「えー、だって新婚さんの邪魔したらアカンやん? お兄ちゃん、これでも気を遣ってるんやけど?」


 妹のマリンは今年の初めに高校から付き合っていた彼氏と結婚した。俺とオヤジは任務の都合上 式だけにしか出席出来なかったんだが、相手の男は東京都庁の職員でとても真面目そうな奴やった。マリンみたいな口の悪いパッパラパーには勿体ない気がしたんはここだけの秘密や。


『オトウチャンへのお土産、頼まれてたんよ? 渡すから食べ終わったら家に来て?』

「ええのか?」

『当たり前やん。悠人もお兄ちゃんに会えるん、楽しみにしとったんやで? 今は仕事やけど夕飯は一緒に食べようって』

「ありがとなー。ほな、お邪魔させてもらうわ」


 こちらを愉快そうに見ている姫ちゃん。


「妹さんも関西弁なんですか?」

「あいつ、高校からはこっち住みなんやけど全く方言が抜けへんってよく嘆いとったわ」


 店を出る時、姫ちゃんは今日はご馳走させて下さいと言って俺に払わせてくれへんかった。男としては女の子に奢らせるのは抵抗あるしそう言うたんやけどな。そしたら横の彼氏を指して、この人に奢らせますから心配ご無用やて。なかなかの策士やね、姫ちゃん。お店では必要最低限の言葉しか発しなかった彼氏さんもその点は納得済みらしかった。


「ありがとなー。ほんま美味しかったわ、ここのお好み焼き」


 時間があったらマリンと悠人を連れてこようと思ったのでレジの横にあったお店の名刺を一枚貰っておいた。


「妹さんのお宅の場所は分かるんですか?」

「この駅の改札口までは迎えに来てくれるらしいんやけど」


 マリンが送ってきた携帯メールを姫ちゃんに見せた。


「少し遠回りになるが俺達が送っていけば問題ないだろ」

「そうですね、それが一番かも」


 お、やっとまともに喋りおったわ姫ちゃんの彼氏。そんな訳で三人でその駅まで行くと改札口で別れた。立ち去る二人の後ろ姿を見送っていると、姫ちゃんの彼氏さんが姫ちゃんの肩に手を回して引き寄せて何やら愚痴っているのが分かった。仲がええねんな、一人寝が続いている俺としてはちょっと羨ましいわ。



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