第二話
俺は部屋に戻ると出発の準備を始める。
服装は上下黒一色の闘衣。裏地には、幾何学模様の刺繍が施されているが、目立たない様になっている。
「っし。これ着ると気持ちが引き締まるな」
腰に帯を巻き付け、コートを羽織る。
背にはロングソードを背負い、準備万端だ。
「さて、出発するか」
必要最低限の荷物が入ったバッグを持ち、部屋を出た。
「カイン、仕事か?」
「あぁ、ちょっと野暮用でな」
「冒険者なんざ辞めて、真っ当な仕事しろ」
「生憎、俺には冒険者やってる方が気楽なんでな」
「・・・・怪我だけはすんなよ」
近所の親父から声が掛かる。
どうやら俺の事を心配しての言葉なんだろうが、俺には冒険者稼業が向いてるみたいなんだ。
だから俺は手を軽く挙げて、親父の言葉に静かに応えた。
目的地である遺跡まで、歩けば丸一日。だが俺はこの距離を半日で駆け抜ける。
この世界の住人には稀に『スキル』というものを習得する者がいる。
この『スキル』とは、何かを突き詰めた形で習得する場合が殆どだが、稀に生まれた時からスキルを持って生まれる者もいる。
後者は特異な血統者・・・つまり、王族や貴族なんかがこの部類にあたる。
俺は前者だが、冒険者稼業なんてやってるとスキルの一つや二つ、身につけるモンだ。
「瞬脚」
このスキルは身体強化系のスキルで、人間の脚力を強化し驚異的な移動速度を得る。
「っと、ここか・・・」
目的地である遺跡に着いた俺は、周囲の気配を探る。
「・・・特に問題ないようだな」
そう呟いて足元を見ると、四人分の足跡を発見した。
「・・・全部の足跡が遺跡に向かってるが、出てきた足跡が一つもない。こりゃ、最悪なパターンか?」
遺跡の中へと入ってみると、壁面や天井が淡く光っていた。
「こいつは・・・光苔か」
光苔・・・その名の通り、光輝く苔で洞窟や遺跡等で良く見掛ける苔だ。
「これなら灯りは必要ないな」
暫く進むと広い空間へと出た。
「ここは・・・階段か?」
どうやら地下にも遺跡は広がっているようだ。
地下階層も光苔が自生していたので、明るさは保たれていた。
「・・・なんだ?」
地下に降りた途端に嫌な気配が充満してやがる。
何かあるな・・・・こりゃ。
ズズ・・・ン
まるで遺跡全体が揺れた様な衝撃。
パラパラと天井から砂が落ちてくる。
「地し「イヤアァァァァッ!」!?」
通路の奥から聞こえた悲鳴に、俺は振り返る。
「チィッ!あっちか!!」
俺は瞬脚を使い、悲鳴の主の元へと急いだ。