第20話
七日後、よもぎは再び吉鉦に呼びだされた。今回は、余之助、お紺も一緒である。
非公式とは言え、一応正式な招待のため、さすがに今日は余之助もお紺も正装だ。よもぎも裃姿である。
「余之さんの紋付袴は初めて見るけど、なかなか似合っているじゃないの」
「姐さん、からかうのはよしてくださいよ。まぁ一応、変装で慣れておりやすからねぇ。そう言う姐さんだって、決まっておりやすねぇ」
お紺の着物は、今回の詫びも込めて今日のためによもぎが急で造らせて贈ったものだ。黒地に金銀の刺繍と赤い華の染付けが、お紺の金の髪とともに光りを弾いて美しい。
「まぁ姐さんの場合、いい着物だって事より、旦那が贈ったってぇ事が大事なんでしょうがねぇ」
「こ、こらっ余之さん! からかうと、後でひどいよッ!」
顔を赤くして、右手を振り上げてお紺が怒る。
「へっへっへ、くわばらくわばら」
余之助は、首を縮めて小走りによもぎの背に隠れる。
「かかか、二人ともお城の中では大人しく頼むな」
よもぎは二人を見て笑いながらたしなめた。
この数日は、事件の後始末に追われる事になった。
倉田屋と番頭をひっ立て、浪人者の遺体を収容したのは、余之助によって極秘を条件に呼ばれた佐竹と同心達であった。
さすがに外出丸の中に案内する事は出来ないので、お庭番二体に外まで運ばせ、引き渡したのだ。
この一件が表沙汰になれば、津島家断絶と倉田屋訣所は避けられないし、将軍家の威光にも傷が付く。ゆえに、表には出せない。しかし、大量の死人が出ているのだ。そのままという事も出来ない。そのため、荒事に慣れていて、しかも信用できる佐竹を使うしかなかったのである。
余談だが、町方役人が将軍家に目通りする事は制度上有り得ない。だが、今回は事が事だけに、吉鉦から直接言葉と褒賞を賜ることになった。その際、佐竹と同心達が感激のあまり号泣していたのが印象的だった。
倉田屋草兵衛については、取調べの後、お紺が見事に仇討ちを果たした。ニ番番頭は、さつきの証言から大量の余罪が発覚、死罪となった。津島と倉田屋は、それぞれ病死と発表。津島家は息子が跡を継いだ。倉田屋は裏で厳重に叱りおかれ、大番頭と息子二人に分割され、結果的に規模縮小して存続を認められた。最後まで津島に忠実だった袴の浪人は、津島に殉死した家臣として葬られ、その他の浪人は無縁仏として処理された。
「おお、よもぎ殿、参ったか」
「内藤殿、こ度はおめでとうございます」
雉子橋門の前で、内藤と合流する。
内藤主膳は、御側御用取次として再び出仕する事となった。子息の佐渡守も、石高加増の上職務に復帰した。
「ワシや倅は、岡田殿の余録で復帰したようなものよ。改めて礼を申す」
未だ手が自由にならぬ身で、深々と頭を下げてきた。
「何を言われます。内藤殿は長年上様達をお守りしてきたのです。当然のことです。頭をお上げ下さい」
「しかし、よもぎ殿も欲が無い。大名を固辞するとは」
「ガラじゃあありませんよ。それに、参勤交代で江戸を離れるなんざ、まっ平ごめんです」
よもぎは、吉鉦からの大名昇進の話を蹴った。理由は、津島に語った通りだ。
「本当は加増も受けるつもりは無かったんですけどね」
加増だけは吉鉦に押し切られてしまった。今後すぐに出丸に駆け付けるためには、雉子橋門を自由に通れる五千石以上の身分が必要だと言われてしまったからだ。そのため、切米は八百石から二千石になっていた。
「しかし、一連の決着が付いたところでの呼びだし、何事じゃろうな」
「嬢ちゃん、いえ、姫様が回復したそうですので、その顔見せではないでしょうか」
内藤の問いに、よもぎが答える。
吉鉦からの連絡では、薫の具合が良くなったので、一度来て欲しいと言われたのだ。ゆえにお紺と余之助も、同行を望まれたのだろう。
「なるほど、そういう事かの」
門をくぐり堀縁まで来ると、お庭番衆が三名待っていた。猪牙舟も大型のものになっている。
皆が乗りこむと、舟は音もなく滑りだした。
外出丸の中は、ひっそりと静まりかえっていた。七日前の、江戸を揺るがす大事件など想像も出来ない程に。
玄関をくぐると、よもぎを先頭に廊下を歩く。軽い緊張感が漂い、誰も言葉を発しない。
やがて、奥座敷の襖までたどり着いた。
「上様、参上つかまつりました」
内藤が、中に向って声を発する。よもぎ達は、廊下に正座すると深く頭を下げた。
「入るが良い」
中から男の声がした。同時に襖が開く。
「皆の者よう参った」
雁母の声が響く。よもぎが声に促され、頭を上げると、皆も続いた。
そこに居たのは、中央に吉鉦、右隣には正装した雁母、そして左隣には、姫姿も艶やかな薫だった。
よもぎたちは、座敷の中央に進み、お互い対面で座る。
「上様のお言葉であるッ! 心して聴くように」
凛とした雁母の声が響いた。
「ははッ!」
皆圧倒され、慌てて平伏した。
「皆の者、大儀である!」
「ははーッ!」
吉鉦が語りかける。その将軍としての精気と威厳溢れる姿に、皆より深く平伏した。
しばし、沈黙が流れる。
誰も何も言わない。
さすがによもぎもおかしいと思い、顔をちょっと上げてみる。
その時。
「……なーんてな」
気の抜けた、雁母の声が響いた。
「へ?」
余之助が、小さくまぬけな声を発した。
「三九郎様、やはり皆、退いてしまったではないですか」
いつもの優しげな吉鉦の声が続く。声が少々笑っているが。
「まあ、こうでもしないと、姫は着替えてくれねえしな」
かかか、と笑う雁母。
「や、やはりそれが目的だったのか……」
うなだれる薫。どこかで見たような光景だ。
「悪りぃな、主膳、よもぎ。全部仕込みだよ、仕込み」
「はぁ?」
よもぎも、思わず頭を上げて、雁母の顔をまじまじと見てしまう。
雁母は、悪びれた様子もなく、笑いながら頭を掻いている。吉鉦も口元を抑えて笑っているようだ。薫だけがうなだれている。
「よもぎ殿、すみませんでした。どうしても薫の姫姿が見たかったもので」
吉鉦が笑いながら頭を下げてくる。
「どうだ、似合うだろう」
雁母がニヤリと笑って腕を組んだ。
なるほど、やっと事情が飲みこめた。薫に姫の正装をさせたいばっかりに、よもぎ達を出汁に一芝居打った訳だ。
「こ、このすちゃらか夫婦は……」
この二人に国を任せていいものか、真剣に悩んでしまいそうだ。
(もしかしてあの時言ってた、祖父様と一緒にいて楽しかったってえのは)
雁母に被害があったのではなく、雁母と遊んでいて、周りが被害を受けていたのではないのだろうか。
「薫ちゃん、似合っているわ。綺麗よ、とっても」
「お紺どの、嬉しいんですけど、嬉しくありません」
目を潤ませながら言うお紺に、薫もどう答えて良いか分からず、顔を赤くしながら微妙な表情だ。
(お紺、か)
よもぎは、薫の言葉が引っ掛った。
「薫ちゃん……」
お紺も、それを聞いて少々淋しげな表情を浮かべている。
「わ、私は着替えてくるぞ」
居心地が悪くなったのか、そそくさと薫が席を立ち、座敷を出て行った。
それを見届けると、雁母が口を開く。
「よもぎ、知っていると思うが、オレは昨日老中になった」
よもぎがひとつ肯く。
将軍家代替りのため、名目だけ残していた御三卿のひとつを、便宜上雁母が継ぐ形にしたのだ。これなら、新たな大名家を創る事も、今の岡田本家にも影響もなく、身軽な形で江戸城内にいる事が出来る。
雁母は、その上で老中筆頭に就任した。その事が発表された時の、他の老中衆の慌てようといったらなかったそうだ。
無理もあるまい。今まで老中筆頭だった津島が急死。その上、今まで知らない人物が老中筆頭になったのだ。
「いや、それだけではないぞ」
先に役目へ復帰していた内藤が口を挟んだ。
岡田三九郎雁母と言えば、裏大老と言われる程の側用人だったと内藤は言う。もちろん、今の老中衆で雁母の事を知らぬ者はいない。いわば、伝説の人物がいきなり甦ったようなものだ。もちろん生き帰ったとは言えないので、上様の医術で長い眠りに付き、今やっと治療を終わって復活した事にしたのだが。
しかも、その嘘八百でさえ老中衆以外には極秘とされ、一般には御三卿の一人が老中職に就いただけ、としてある。
「混乱した状況だから、こんな話が逆に信憑性を高めたのじゃ」
なるほど、と言いたいところだが、無茶な話だ。
しかし、将軍と伝説の側用人が一緒になって言うのだ。老中衆が圧し切られたというのが真相だろう。
「それとな、吉鉦も生身になった」
以前のような儚い印象ではなく、精気に溢れているように見えたのはそのためか。雁母同様、新しい身体を造っていたのだろう。
「おかげで子どもだって作れるぜ。色々あって、まだしばらくは自重するけどな」
「三九郎さま……バカ」
吉鉦が顔を赤くする。
「で、だ。先ほどの姫の様子、どう思う?」
急に表情を引き締め、雁母はよもぎに聞いてきた。
「まだ完全には立ち直っていないと見ましたが」
お紺の事をねえ様、と呼べないのがその証拠だ。
「ああ、その通りだ。そこで、だ。お前に頼みがある」
「何でしょう?」
よもぎは、背筋を伸ばした。
「しばらく、姫はお前に預けたいと思う」
「はあ?」
よもぎは、聞き返してしまった。
「祖父さん、そりゃどういう事で?」
思わず、言葉が崩れてしまう。
薫は、晴れて城で生活できるようになったはずだ。それを今更、よもぎの元によこすというのは、納得できない。
「姫がな、新婚だからって言ってな」
自分から城を出る事を希望しているらしい。
「祖父さん、それを許す気か? そりゃ、嬢ちゃんに良くないんじゃないのかい?」
「よもぎ、オレを見くびるな! そんな事は百も承知だ」
雁母が一喝してきた。
「第一、姫がいても、オレ達がイチャイチャするのは変わらんッ!」
よもぎも皆も、これにはカクッと力が抜けた。
「三九郎さま、その表現はどうかと」
吉鉦が顔を赤くしながら、雁母をたしなめる。
変に遠慮をすれば逆に姫は気にするだろうと、この数日間薫を巻きこんで、三人で一緒にイチャイチャしていたらしい。
「うむ、姫様も甘えて、楽しんでおられたぞ。ちょっと困り気味ではあったが」
その様子をつぶさに見てきたのだろう、内藤が証言した。傍で見ている方が恥ずかしかったらしい。
「なら、どうしてッ!」
お紺が声を上げる。何より薫の事を心配しているのが、良く分かる。
「幸せすぎたのかも、しれませんな」
内藤が、畳に視線を落とし、ぽそりと答える。
「どういうことですか?」
よもぎが聞き返す。
「実はな、よもぎ」
雁母の顔に、苦さが広がった。横の吉鉦も、手で顔を覆う。
「姫はな、毎夜うなされているんだ。吉鉦が沿い寝していても、だ」
しかも、うなされる中で、よもぎとお紺に生きることの許しを請うているらしい。
「嬢ちゃん……」
さすがに、よもぎは言葉もない。お紺も、涙をこぼしている。
「恐らくは、幸せすぎる今の境遇が、逆にご自身の罪悪感を高めているのかもしれませんな」
内藤が、心の底から辛そうに言葉を吐いた。
「よもぎ。お前のあの時の言葉が、かろうじて姫の心を支えているんだ」
雁母が言葉を繋ぐ。
よもぎに許されれば、今の幸せは許される。その心深くに刻まれた思いが、寝ているときに表に出るのだろう。
であれば、よもぎと一緒にいて、少しずつ心を強くしていくしか、解決の道はない。
「よもぎ殿、薫を頼みます」
吉鉦が、深々と頭を下げてくる。
「分かりました。アタシが引き受けます」
よもぎの腹は決まった。薫の全てを、全力で守るのだ。
「殿様、あたしも一緒に」
「お紺」
お紺の目も涙に濡れてはいたが、決意の色を秘めていた。
「お紺殿、申し訳ありませぬ」
吉鉦は、お紺に頭を下げる。
お紺は涙を拭き、吉鉦に恐れもなく、きっぱりと言い放つ。
「上様。何があろうと、あたしは薫ちゃんの姉です。どんな事があっても、薫ちゃんを守ります」
「薫をお願いいたします」
その言葉を受けて、吉鉦は再び、深く頭を下げた。
「お紺、ひとつ注意しておく」
よもぎが、お紺を睨みつける。今のうちに、これだけは言っておかなければならない。
「いいか。仮に、お前が嬢ちゃんを守るためとは言え、もし死んじまったら、嬢ちゃんは今度こそ本当に壊れる」
「殿さまッ!」
お紺が顔を青くして絶句する。
「嬢ちゃんを守るのは良い。だがなお紺、絶対にお前自身も身を粗末にするな。わかったな」
その意味がお紺にも分かったのだろう。表情が固くなった。
「……わかりました。あたしも決して命を粗末にはしません」
「それなら良い」
よもぎは、密かに安堵した。これで、お紺も自分を大切にするだろう。
「では、あたしも家をひき払って、お屋敷に住まわせてもらいます」
「はあ?」
だが、突然のお紺の逆襲に、よもぎも驚き、声を上げてしまう。
「当然じゃありませんか。薫ちゃんも来るし、殿様のお屋敷だったら、あたしも安全でしょ?」
「いや、男所帯に女ってえのは、普通安全じゃねえぞ。別の意味で」
よもぎは、熱くなる顔を自覚しながら言った。幸い、毛に覆われた顔では分かるまい。
「女二人なら安全です。それに、そっちの方が好都合……ん、んッ!」
お紺が赤くなって咳払いする。こちらはもろに分かる。
「と、とにかく、あたしも決めました。殿さま、いいですね?」
「よ、余之助、なんとか言ってくれ」
困ったよもぎは、余之助に助けを求めた。
「え、あ、あっしがですかぃ?」
お紺が、じろりと余之助を睨んだように見えた。
「い、いいんじゃないですかぃ? 姐さん、怖すぎ……」
最後の声は小さかったが、よもぎにははっきりと聞こえた。
「かかか、お前の負けだな、よもぎ」
雁母が大笑いする。吉鉦まで、クスクス笑っているではないか。
よもぎも、意地になった。
「よし決めたッ! 余の字、お前も屋敷に住め!」
「ええッ!? そ、そりゃないっすよ、旦那ァ」
「この際だから、五平さんや、関わりのあったさつきさんにも住んでもらいましょうか」
「あ、姐さんまで……」
うなだれる余之助。
「今でもそんなに変わらねえじゃねえか。いいな、余之助」
この一件以来、余之助はほぼ毎日、屋敷に泊まっているのだ。
「ああ、もう、分かりやしたッ! あっしも江戸っ子だ、覚悟を決めました! こうなりゃ、末松とすずなも一緒に屋敷に住まわせてもらいやすッ!」
胡座になって、腕を組む余之助。座敷を笑いが包む。
そこへ、若衆姿の薫が戻ってきた。
「なんの騒ぎだ? 廊下まで声が響いていたぞ」
「ああ、嬢ちゃん。今日から、アタシの屋敷に来るかい?」
よもぎが、気負いなく語りかける。
それを聞いて、薫はその場にぺたりと、力なく座り込む。
「い、いいの、か?」
声が震えていた。
「ああ、もちろんです」
よもぎは、力強く肯いてみせる。
「あたしも一緒だからね」
楽しげにお紺が言う。
「お紺どの……」
「薫ちゃん、ねえ様って呼んでって言ってるでしょ?」
小さい子に、めッ、と怒るように、人差し指を立ててお紺が言った。
「いや、しかし」
薫は、ちらちらとよもぎを見る。
よもぎは、その視線に苦いものを感じながらも、顔には出さない。
「お紺もこう言ってんだし、別にいいんじゃないかい?」
なるべくそっけなく言ってみた。
目に見えてほっとする薫。
「……お紺、ねえ様」
ためらいが見える口調で、小さく言う薫。
「なあに?」
にっこり笑ってお紺が答える。
「一緒に、住むのか?」
「そうよー、また一緒にお風呂入りましょうね」
お紺は、座ったままの薫ににじり寄り、手を取った。
「あ、うん」
薫は肯いた。
「薫」
吉鉦が呼びかける。
「母上」
「あなたが帰る家は、ここにもあるのですよ。好きな時に戻ってらっしゃい」
「母上、ありがとうございます」
薫は、吉鉦に頭を下げる。
「なあ、よもぎ。戻れる家が二つもあるってのは、良い事だよな」
「そうですねえ」
よもぎも雁母の意図を察し、深く肯く。
「岡田どの」
薫が、嬉しそうに笑った。
「姫、雁母殿もいる事ですし、岡田ではなく、よもぎ殿と呼んだほうが良いのでは?」
内藤が柔らかく口を挟んだ。
「岡田どの、よ、良いのか」
また、少々怯えが見えた。よもぎは力強く答える。
「ああ、構いませんよ」
「で、では、私の事も、薫、と呼んで、欲しい、のだが……」
おずおずと、自分の思いを言う薫。声は、だんだん小さくなっていたが、主張しようとしたのだ。良い事だろう。
「じゃあ、薫。帰るか、家に」
「は、はいッ!」
答えた薫の顔は、今日一番の笑顔だった。
* * *
吉鉦と雁母に見送られ、猪牙舟が皆を乗せて進む。
二人が見えなくなるまで手を振っていた全員が、元の姿勢に戻る。
「ふぅ、何だかんだで肩が凝っちまったぃ」
余之助が、ため息とともに右手で肩をもみ始めた。
「そんな風には見えなかったがねえ」
笑いながら、よもぎが答える。
「あっしも、お城を出るまで気が付かなかったんですけどねぇ、やっぱり公方様の前ってぇのがねぇ」
「あたしはそんな事なかったわよ」
「あっしは、姐さんほど肝が太くな……あ痛ッ!」
どうやら、お紺が余之助の尻をつねったらしい。しきりと尻を撫でている。
笑いながら堀に目を落とすと、木漏れ日を反射してきらきらと輝いていた。
それを見て、よもぎは空へと目を向ける。
木の隙間から見える空は高く、雲ひとつなかった。
「薫」
「よもぎ殿、どうかしたか」
「お前さん、良いのかい、城の中で暮らさなくて」
一瞬、皆の動きが止まった。
だが、薫は気にした様子もなく答える。
「良いのだ。私は広い世界で、自分に出来る事を見つけたい」
そこまで言うと、薫は顔をしかめた。
「それに、あの二人。見たであろう、あの熱々のすちゃらか振り。三日も一緒にいて、疲れたのなんの」
ため息とともに言葉を続ける。
「かかか、違えねえ」
よもぎは大笑した。
「それにな、折角十八年振りに再会できたのだ。しばらくそっとしてやりたいのだ」
「そうだねえ」
よもぎは軽く肯いた。
「そ、それとも、迷惑だっただろうか」
薫は視線を落とし、ちらちらとよもぎを見る。
よもぎは、薫の頭をぽんぽんと軽く叩く。
「気にし過ぎってもんです。もっと気楽に生きなさいな。だから嬢ちゃんって言われるんですよ」
そんな会話をしていると、上の木々が切れ、大きな空が広がる。東の空には、大惑い星、地球が淡く光って見えた。
「明日から皆の引越しですよ。当然薫にも手伝ってもらいます。今日は、早く帰って寝ちまいましょう」
「あ、は、はいッ!」
薫の元気な返事が、空へと吸いこまれていった。
読了いただいた皆様、深く感謝いたします。
もし感想や評価などを戴けたら、望外の喜びです。
ちょうど文庫本1冊、20話完結しました。
すでに書き終わっていたものでしたので、連日UPできましたが、もうストックはありません。構想のみです。
ですので、今後いつ自作をUP出来るかは分かりませんが……。
またいずれ、何かを掲載したいと思っています。
掲載場所を作ってくださった、管理会社である株式会社ヒナプロジェクトの皆様、何より読了していただいた皆様に深く感謝します。
いつかまたお会いしましょう。