◆逢いたくない人っているよね?
「―――はい?」
ここは、屋上。
私の第二の部屋ともいうべき場所である。今は放課後。
「だからー俺様の為に飲みモン買ってこいっつってんだろーが!」
私の前でため息をつきながら胡座をかいている美形、又の名を佐伯。
本人は佐伯様と呼べと言っているが知ったことか!そう言うと叩かれました。鬼…(泣
彼は出会ったあの日から毎日のように私の聖地にやってきます。
そして今、鬼は私にコーヒーを買って来いと強要します…クスン。
「なぁ?桜華~あの教室で俺とお前、どっちが発言力あると思う?」
にたにた笑いながら聞いてくる様は獲物を追い詰めた狼のようです。
私は重い腰を上げると、
「いつまでココにいる気なんですか?」
と聞いた。すると…、
「飽きるまで」
……。今すぐこの聖域から出てけ!このド鬼畜俺様めっ!
* * *
「はぁ…」
なんでこんなことになってんだろ私。
私はもともと口下手で人と関わる事柄はすべて避けてきた。一時は学校もいきたくない、と思ったほどに。なのになんでクラスの人気者の佐伯と関わってんだ…。一番厄介な相手だ。
とぼとぼと学校を出て近くの自動販売機に向かう。すると、クラスの私が苦手なギャルっ娘達が自販機の前に固まっていた。……最悪。
脳内でgoとstopを秤にかける。ついでにコーヒーを買ってこなかった時の佐伯の顔も。
結果はgo。重い足を引きずるようにして自販機に近づく。
(早くどっかいかないかなぁ)
私の願い虚しく彼女たちは一向に去っていく気配がない。
何でまだいるのよ。買ったならさっさと帰りなさいよね。
視線を感じたのかちらっ、と一人がこちらを見てグロスで光っている唇を動かして周りの人に何か言う。
あ、退いてくれるのかな?そのまま何もせずに俯いて爪を弄っていたら集団がこっちへやってきた。
――え?
リーダーっぽいゆる巻の子が、
「さっきからアタシ達のこと見て何が楽しいの?」
とキツイ声で言った。うわぁ、嫌だなぁ。こういう空気……周りの子たちは私のことをじろじろ見てくるし。
「べ、別に…飲み物、買いたかっただけ…」
やっとのことで絞り出した声は掠れまくっていた。
でも聞こえたらしく、
「あっそう…でもキモいからヤメタほうがいいよー」
とおどけた口調で言った後皆でキャハハと笑いながら去って行った。
あーあ。まただ。屈辱感で胸がいっぱいになる。私は人が嫌いだ。
「うっうぅ…」
胸が痛くなって、息が上手くできなくなる。
震える指でコーヒーを買って、ガコンッと出てきたコーヒーの熱さに顔を顰める。
あ、ホット買っちゃった…。でもお金もうないし。やなことずくめだ。
行きよりも重い足取りで来た道を歩き出す。
これ見たら何て言うだろう。佐伯…。
怒るだろうなぁ。来なきゃよかったんだ、遠回りでも
コンビニ行けば良かったんだ。
カツン、カツンと一段一段踏み締める。涙を必死で堪えながら…。
* * *
「なんだ、どーしたっ!?」
第一声がこんなに心配そうな声だなんて…反則だよ。
いつもみたいに俺様口調であれこれ指図してよ。
そうしたら、いつもみたいに文句垂れながらやってあげるから。
「うっ…、ヒック…」
堪えていた涙が溢れ出す。
こう、ぶわぁっ、と。
「そんなに嫌だったのか?それとも何かあったのか?」
とんとん、と元気づけるように背中を優しく叩かれる。
でも、これ以上心配かけるわけにはいかないから…ふるふると首を横に降り続ける。
「そうか…じゃあ泣き止め。お前は笑顔だけが取り柄なんだからよ」
そう言ってにかっと笑う。
嗚呼、これが彼の優しさなのかも知れない。
「はいっ!」
その時だけは素直に頷いてあげた。
後日談。
(台詞のみw)
涼「で、なんでこれホットなんだ?オィ…今、夏だぞ?ささやかな俺様への嫌がらせか?あぁ?」
桜華「違うわっ!指がいけないだっ!私の指がっ!私のせいではない!」
涼「ほぉ?ということは、その指、へし折っていいのか?」
桜華「ヒィィィ((゜Д゜ll))!」