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リコレクトコード  作者: 有須乃
~第二幕:未知の歴史へ導く者
19/26

【外伝4】国を繋ぐ絆

 【外伝4】国を繋ぐ絆は…リオン、エクナ、ラルファースが初めて出逢った日…

 想い出の話です。昔から幼馴染みの友達で仲の良い三人が、

 どこでどんな出逢いをしたのか…。

 本編ではちょっぴり大人(?)な三人ですが、幼い頃はどうだったのか…。

 リオンとエクナの両親、ラルファースの両親…

 お妃様がふたり揃い、四人でいるのはここで初めてですね。

 ちょこっとですが、ふたりの人柄もまとめて楽しんでください!


 この作品は、ラルファース視点です。


 「これで…、いいですか?」


 長い金色の髪をひとつに束ね、白を基調とした、金や赤の装飾の映える豪華ごうか絢爛けんらん

 服を身にまとって姿を見せると、父も母もぽかんとした顔をした。

 でも、すぐにふたりはお互いに顔を見合わせてから笑顔を浮かべて、

 本当に嬉しそうに駆け寄ってきてくれた。


 …よかった。どうやら似合ってるみたい。


 実は、今日はこれからとても大事な用事があって、僕は普段は絶対に着ないような、

 とても綺麗で、豪華で、煌びやかで、厳かな服…。

 つまりは、皇子として人と会う時に着る、儀礼用の服に初めて袖を通していた。


 ううぅ…。なんか、すっごく落ち着かない……。


 「ラルファース、あなた、本当に髪を束ねると若い頃のお父様にそっくりね。」


 「いや、私よりずっと好青年かもしれないぞ。」


 ふんわりと優しい笑みを浮かべてそう言ってくれたのは、

 僕の両親、ティアノ母様とバイド父様。

 ふたりが幸せそうに笑っているから、緊張していた僕もだんだん落ち着けてきて、

 少しだけ自信も持てる気がして一緒に笑っていた。

 初めての服や格好にちょっと恥ずかしいけれど、

 同時に、実は今日の用事はとても楽しみでもあった。


 「リオンくんも好青年だと聞いたが、ラルファースもこれなら劣らないだろう。

  ん? …ははは。なんだ、緊張してるのか?胸を張れ。」


 背中を軽く叩かれて気合いを入れられてしまった。

 …そんなに顔に緊張が出てたのかな?


 そう。今日は十年くらいぶりにアルメリア王国のふたりと会う日。

 僕たちがまだ幼い頃、それも記憶が残らないくらい昔に一度会ったことはあるみたい

 なんだけど、その日は、お互いの国の王子と王女が初めて全員揃い、

 出会った記念みたいな会席だったみたいで、

 三人とも生まれて間もないくらいのこと。アルメリアのエクナリス王女なんて、

 本当に生まれてすぐの赤ちゃんだった時みたいだし、

 記憶どころか物心もついてないよ…。


 それからだいぶ経って、今、僕は十三歳になった。


 きっとリオン王子も同じくらいの年だって聞いているし、

 エクナリス王女はちょっと下くらいだから近い年だけど、

 記憶がない頃に会っているんだから、二度目なんて言われても実感ないし、

 本当の気持ちを言うと、…初対面にしか思えない。

 そういえば、今日の会席は僕たちの面識を高める為…

 とか父上が言っていた気がする。

 大きなパーティーとかの予定はなく、それはまた社交界デビューとかでやるから、

 その前に挨拶だけでも、ってことみたいでそれだけは安心していた。

 そして、リオン王子たち自らがこちらに出向いてくれるようで、僕は迎える側。


 …まだ出向く側だったら、こんなに緊張しないのになぁ…。



 約束の時間になって城門の方が騒がしくなる。

 先に迎えに行っていた父上とオーシャン様らしき男性の声、

 母上とラリティア様らしき女性の声も耳に届いてきた。

 父上と母上にとって、オーシャン様とラリティア様も古くからの知り合いのようで、

 久々の再会に盛り上がる声を聞いて僕も楽しみになってくる。


 ―――…んだけど………。


 僕は今、たくさんの豪勢な食事が並ぶ会席会場になっている部屋で、

 ひとり、みんなの到着を待っている。

 「主役は最後で待て」。そう父上は言っていたけれど、

 正直なことを言えばサプライズをしたいだけだと思う。

 それもそんなサブライズじゃない、着飾った僕の登場という。

 「はあ…」となんてため息をついたからか、

 執事のひとりに心配されてお水を淹れてもらってしまった。

 平気だと謝りながらも一口だけ水を流し込めば、不思議と落ち着けてきて、

 さっきの謝罪をお礼に変えて返せば、執事はほっとしたように微笑んでくれた。

 やがて、足音が近付いてくるのが聞こえてきて、意を決して椅子から立ち上がり、

 出迎えの姿勢に入る。三回のノックが届き「はい」と返せば、

 出迎えに出ていたメイド達の手で扉は開かれ、

 アルメリアの方々が一度深く頭を下げてから入室する。

 その後ろから父上と母上が続き、みんなが揃ったのを確認してから、

 一度静かに大きく深呼吸をする。

 そして、僕はいつも通りの笑顔を向けて、ゆっくりと歓迎の意を込めて声を流す。


 「ようこそいらっしゃいました。

  オーシャン様、ラリティア様、リオン王子様、エクナリス王女様。

  グランヴァル帝国皇子、ラルファース・アガルタです。

  こちらまでお越し下さり、ありがとうございます。

  どうぞ、こちらへお掛けになってください。」


  ◇


 どうやら僕の出迎えは成功したようで、そのまま和やかに会食へと進み、

 アルメリアのみなさんはとても楽しそうに父上と母上と談笑している。

 むしろ、大人たちの方が子供の僕たちより楽しそうだった。

 食事も大方終わり、今は食後の談笑に花を咲かせている。

 大人の四人は、やっぱり元々昔馴染みのせいか会話が途切れそうにない。

 その間の僕たちは、一緒に両親たちの話を聞いているくらいで、

 三人での話をするには場所が悪かった。

 でも、せっかく会えたんだし父上たちも目一杯楽しんでほしい。

 そこで僕はある場所を思いついた。


 「あの、リオン様とエクナリス様。よろしければ中庭へ移動しませんか?

  自慢の場所で、ぜひとも案内したいなぁ…と。」


 素直な言葉でふたりに声をかけると、ふたりは仲良く顔を見合わせて、

 エクナリス様が目を輝かせながら「行く!」と僕を見て答えてくれた。

 明るい声で答えてくれたのはエクナリス様だけだったけれど、

 隣でリオン様も嫌な顔せず頷いてくれたので、

 つまりはオーケーということ、…だと思う。

 僕は先に立ち上がってから父上たちに庭に行ってくることを伝えると、

 その言葉と意味に父上たちは「あっ」と声を揃えた。


 「すまん。主役はお前達だったのに…。」


 「子供達に気を使わせてしまうなんて、俺達もまだまだダメだな!」


 父上に続いてオーシャン様まで言い出すものだから、さすがに言い出した僕も

 申し訳なくなっちゃったけれど、友達と話したい気持ちはすごくわかる。

 だから僕も庭を提案したんだもの。


 「いえいえ。みなさんにとっても久々のゆっくりした場ですし、

  お気になさらず目一杯楽しんで下さい。

  僕たちも負けないくらい楽しんできますから!」


 自然と出た満面の笑みを見たからなのか、

 一瞬場が凍り付いたように静かになってしまった。


 あれ、何かまずいこと言ったかな…!? どうし――――


 「かっ……、かわいいッ!!」


 「!?!?」


 かっ、かわいい!? 僕が!?


 突然ラリティア様がそんな言葉を叫ぶから戸惑ってしまうし、

 驚いてどうしたらいいのかもわからなくなってしまった。

 それにラリティア様って、たしか戦乙女(ヴァルキュリア)と呼ばれるだけあって、

 強くて凛々しくてとても綺麗で…。

 そんな人にそんなことを言われたら、驚きを通り越して恥ずかしくなってしまう。

 赤面する僕を無視して「だろう?」なんてイタズラに笑う父上を見て、

 僕は咄嗟とっさに、とにかく早く逃げたくて、

 リオン様とエクナリス様の腕を掴んでは「行こう!」とだけ言って部屋を出た。


 恥ずかしくて恥ずかしくて、無我夢中でそのままズンズンと庭を目指して歩く僕に、

 後ろから声がかけられる。


 「…すまなかったな、俺の両親が…。」


 さっきの食事での自己紹介以来の声にハッとして、腕を離しては急いで振り返る。

 青色と銀色の綺麗な王子服と、黒のマントを羽織ったクールな雰囲気。

 濃い紫色の髪はサラリとしたストレートで、

 とても美男だと男の僕から見ても何度もそう思う。


 ちょっと無愛想? で、口数も多くない?


 そんなリオン様があまり変わらない表情ながらも、

 申し訳なさそうに緑の目を伏せて呟いた。「あ、きっと普段から無愛想?」だなんて

 失礼ながら思うけど、悪い人ではないとすぐわかる。


 「ううん、平気。それに僕も腕引っ張っちゃったし、両親もごめんなさい。」


 「気にしないでくれ。俺が逆の立場でもそうしてる。むしろキレた。」


 リオン王子の淡々としたクールな話し方の中、

 キレた、というかなり大雑把な言葉を聞いて吹き出してしまう。

 何かお互い似た者同士の両親を持って、似たことで悩み、

 似たように謝る自分たちに笑えてきてしまった。

 そのまま軽く話しながら歩み進めれば、すぐにその視界に目的地の庭が見えてきた。

 すると、その庭が見えた瞬間、エクナリス様がさっきより明るい声を上げた。


 「お庭って、もしかしてここ!?」


 「うん」と振り返りながら答えた時、エクナリス様はキラキラした目で

 笑顔を浮かべて庭に興味津々みたい。そんな姿に嬉しくなって

 僕は足早に庭のテラスへの扉を開き、ふたりをテラスへ座らせるよう招いた。

 庭に入ってすぐ出迎える花のアーチや噴水、

 周囲に咲き誇る様々な色の花をふたりが見渡しているその間に、

 テラスの近くに設置している小さな調理台でお茶を淹れる。

 その時に遠くの方で執事の…、ああ、さっきの水をくれた執事が

 酷く焦ってこちらへ駆け寄ろうとしていたのに気付いて、

 それを小さく手で合図を出して断れば、「大丈夫」と口パクで伝えて笑ってみせる。


 お茶くらい、僕だって淹れられるよ?


 三人分のお茶を御盆に乗せてテラス席へ戻れば、

 エクナリス様はまだ戻ってないみたいだけど、リオン様はもう席で落ち着いていて、

 戻ってきた僕と目が合う。すると、すぐに椅子から立ち上がって歩いて来ては、

 僕が持っている御盆を受け取る。


 「これは俺が運んでおく。…まだそっちがあるんだろう?」


 そう言って調理台に残るひとつのお皿に目をやった。


 …すごいなぁ、よく気が付く人なんだ。


 そう感心しながらお礼を言って任せて、僕はそのお皿を取りに戻る。

 すぐに取って戻ってくると、まだ席にはリオン様しかいなかった。

 丁寧に置かれたティーセットを見れば、不思議とその人の品の良さ、

 配慮が見えるから本当に不思議。

 僕はその丁寧なセッティングを壊さないようにお皿を置けば、

 リオン様の正面の椅子に腰掛けて辺りを見渡す。


 「エクナリスならあそこにいるぞ。」


 リオン様が指差した場所は、花のアーチの隣に咲く、

 淡いピンク色の花を讃える高い木。

 東の帝国の土地でしか生息していないと言われる、桜という樹木。

 僕も花の中で一番好きなんだけれど、他国の人の目にはどう映るのだろう?

 …でも、どうやら悪くは見えていないみたい。ちょっとだけ嬉しくて

 笑みを浮かべていたら、リオン様がまた椅子から立ち上がっては、

 エクナリス様の方を見てから次に僕を見た。


 「呼び戻してくるよ。」


 短く言っては返事も待たずにスタスタと行ってしまうので、

 僕もついて行くことにした。

 桜の木は満開で、傍に寄れば寄るほど花びらは多く舞い散り、

 その淡い桜色の中エクナリス様は立っていた。

 連れ戻しに来たリオン様もその一面の桜と舞い散る様子に目を奪われて、

 桜色の世界に心を奪われてしまっているようで周りを見上げていた。


 「すごいな…。」


 「ねっ、すっごいキレイでしょ?

  はぁ~…いいなぁ…、なんて花なんだろう…?」


 エクナリス様は桜から一瞬すらも目を離さず呟いた。

 多分、声を出したリオン様のことも声で認識した感じだったから、

 僕まで来ていることに気付いていないんだろうなぁ、と思う。


 だってこの花の名前を、僕が知らないわけもないじゃない?

 ………にしても、この兄妹。本当に綺麗なふたりだなぁ。


 なんて、桜舞う世界の中に立つ王子と王女の後ろ姿を眺めながら、

 僕は小さくも綺麗な花を宿した枝を手にする。


 「この木は、桜っていうんです。傷には弱いけれど、すごく生命力の強い木で、

  暖かい地域なら問題なく育つんですよ。」


 にこりと微笑んだまま枝を手に答えると、ふたりとも本当に穏やかな表情で

 話を聞いては桜を見つめていた。

 会席って誰だって少しは緊張するし、今だけでも自然体で楽しんでくれればいいな。

 なんて思いながら、心からの笑顔と穏やかな感じでいられる自分も

 リラックスしてるのかな、と実感できた。


 …なんだろう、このふたりといると安心するなぁ。


 しばらく桜を眺めていたリオン様だけど、

 ふと我に返ったように見上げていた顔を下ろす。


 「…ラルファース様がお茶を淹れてくれたんだ。戻るぞ。」


 「本当!? 行くーーっ!」


 リオン様の静かな言葉にすぐさま反応して、そんな静かさを吹き飛ばすような

 声と笑顔で、嬉しそうに目を輝かせて僕を見たエクナリス様に大きく頷く。


 ……かわいい人だなぁ。…お兄さんクールだけど。


 テラス席に戻って三人でテーブルを囲ってお茶を楽しんで、会話に花を咲かせる。

 ものすごく落ち着いた心地のいい時間に、僕は完全に緩み切っていた。

 その時に、エクナリス様が幸せそうな顔でリオン様に何か無言の意思を訴えると、

 続いてリオン様もお皿のクッキーに手を伸ばし、

 一口かじると少し驚いたような声をあげる。


 「…うん。俺達のメイドの菓子より美味いな。」


 「でしょ!? これすっごくおいしいよね!」


 幸せそうに話すふたりを見ていて兄妹っていいな、と思ったけれど、

 すぐにそんな考えはどこかに置いて、リオンの言葉に苦笑いしながら言葉を返す。

 メイドのよりおいしいって……


 「さすがに女の人のお菓子には敵わないよ…。

  でも、ふたりの口に合ってよかった。

  リオンも甘いもの平気そうだし、がんばって作った甲斐があったよ!」


 と。…突然の沈黙…。

 ……えっ、僕、今緩み切ってて自覚無かったけど、今何かまずいこと………。


 「―――――あ。」


 今、ハッキリとリオン様のこと呼び捨てにしちゃったよ!!

 しかも、いつの間にか私語で友達感覚で話しちゃってるし!!

 ああ、父上母上ごめんなさい!

 僕にはまだ他国交流は早すぎたようです…!!


 様々な、やってしまった!という失態を晒した自分に殺意と未熟さを感じ、

 頭を抱えて静かに、それでも激しく後悔に苛まれた。


 さあ、リオン様。

 こんな僕を叱咤するならしてください!

 未熟な僕ですみません!あなたの冷静さを勉強させてもら――――


 「……………くっ、っははは。」


 僕の頭上、正面から、突然堪え切れずに飛び出したかのような笑い声が届いた。

 恐る恐る顔を上げると、目の前ではリオン様が軽く口に手の甲を当てて笑っていた。

 その隣のエクナリス様も上品にくすくすと笑っていて、

 もう…何がどうしたのかよくわからなかった。


 「…いや、すまない。ちょっと突然で驚いただけなんだ。

  お前は大人しそうで、控えめな人だと思っていたが、そんなに取り乱すんだな…。

  …でも、それがいい。」


 まだ笑いの治まらないままの声で慰めのような事を言われたものの、

 そ、それがいいってどういうこと?

 何が何だかわからなくて、僕はただ頭を抱えたまま

 頭上に「?」を浮かべることしかできなかった。


 「同い年なんだ。それなのに丁寧に話されると落ち着かなくてな。

  ああ、あと『様』もいらん。最初っから俺もこんなだっただろう?

  ―――気付けよ、ラルファース。」


 不意に最後だけ落としたトーンで言われた呼び捨ての声。

 鋭くも柔らかみを宿した瞳と言葉に、言い様のない嬉しさが込み上げる。


 なんて優しくも強い人なんだろう…。

 もうこの年で王子らしい風格も余裕もある。

 正直、僕には未知の領域に行っている人だと思った。

 だけど、羨ましいくらいの広い心と強さを持った人だとはわかる。

 同い年とは思えないくらい大人びた彼が、

 とても頼もしくて尊敬してしまうほどだった。


 「もちろん、わたしにとっては年上だし、気軽に普通に話してくださいね!

  あ、あと、わたしのことはエクナって呼んでください!」


 いざ続けとばかりにエクナリ…いや、

 エクナは満面の笑みで明るい声を向けてくれる。

 本当にこのふたりはすごい人だなぁ、敵わない…。と、本心でそう思った。


 クールだけど優しく、頼もしくて良く気の回るリオン。

 明るくて天真爛漫てんしんらんまんで、ふわふわとした可愛いエクナ。


 この日、この出会いが僕にとって一生の宝物になったのは事実。

 僕たち三人の出会いに感謝して、その日のお茶会を心ゆくまで楽しめば、

 もうそろそろ…お別れの時間も迫っていた。


 「そろそろ時間か…。」


 リオンが沈もうとする太陽の方向を眺めれば、うっすらと夕焼けが空を彩っていた。

 あっという間だった気がするけれど、とても大切で充実した時間になったのは

 三人とも同じだったみたい。

 何となく、夕暮れがお別れって強く思わせてくる感じがしてしんみりしちゃうけど、

 それは仕方ない感情なんだろうなぁ。

 決して一生の別れなんかじゃないんだから、と思ってもそう感じるよね。


 「でも、本当にお茶もお菓子もおいしかったー!

  まさかラルファースさんの手作りなんて驚いたけど!」


 「男の手でも、これほどの味が出せるものなんだな…。」


 「そ、それはお兄様がダメなだけでしょ…。」


 「うっせぇ。」


 う、うっせぇ…。

 王子様のまさかの一言に変な笑いが出てしまう。

 でも、どうやら僕のお菓子は好評のようでそれだけでも満足だった。

 なんか、僕ばかりが幸せ気分だな、と申し訳なくなった時、

 ふとあることを思い出した。

 「ちょっと待ってて」とふたりをまだ帰らせないように止めれば、

 僕は席を立ってまず調理台に行って、次に桜の木を見渡して観察する。

 突然あちこちうろうろする僕の行動を変に思ったのか、

 すごく背後に視線を感じるけど、桜のひとつの枝に手をかければ

 丁寧にその枝を切り落とし、水の入った花瓶に差す。

 傷に弱い桜は折るとそこから菌が入って弱る時があると聞いていたから、

 執事が手入れで使っていた薬を塗って処置は大丈夫のはず。

 最後に「ごめんね、でも友達にあげたいんだ」と桜に告げてふたりのところへ戻る。

 ふたりに桜の枝の入った花瓶と、お菓子の入った小袋を渡せば、

 最初こそ戸惑っていたけれど最後にはちゃんと受け取ってくれた。


 「桜は陽の当たる地面に植えてあげれば、アルメリアでもちゃんと育つはずだよ。

  これは、今日のお礼。本当に楽しかったんだ!ありがとう!

  ……じゃ、そろそろ父上たちの所に戻ろっか!」


 本心のままに明るくそう言って、僕たちは夕暮れに染まる庭を後にした。

 会席場に戻るまでも話は尽きなくて、行きの時とはまるで違う三人みたいだった。



 父上やオーシャン様たちと合流すれば、四人から「何か雰囲気が変わった」と

 言われるくらい僕たちは良い友達になれたのかな、なんて思う。

 そのまますぐにお見送りへと城門まで出て行き、最後の挨拶として

 それぞれ思い思いの言葉を口にしていた。


 「ラルファースくんも、リオンとエクナが世話になったな。」


 「こんな素敵なお土産もらっちゃって…本当に嬉しいわ。

  ラルファースくん、ありがとう。これからもふたりをよろしくね。」


 両親同士で言葉を交わし終わったオーシャン様が、

 僕へと笑顔と共に言葉をかけてくれた。

 その隣で、ラリティア様もすごく綺麗な笑顔で微笑んでくれていた。


 「いえ、僕もふたりと友達になれて本当に嬉しかったです!

  すごく楽しい時間を過ごせましたし、またいらしてください!」


 ふたりの優しい笑顔につられて、僕も笑顔でアルメリアのみなさんに言葉を返せば、

 スッとリオンが手を差し出してきた。


 「今日は楽しかった。ありがとう、ラルファース。

  …近い内に、また会おう。」


 リオンの静かで落ち着いた声に一時のお別れの寂しさと、〝また〟と言ってくれた

 嬉しさで涙がにじみながらも頷いて、しっかりとその手を握り返す。

 その手の上にエクナも手を乗せて、三人で握手を交わした。


 「うん! またね、リオン!エクナ!」


 そうして、僕たちの初めての出会いの日は夕暮れと共に終わりを告げた。



 ………正確には初めてじゃない、なんて言わないでね?


 本当に良い人たちとの出会いに感謝して、僕はこの数年後に、

 社交界デビューという緊張の時を迎えるけれど、全く緊張も臆してもいなかった。


 それはきっと、アルメリアの方々…。

 リオンとエクナという、大切な人がいてくれたから―――。


 僕はきっと、これからもたくさんの人と出会い、

 時に嬉しく、時に傷ついて成長していくんだろう。

 それでも、二人がいればどんな苦難だって越えていける。


 どんなにツラく、苦しく、酷いことがあっても、どんなに僕が倒れそうになっても、

 きっと二人が支えてくれる。

 支えられてばかりは嫌だけど、そう信じて、

 この帝国の明るい未来へと、歩いていくんだ―――。




 幼い三人が初めて出逢い、ひとつの桜という花に友好の絆を見たお話でした。

 ラルファースは結構庶民的で、家事も器用に熟す良い主夫になりそうですね(笑)

 ほんわかした三人の様子を感じてくれたら嬉しいです。


 それでは、引き続き本編をお楽しみください!

 ありがとうございました!

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