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飛び方を知らない小鳥は、外へ出ても落ちるだけだったのよ。


 私はずっと金色の鳥籠の中で窓の外を眺めていました。私は鳥籠から出たことがありませんでした。

 毎日同じ窓から空を見上げて、雨が降ったり、夕日が沈んだり、雪が積もったり、虹が架かったりするのを見ていました。



 あなたがやってきたのは、突然でした。


 その日のことを、私は今でも覚えています。あの日の空は曇っていました。私はいつものように窓の外を眺めていました。あなたは鳥籠の鍵を開けて、「僕と一緒に外の世界へ行ってみませんか」と言いました。

 私は夢見心地でした。私は鳥籠の外へ出るなんて考えたこともなかったのです。それは思いがけない出会いでした。私は喜んであなたに付いていきました。


 窓の外はあなたの世界でした。

 空は広くて、美しいものでした。軽々と虹の向こうへ飛んでゆくあなたは、とても自由に見えました。

 それがあまりに広大だったので、私は途方に暮れそうになりましたが、あなたが広い世界で出会った人々や景色の物語を話して聞かせてくれたので、私もとても自由になれました。


 そこで私は、自分の力で空を飛ぼうと考えました。あなたの真似をしたかったのです。美しい世界を、自由なあなたを、ずっと見ていたくて、私は空を飛ぼうと決心しました。


 でも、私は飛べませんでした。空を飛ぶのはとても大変なことでした。私は飛び方を知りませんでした。鳥籠から出たことがなかったのですから。


 私は空から落ちてしまいました。地面に落ちて、羽も折れてしまいました。



 それから私は、再び金色の鳥籠の中で窓の外を眺めることになりました。その鳥籠からは空は見えなかったので、私は地面を眺めていました。

  毎日同じ窓から地面を眺めて、いくつもの靴の踵が音を鳴らしたり、雨が降って道が濡れたり、石畳のすき間から花が咲いたり、煙草が落ちていたりするのを見ていました。

 そうして日々が過ぎていきましたが、折れた羽は一向に治らず、とうとう私は、もう空は飛べないと宣告されてしまいました。


 私は一度も空を自由に飛べないまま、もう二度と空を飛べなくなってしまいました。




 ところで昨日、あなたに少しだけ似た人がやってきました。空は曇っていました。その人は鳥籠の鍵を開けて、「僕と一緒に僕の世界へ行ってみませんか」と言いました。

 私は夢見心地でした。それは懐かしい出会いでした。私は喜んでその人に付いていきました。


 ああ、あなたは今どこで何をしているでしょうか。

 まだあの日のように、軽々と虹の向こうへ飛んでいっているのでしょうか。


 私は今また、金色の鳥籠の中で窓の外を眺めています。

 今いる鳥籠からは空も地面も見えないので、私は目を瞑って、あなたと世界を思い浮かべています。


 たくさんのことを教えてくれてありがとう。でも、飛び方を知らない小鳥は、外へ出ても落ちるだけだったのよ。



 

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