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リコレクトコード  作者: 有須乃
~第一幕:崩落の日常
15/26

【第十章】降りる一幕、その裏側の夢は


 アルメリア城で本性を見せたライアと敵対したリオン達。

 狂気を吹き付ける彼女が言い放った目的は、ただの侵略の為の毒殺ではなかった。

 ギラードと手を組んで狙うは国の隠された禁忌、

 『封石』と呼ばれる太古の魔神を封じる石だった。

 その封石を揃え、今度こそ自らのコントロールのもとに魔神を蘇らせ、

 人類に粛清を与えるという恐るべき世界征服だった。

 悪意の目的を成し遂げようとするライアを辛うじて撃退し、

 毒にせっていた国王オーシャンを救い出し、懸命な治療を急いだ。

 撃退を達成したのはリオンやルキア、フォルテやカレン、

 そしてエクナとオーシャンの力あってのこと。

 しかし、その力の起爆剤となったのは、

 フォルテの持っていた袋から放たれた光の筋。

 魔水晶と呼ばれる魔力を封じておく水晶だというが、

 それを解毒の茶葉と共に袋を渡したのはセルディアだった。

 今はアルメリアにおらず、深手を負って倒れた彼女。

 魔水晶の存在、光の筋。

 様々な謎は解けなかったが、それを聞く為にも、

 無事でいてくれることを願っていた…。




 「んっ…。……は、ぁ…っ。」


 隣で顔を歪めては、やけに色っぽい息をつく。

 そんな姿を間近で見ていた。

 ふたりの距離は本当に近く、頭を並べ、くっつきそうなくらい近い。

 真隣でひとりがそんな至近距離、そんな吐息をつけば、もうひとりがクスリと笑う。


 「ふふっ。まったく、ひどく色っぽい声ですね。」


 倒れないようにそっと背中に手を添えて、

 その声のぬしを支えるようにして笑ったのはアーバントだった。

 そうなるともちろん、支えられ、色っぽい声を発したのはセルディアだ。

 そのふたりの間では淡い金と青の光が揺らいでいたが、

 すぐにその光は吸い込まれるように消えてしまった。

 光が収まるのを見届ければ、セルディアをゆっくりとベッドに横たわらせる。

 するとセルディアはアーバントを見上げる形となり、

 変な声が出たという自覚があったのか、

 少しだけ気まずそうに顔をらして視線を外す。

 何もなかったかのように装いながらも恥ずかしがる様子を見て、

 更に微笑みを増すアーバント。微笑みながらもからかうことはせず、

 しっかりと布団をかければ自分は側の椅子へと腰掛けた。


 「わたくしの力だけでも魔水晶の起動はできましたのに。」


 クスクスと小さく笑って言えば、セルディアは少し困惑したようにため息をつく。

 しかし視線はらしたままだ。

 そう、フォルテの袋から放たれた光の筋。

 その正体はこのふたりの細工によるものだった。

 ライアという名を聞いた時からふたりには心当たりがあった。

 それをセルディアは実際に口にしていた。

 だが、アーバントは実際には口にしていない。が、王城でふたりが出会った時、

 アーバントがライアに対して不気味な対応をしていたことを覚えているだろうか?

 あの時に薄々勘付いていたのだろう。

 そのアーバントが魔水晶を用意し、自身の魔力を込めておき、

 いつでも起動できるように準備していたようだ。

 おそらく、水晶を仕込んだタイミングはセルディアが倒れた時だろう。

 そして、リオン達が重力の魔法に悩まされていた時、

 ライアの魔力を感じ取った魔水晶が、力のぬしであるアーバントへと波長を送り、

 アーバントが起動したという。その起動の際に、気付いたセルディアが

 起動と魔力の強化として手伝った、ということだった。

 それが今の状況だ。

 「無理しなくても…」そんな彼の本心を読み取ったかのように、

 気まずさでらした視線はそのままに、苦笑いに似た笑みを小さくこぼした。


 「手伝うために力を貸そうが貸すまいが、しばらくは動けない…。

  今こちら側で動けるのはアナタだけなんです。

  こんなところで要らぬ負荷はかけられませんから…。」


 横になると楽なのか、しっかりとした口調で話し終えてはごろりと背を向ける。

 背を向けられてしまった為もう表情は伺えないが、

 しっかりとした口調で…と言っても腹を刺されている為、声に強さはない。

 どちらかというと、しっかりとした意思のもと放たれた声といった感じだ。

 今までの強い口調ではなく、弱さを隠すような少し掠れたような声色は、

 彼女が元から持つ独特の雰囲気と相まって儚ささえ感じさせた。

 その声を聞いてか聞かずもか、アーバントは怪我をかばう意味とは違う、

 掠れた声の意味を感じ取っていた。

 そしてその〝何か〟を、どこか悲しそうな表情へ変えて控えめに笑って表しては、

 素直なままに言葉として投げかけてみる心を決めた。

 それは自分に対しても残酷な意味を持つ言葉。

 だからこそ、アーバント自身も心構えをしてしまった。

 数秒の静寂のを空けて、背を向けてしまったセルディアに問いかける。


 「…死んだと思ってましたか?」


 物悲しそうにしっとりと静かに言えば、

 背を向けていたセルディアのその背中がピクリと跳ねた。

 こちらを振り返ることはしなかったが、背姿でも何となくわかってしまう。

 「死んだと思っていたし、今も本人と認めていない」。

 そう、言われた気がした。

 さすがにあれほどの強大な金の光の力を扱う姿や献身的な態度、

 世話焼きで心配性な大柄の男性となれば本人だとわかっている。

 それでも、セルディアにはなかなか認めない理由がある。

 それは彼女の立場上芽生えてしまった癖であり、防衛本能。

 もちろんその本能のことをアーバントは知っている。

 むしろ、長年執事として仕えてきた彼だからこそ知っているともいえる。

 まったく返事を返す様子もないセルディアの背中を眺めては、

 諦めたのかわかりきっていたのか、

 ふわりと優しい笑みを浮かべてみせるアーバント。


 「わたくしは本物のアーバント・ゼロ・ハウリオン。

  ルシフェリア星霊せいれい王国の公爵であり、

  貴女を戦火から守って死んだとされた執事です。

  わたくしも、何故生き延びたのか記憶にありませんが…本物であると証言します。

  ……セルディア王。もう二度と、お一人には致しませんよ。」


 振り返らず反応を返さないセルディアに見られていなくても柔らかい笑みのまま、

 同じくらい柔らかい口調でハッキリと言い切る。

 少しのの後、その言葉を噛みしめたかのタイミングで

 セルディアの方から喉の詰まるような、隠しこらえていた声が漏れたような音がした。

 微かに肩が震えており、少しだけ身を丸く屈める。

 その様子を見て、長年一緒だったアーバントは完全に見抜いていた。

 そう、セルディアが人を認めずに恐れる理由。それは…


 ―――人の死と離別。


 人の死を恐れない人などいないが、セルディアは過去に自国のルシフェリアで、

 目の前で自分をかばってたくさんの仲間いのちが殺されていくのを見せつけられた。

 それでも自分だけは生き残って、その残虐な光景を夢にまで見るほど

 今でも苦しんでいる。その結果、大切な存在を作らない為に孤立し、

 『仲間』や『友』という言葉を一切口にせず、親しい人を作らないのだ。

 …別れる時が酷く苦しくつらいと、身をもって知っているから。


 それなのに、アーバントは死んだと思っていた中、その姿を現した。

 やっと落ち着いて整理がついてきたという中での事だった。

 一目で本人だと気付いて安堵し、嬉しくなった。

 一声だけでも本人だとわかっていたが、

 〝本当は良く似た別人〟、〝意識体で本当は死んでいる〟

 などと言われ、突きつけられようものなら本当に心が壊れてしまう。

 だから一度は認めたものの、すぐに「いや、きっと違う。彼はもういない」と

 思い直しては自分を嘘の心で律してきたのだ。


 それくらい、セルディアという者は強くも弱く脆い存在。

 その弱さと脆さを知っていたアーバントは、自分がいだく本心、

 彼女とは真逆の〝大切だから傍にいたい〟という思いを

 「一人にしない」という言葉で素直にぶつけたのだ。


 「………そう、ですか……。すみません…疑って…。…よか、った…。」


 震えないようにしたかったのか、少し声に力を込めて張ったせいでハッキリと

 震え声が出てしまった。しかも途切れたりして動揺と感情がもろに表れていた。

 「あー。」なんて悔しそうに言えば、目元を腕でごしごしとする。

 強気でクールな頼れる王様を普段は見せているが、

 こういうところは素直に出てしまうのがセルディアという女性だった。

 気が済むまでごしごしとすれば、こちらに寝返り振り返った。

 あまりに数回も擦ったせいか照れたのか、そこを知ることはできなかったが

 目元が赤くなってしまっていた。

 その目元はそのままに、セルディアは横向きのまま胸ポケットをあさっていた。

 そういえば、その胸ポケットはギラードが何か叫びながら狙っていた気がする。

 胸ポケットは肌に触れるし、あまり動作が響かず物が落ちにくく安全だが、

 狙われればどれだけ危険なのか知っているのだろうか?

 …いや、きっと知らない。

 多分前者の〝一番肌に触れていて紛失時に気付きやすいし、すぐ手が届く〟

 という理由で使っているのだろう。

 だが、正直あのシーンをアーバントは目撃し、酷く驚いては血の気が引いたのだ。

 ギラードの攻撃を受けて吹き飛んだセルディアの胸ポケットの方へ、

 ギラードが手を伸ばしていたあの光景に。

 いや、何と言ったってセルディアは女性だからだ。

 ましてや自分の大切なあるじ


 これで本当に大切な物じゃなかったら説教だな。


 と思った時、眼前に差し出されたのはビー玉サイズのふたつの綺麗なガラス玉。

 これには見覚えがあった。

 彼女が何か大切な物を隠し運ぶ際に使う魔術のひとつだと。

 形ある物をガラス玉に閉じ込めて運ぶ術。

 中身は何かと目を凝らしてガラス玉を見つめると、

 そこには細々(こまごま)とした建造物のような物が閉じ込められていた。

 これは、何かの模型だろうか?


 「…何でしょうか?これは模型ですか? 随分緻密な…。」


 「も、模型…!? い、いや、間違ってはいないかもしれないが…。」


 「で、これが何なんですか? まさか、模型を守る為だけにあんな危険な――ッ!?」


 「違う違う! 落ち着いてくださいっ!

  正確には模型ではなく実物ですっ!街ですッ!!!」


 今、一番大きな声が出た気がする。…腹の傷が痛む…。

 アーバントは怒らせると怖いと認識しているのか、つい敬語で返してしまった。

 それより、傷が痛い…。痛みと格闘しているセルディアだが、

 アーバントがハッとしたようにある話を思い出したようだった。


 「街って…確か、皆様口を揃えて王が消したとおっしゃっておりましたが…。」


 「そう、その事です…。確かに私は二ヶ国を消した。でも、ここにあるのが本物。

  …アーバント、これを…元の場所に戻してきてほしい。

  住民の皆さんには全て話してあります…。」


 そう言って、真剣でどこか悲しそうな顔でセルディアはアーバントへと

 ガラス玉を手渡せば、受け取るのを見届けては疲れたように体から力が抜けた。

 状況とやる事を理解したアーバントは、安心させるように笑みを浮かべて

 「お任せください」と一礼を返す。

 その笑顔は安心させる意味もあるが、セルディアが街を消滅させた訳ではなくて

 安心したような意味も含んでいるようだった。

 アーバントの柔らかい笑顔を受け取れば、自然とセルディアにも笑顔が灯る。

 体の力が抜けているからか、ものすごく優しい微笑みへと形を変え、

 今までの強さのない儚く微笑む様子がそこにあった。

 「すみません…ありがとう…」なんて穏やかに続けるものだから

 ドキリとしてしまう。アーバントへと伝えたいことを告げ終わり、

 次にドールへコールするとすぐに「ウゥ!」と元気に現れ、

 街を返還すると説明し、アーバントに同行してほしいと命じる。

 その指示にハッキリと頷くドールにも笑顔を返し、

 「じゃあ…」とアーバントの方へ向き直った時だった。


 不意に、ぎゅうっと抱きしめられる。

 ベッドに横になっているセルディアの傷を労りながら、軽く覆い被さるように

 首の下に片腕を回して肩に手を添え、控えめに抱きしめるアーバント。

 当の本人、セルディアよりもドールが「キャー」というように

 照れてあわあわしていた。


 「う、うん? どうしたんです、アーバント?」


 当の本人セルディアは全く状況がわからず「?」を浮かべたまま、

 赤面する事もなくごく普通に聞いていた。

 …うといのだろうか。

 普通なら照れてパニックになってもおかしくない状態だ。

 セルディアの問いにすぐの返事は返って来ず、

 その体勢のままアーバントは口を閉ざしたままだった。

 からかったり、たかぶったテンションからのおふざけではないとわかる。

 それは、控えめに抱きしめているはずなのに、その手が力んでいるのを感じたから。

 セルディアは、何か別の感情を感じ取っていた。


 やがて、その返事はだいぶ遅れてやってきた。

 顔は肩口に埋められ表情は読めない。

 見ることも出来なかったが、その声は耳元で囁かれるように告げられた。


 「今度こそ、傍でずっと守ると誓う。

  貴女をたった一人にも、死なせもしません…。」


 はた…っ。と、無意識にも涙がこぼれたのはセルディア。

 それは言葉だけが理由ではない。

 酷く苦しく、とてもつらそうな様子で口にしたその言葉は、

 何か悔しさを噛みしめたような、苦しそうな吐息を含んだ

 小さな声で告げられたから。痛いくらいの悲痛が、声に乗せられて届いたのだ。

 理由はわからない。だけど、〝何か〟に触れたように涙があふれてしまう。


 また短い沈黙が流れた後、落ち着いたのか、しばらくしてから解放される。

 その言葉や苦しさの意味はわからなかったが、

 不思議にも解放される時には涙も止まっていた。

 やっと見ることのできたアーバントの表情は、苦しさを微塵にも感じさせなかった。


 「…ふふ。わたくしの代わりに涙を流してくれたのですね。ありがとうございます…。」


 そう微笑んでは涙を拭い取るアーバントはいつもの彼だった。

 …先程の彼はいったい…?


 「それでは、行って参ります。王はどうかゆっくりお休み下さいね。」


 得意のふわりと微笑む表情を浮かべれば窓枠に手をかける。

 慌ててドールが駆け寄れば、二人は窓枠から身を乗り出して外へと飛び出す。

 その瞬間、二人の姿は白い大きな鳥と黒い鳥へと姿を変えて空へと羽ばたいた。

 ドールはもちろんだが、アーバントも普通の人ではない。

 人間と霊類のハーフだから化けることができるのだ。

 セルディアもアーバントも元は人間だが、そこに聖霊せいれいやら霊獣れいじゅうといった、

 現代では馴染みの無い幻獣げんじゅうと呼ばれる、

 ヒトではない、力を持つ意識体が魂レベルで融合しているのだ。

 もちろんこれはルシフェリアでも少数しかいないハーフである。

 ルシフェリアでは常識的に幻獣げんじゅうの知識はあり、

 魂が融合している人がいるということは知っている。しかし誰もがハーフではない。

 ちなみに、普段は黒い執事服と白いマントをしているアーバントだが、

 白く大きな鳥がアーバント。黒い鳥がドールだ。


 誰もいなくなった静まり返る空間を感じ、

 セルディアはひとり、天井をじっと見上げる。

 おもむろに、右手を天井へと伸ばしては手を広げて眺める。


 「…〝わたくしの代わり〟…?

  さっきのは、公爵の感情? …あんなに…苦しいのが…?」


 持ち上げて天井へ開いた右手を、まるで何かを透かすかのように見つめては、

 静かに目を閉じて胸元へと落とす。

 胸元へと落とした右手をゆっくりと握り込む。


 「…ごめんなさい、苦しめて…。でも、聞かせて…。閉ざさないでください…。

  私のせいでも構わない。私はもう逃げない。

  いつか全てを告げる日まで…ここにいるから…。

  …お願い、公爵…。もう、私をかばわな――…」


 瞬間、ハッと目を開く。だが、既に手遅れだった。

 過去のあの惨劇の光景がフラッシュバックして思い起こされる。


 “自分をかばって死んだ人々の姿”。


 無駄だとわかっていても耳を塞ぐが、何かが変わることもなく、

 頭の中をガンガンと鳴り響く声。

 それぞれが一斉に話している為何を言っているのかは聞き取れないが、

 それでも憎悪の感情と怒号やら泣き叫ぶ声だとはわかる。

 思わず目を閉じても、まるでまぶたに焼き付いているかのように離れない光景。

 頭をかかえ、目を強くギュッとつむり唸ることしかできない。


 「ッ…! もう…やめてくれ…。私は…、まだ―――……ッ!?」


 苦しみと恐怖から必死に振り払おうとするが、悪夢は決して逃してくれない。

 前までは夢に見るくらいだったというのに、最近は起きていても不意に襲われる。

 あるじの危険を察知したのか、二匹の屍が現れては心配そうにベッドに近寄る。

 それでも何もすることができず、苦しみと戦う王を見守ることしかできない。


 やがて訪れる最後。

 散々人の精神を掻き回して壊した後の、トドメ。



 「「お前のせいだ」」


 「「無力な王」」


 「「死んでしまえ」」


 「「人殺し」」


 「「許さない」」



 今まで聞き取れなかった中、最後だけはハッキリと聞こえては訴えてくる言葉。

 掻き回されて、ズタズタの精神を壊すには充分過ぎる言葉達。

 しかし、セルディアの精神は壊れない。

 だからずっと、この悪夢を見続けては苦しめられているのだ。

 壊れるまで永遠に続く地獄の記憶。

 こんな仕打ち、あるだろうか…?


 涙と冷や汗でぐしゃぐしゃのセルディアを、オロオロと見守る屍達。



 不意に訪れる静寂。


 …終わったか?


 そう思い一息ついた時、


 しまった


 と表情が凍りつく。




 「「今度は公爵か?」」



 「!? ちがっ…私、は…ッ!!」



 「「守ってくれ、なんて言ってないって?

   酷い王様だな。

   だけど守られるんだよ。公爵にも、屍にも。

   王様だからな。

   そして…公爵も屍もみんな、死んで消えていくんだ。」」



 「私は…好きで王には…っ。私は、ただ、みんなを守りたくて…!

  ただ…っ、みんなを守りたかっただけなのに…っ。

  どうして…みんなは死んで、私は死なない…ッ!?」



 「「お前は死なないよ。だから周りが死ぬ。

   そうして積まれた死体の上に立つ王様だからな。

   すべてはお前が王とる為のにえ…。

   ――――お前が殺してるんだよ。」」



 「――――――――・・・ッ!!!!」




 ガタンッ!と大きな音を立てて床に転げ落ちて倒れてしまう。

 傍にいた二匹の屍が「どうしたの!?」と言わんばかりに狼狽うろたえては騒いでいる。



 …あぁ、いつもこうだ。

 終わったと思ったところにキミは私にトドメを刺しに来る…。

 わかっていたのに…。

 そうしてキミに刺されて私の意識は消える…。

 …死んだように…、…殺されたように…。


 お願いだ。もう誰も私に関わらないでくれ…。

 私はもう…誰も死んでほしくない。もう誰も――殺したくない…。



 意識の途絶える直前、

 誰かが駆け込んで来る姿を虚ろな視界で見た気がした。




 ――――似ているんだ…、声が…。


 それに、あの流れてきた感情…。

 まさか、本当に…?


 ………アーバント………


 一体…、アナタは――――・・・・・・。




  【第一幕、崩落の日常  完】


  ~第二幕、第十一章へ~


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