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番外編*雨傘の猫

お久しぶりです。小夜佳奈コンビ。

 今年の梅雨は雨が少ない。

 そんな話をしていると、台風が近づいていると天気予報が告げて、久しぶりに大雨になった。とはいえ、大阪に台風が直撃する事は滅多にないので、この時もやはり台風は大きく逸れていった。

 午前中で終わった大学からの帰り、バスから降りて小降りの雨の中で傘を広げた時、佳奈はその異変にぎょっとした。

 傘の上に、どすんと何かが乗ったのだ。重みに驚いて、傘を取り溢しそうになる。

 冷静に、家の方へと歩いて行くが、その歩みは早い。自宅前を通り過ぎて、そのまま神社へと向かった。

 石段を上がって、鳥居をくぐった時には、すっかり疲れ果てていた。


「……あぁ、小夜ちゃん」


 境内には、黒髪の美少女がいて、風で飛んできたゴミを丁寧に集めているところだった。小雨だからだろうか、傘はさしていない。

 小夜は、佳奈を振り返って、それから佳奈の傘の上を見る。その目が、明らかにうんざりしたように曇った。


「あんた、また妙なもん連れて来たなぁ」


「やっぱり?! なんかいる?!」


 青ざめた佳奈に、小夜が笑いかけた。


「うん、猫。ものすごいバランス感覚やんな、その子」


「そんなのんびり構えてないで、どーにかしてよぉ!」


 涙混じりに小夜に詰め寄ると、近づくなとばかりに小夜が一歩下がる。


「……なんで逃げるの?」


「いや、結構グロいんやもん、その子」


 佳奈は、ぎゃっと叫んで傘を放り投げた。


「あ……。 おー、すごい!」


 小夜の反応から、猫が無事なのは解ったが、佳奈はぶるぶると震えたまま傘を指差した。


「もしかして、落ちてない?」


「しっかり掴まってるで」


「いやぁ! ずっとこのまま?! この傘お気に入りなのに?!」


「いや、知らんし。まあ、このままも可哀想やんな。化けて出たら嫌やし」


「もう化けて出てるよ!」


 仕方ない、と小夜が呟く。

 祓ってくれるのかと期待したい眼差しで見つめた先で、小夜が笑う。天使のような美しさで、笑った。


「そうゆうもんやと、思って使い」


「いやだよ! すごく重いんだよ?!」


 佳奈がそう叫んだ時、何かを裂くような音がした。恐る恐る見てみると、傘の布部分に亀裂が入っている。


「お気に入りって言ったばかりなのにぃー!」


「重いとか言うからやん? 女の子に向かって……」


「……オスかメスかわかるの?」


 佳奈は涙目になりながら、小夜に尋ねる。


「そりゃ、もちろん。ついてないもん、タ」


「美少女がそれ以上は言っちゃダメ!」


 何を言い出すのか解って、佳奈は全力で小夜の口を塞いだ。もごもごとまだ何か言っているが、気にせずに塞ぐ。


「ぷはぁ! もう、別にええやんかー。ま、正直、本当にどっか行くでしょ、そのうち」


「そう言うもんかなぁ……」


 傘を拾い上げながら、佳奈は首を捻る。

 やはり重い。余程大きな猫なのか、辞書をたっぷり入れた通学鞄と同じくらいの重さだと、佳奈は口に出さずに思う。

 刹那、布が裂ける。


「だから、なんで?!」


 *


 どうしようもないので、傘は境内の隅に置いたまま、小夜の部屋でお茶をしていく事になった。雨が上がってしまえば、消えるだろうと小夜が言ったからだ。

 二人は、冷たいコーヒーを飲みながら、大学のことや、アルバイトの話をしていた。


「へー、佳奈、バイトしてんの?」


「うん、図書館の近くのファーストフード」


「あ、あそこね。行ったことないわぁ。今度遊びに行くね」


 にっこりと笑った小夜に、佳奈が首を傾げる。


「行かないの? ファーストフード」


「うん、あんまり好きじゃないから。でも、あのコーヒーのコスパはすごいよな」


 確かに、神社の娘で美少女霊能者の小夜が、ファーストフードを貪っている姿は、想像し難いものがある。


「小夜ちゃんは、バイトしないの?」


「してるよー、暁屋(あかつきや)


 暁屋は、小夜の双子の兄、(あきら)がやっていた何でも屋だ。もともと、透視能力に優れた暁がやっていた頃は、失せ物や行方不明者の捜索がメインの仕事だった。しかし、暁が亡くなり、小夜がその仕事を引き継いでからは、ネットで有名な祓い屋になっている。今や、テレビで取り上げられる程の人気で、依頼すれば超絶美少女霊能者が来てくれるという噂まで立っている。


「それはバイトなのかな……って一人で?」


「うーん、殆ど一人かな。でも、ひーちゃんと(かなめ)……あ、要はひーちゃんの妹ね。二人も手伝ってくれてる」


 日和(ひより)は、その道ではこれまた有名な陰陽師だ。女性でありながら、現存の陰陽師の中ではトップレベルの能力があるらしく、オカルトに明るくない佳奈の耳にも、彼女の名前が入ってきている。

 最近では、その手のテレビ番組にも出演していて、その可憐な容姿から、アイドルのような扱いを受けている。


「妹さんも、能力があるの?」


「うん、あの子は暁と似てるから、すごく助かるんだよね。でも、霊媒体質だから、心配な時もあるんだけど……あ、要、圭佑と同じ大学に入ったらしいねん」


 愉しそうに話す小夜に、佳奈も嬉しくなる。


「そう言えば、久しぶりやね。こんなに佳奈と話すの」


「そうだね、二回生になってから、忙しくてメールもあんまりできてなかったし……」


「あの猫ちゃんに感謝せな」


「ほんと……ってそれは無理」


 佳奈は思わず、ノリツッコミをする。


「あはは、相変わらずキレないツッコミやな。あ、雨上がった」


「うるさいなー。……ほんとだ」


 窓の外が、少し明るい。

 雨雲が切れて、太陽が少し覗いている。


「傘、見に行こうか」


 小夜が、そう言って立ち上がった。


 *


 小夜の言ったとおり、傘は軽くなっていた。元通りと言うべきか。佳奈は傘を畳んで、小夜を振り返る。


「いなくなってたよ」


「見たらわかるわ」


「そっか」


 沈黙が流れて、佳奈は足元を見つめる。

 高校生の時のように、今は毎日会えるわけではない。だが、卒業式で言ったとおり、今は友達なのだ。友達になってからの方が、ずっと遠くなったように感じる。


「……夏休み、東京行かん? 圭佑が泊めてくれるし。せっかく女子大生になってんから、ディズニーとか行きたいねんよなぁ」


 小夜が明るく言った。

 小夜の幼馴染である圭佑は、東京の大学に通っている。もともと土地持ちの家系の彼は、学校の近くにマンションを買って住んでいる。その部屋が、4LDKと、かなりの広さを有しているのだという。

 その言葉に、佳奈はぱっと笑う。


「うん! 行こう! いっぱい遊びに行こうね。もう、毎日!」


「毎日って、それはいややわ。じゃあ、佳奈はバイトがんばって、旅費稼ぎや」


「わかってるよ」


 頬を膨らませた佳奈に、小夜が噴き出す。


「……じゃあ、また」


「うん、またね」


 手を振って別れた帰り道。

 雨上がりのアスファルトを、佳奈はスキップをしながら帰った。

ネタを仕入れたので、のほほんと書いてみました。仕入れたのは、傘の上の猫。


実は、作者の体験談的なものなのですが…


この前の雨で、傘をさしていたら、急に重くなったんですよね。子ども一人分くらい。

重たすぎて傘を落としたくらい。

で、拾った傘は軽かったです。

怖かった……かな。たぶん。まあ、よくあることですよね。


夏休みの東京旅行編も、オカルト有りで書こうかな。リクエストあれば……ないか。

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