◆逢いたい人っているよね?
さて、鬼をあしらってノート片手にさっさと帰ってきた私ですが………。
明日が来るのが恐ぇ――!
明日クラス全員で集団リンチとかされたらどうしよう。。
「な、悩んでてもしかない寝よう!」
僅かな勇気をかき集めて私は眠りに就きました。
――次の日――
「なんなのよ……」
クラスメートの視線が今日も突き刺さる。
ちらりと佐伯の方を見ると、
「……」
黙々と自習プリントに勤しんでいた。
視線合わせる気すらなしかいっ!
――もしかして、怒っていらっしゃる?
不審に思いながらも放課後が来るのを待った。
* * *
夏。
日陰とはいえど流石に暑くなってきた。最近。
「しっかし……からかいの告白をシカトした位で怒るか?本人はマジ告白だと言っていたけれど……」
ノートをぺらりとめくって、思案する。
「ま。考えるのは苦手だし?」
と、自分を納得させ……。
途中コンビニにコーラを自分の分と佐伯の分を購入し(どうせ来たら言われるから)、昨日のネタを書き尽くし、盛り込みまくり……。
――数十分経過。
おかしいなぁ。
いつもならここら辺で佐伯が、
「おい。コーラ買ってこい」
とか言って150円を私に投げるのに……(何だかんだ言ってお金は自分持ち)。
今日は、
「ふふん。もう買ってあります~」
と、言ってやりたかったのになぁ――…。
そのうち来るだろう、と思い、変にも思わなかったけど。
その日――佐伯は来なかった。
(なんなのよっ!もう!!)
半ば憤りながら2つ目のコーラを飲み干す。
そこではたと気付く。
(なんで…なんで私、怒ってるんだろ?)
別に佐伯がいないのが日常で、居るのが非日常だったのに。
嗚呼、独りに慣れていたはずだった……。佐伯が近付いてこなければ私は孤独に生きて行けたはずだっ た。
なんで私に関わったのがクラスの人気者なの。
気づいてしまった。
―――独りは淋しい、哀しい、苦しい、痛い。
最初からないものなら別に悲しんだりする必要なんてなかったのに。ずっと独りだったなら……。
大丈夫、大丈夫だよ。今まで通り。佐伯がいなかった時のころに戻れる。あの強い私に……。
戻らなくちゃ。
なのに、何故こんなに胸が苦しいの?
* * *
次の日も、その次の日も……。
佐伯は来なくて、私は2つのコーラを毎日、毎日飲み干した。
学校では目にするけれど、放課後の語らいは、ない。
そんなに怒らせたのだろうか?
からかったの?本当に?
もしかして……本気だった?
自惚れはよくない。彼は…人気者の彼は、ただ日陰者を見に来て笑っていただけだった。
そうに違いない。
「涼っ!放課後さぁ、カラオケ行こっ?」
クラスの女子が涼を含める男子の大部分をカラオケに誘っていた。
それに快く了承する佐伯達。
―――ズクリ、
胸が痛んだ。何故?
彼はもともと私なんかといる器の人じゃない。
世界が……違った。
彼は、日向者。私は、日陰物。
そう思ったら、なんだか呼吸が上手く出来なくなった。
鼻がツーン、となって視界が歪んだ。
―――嫌だ、泣きたく何てない!
ダッシュで逃げた。
屋上にむかう。私の唯一の居場所。
「はっぁっ!はぁっ……は、あははは!」
走りながら笑って泣いた。
まず、自分の脆さを嘲笑って、そのあと今の自分を思い知って泣いた。
「う、ふぁぁっ、ああああ!」
ふらふらと屋上の真ん中に行く。
太陽がさんさんと私の上に降り注ぐ。誰かが太陽の光は皆に平等に降り注ぐって言っていたけれど嘘 だ。だって私は何もできないアヒルの子で、彼は、白鳥の子だから。
手で顔を覆ってしばらく泣き続けた。
(前泣いた時には…佐伯が背中を叩いてくれたっけ)
一昨日の事なのに、なんだか何年も前のことみたい……。
あのときの佐伯はいつもと違って優しかったなぁ。
(大事に…されてたのかな?)
そう思ったら涙が止まらない。
嗚呼、逢いたい。逢って話をして謝りたい。
むくり、と起き上がって教室に向かう。
勿論、佐伯に謝るために……。
きゅっ、きゅっ。
私の足音だけが廊下に響く。
私のクラスの教室に近付く。すると聞こえてくる皆の声。
「それにしてもー涼さーなんであんな女と一緒にいたの?最近付き合い悪いなぁ、と思ってたらー」
妙に間延びした艶っぽい声で聞く声はクラスの女子代表、豊島 杏里だ。前に私に嫌みを言ってきた。
そこに…、
「あえて言うなら……ゲーム?」
聞きなれた掠れ気味の声が吐いた言葉に呆然と立ち尽くす。
「何それー!?かわいそー!!」
キャハハ、と爆笑する皆の声。
「で、どんな内容なんだよ?」
と、男子が聞く。
お願い!やめてっ!
私の声は誰にも聞かれることはない。
「っとねー琴吹さんが何日で僕に堕ちるか?」
事もなげに私を絶望の縁に追いやる。
佐伯の声にまた誰かが何かを言ったけれど、私の耳には、
『何日で僕に堕ちるか』
アレは、ゲームだったの?
慰めてくれたのも、喧嘩したのも、俺様だって事を私にだけ教えてくれたのも…。
「はは、」
乾いた笑み。
笑うしかないじゃない。こんな屈辱。
「あははは」
大丈夫。聞こえるはずない。
皆、盛り上がってるから。
「あ、はっ……うぅ。はは」
もう、どうでもいい。
ここに来る意味がない。
そのまま、私は家に帰った。
鞄も何もかも屋上に置きっぱなしにして。
* * *
次の日。私は高熱を出した。
この際だから言っておくが私は独り暮らしだ。
お金は実家からの仕送りのみ。
だから風邪をひいても誰も看病してくれない。
「ごほ、すみません。山田先生、私……今日、ごほごほっ」
『風邪か?無理せず休めよ…』
電話の向こうから聞こえてきたのは優しい声。
「ありがと、うございます」
なんとか話し終わってほっ、とする。
正直とても辛い。動くのも億劫なので風邪薬を飲んでベッドに滑り込む。
そして、すとんと眠りについた。
~~♪
「ん?」
固定電話から、ヴィヴァルディの『春』が流れている。
私は携帯を持っていないので……。
《山田先生》
嗚呼、先生か。
「もしもし?」
『お、琴吹か……ってそうだよな。琴吹ん家に掛けてるんだから…』
「ご用件は?」
『お前、昨日屋上に忘れ物しただろ?』
「あっ!」
そうだった。
『しばらくは学校で預かっとくからな…あ、中身は見ないから安心しろよ~』
茶化すように言う先生に思わず口元が綻んだ。
「はい、ありがとうございます」
そういって電話を切る。
さて、と……。
置き時計を見ると、《5:43》の表示。あちゃ~。朝先生に電話してから17時までずっと寝てたんだ。最近、寝れてなかったからかな。
「だるい……」
淋しいなぁ。
こういうとき友達が沢山いたらお見舞いとかに来てくれるのかな?
ぽつん、と一人の部屋。
佐伯とは……友達、だったのかな?
――逢いたいよ。