◆屋上から始まったのは?
私の将来の夢は『作家』。
いろんなドキドキやわくわくを物語にして。
私が想像した世界がずっと後まで残るなんて素敵な事だと思わない?
だから私は『作家』になりたい。
今、私が書いているのは“恋愛モノ”つい最近“トリップ冒険モノ”を書き終えたばかりでなんだかドラゴンとかエクス〇リバーとかを書きまくっていたので、甘ぁいお話が書きたくなったの。
ぺたん、と冷たい屋上のコンクリートに座る。
今は夏だけれど、日陰のここは涼しい。
ノートを取り出して息を吸う。
そして――物語を書き始める。
物語は“屋上”からはじまる。授業が嫌いな“私”は屋上でサボるために屋上に行く。
そこで、“彼”と出会うのだ。
とってもどこにでもあるネタ。でも、楽しいからよしっ!
と割り切っている。
- - - - *
『ふぁ、あ…』
大きな欠伸を一つしてアタシは寝転がる…いや寝転がろうとした。アタシは何かに引っ掛かって地面とこんにちは、だ。
『むぅ…』
眠そうに起き上がる…人。
『おはようございます』
律義に挨拶してきたよ?この人!?どーしよう!!
『お、おはようございます』
_ _ _ _ _*
「お前、何書いてんの?」
「ぐべぼぉっ!」
黙々とシャープペンシルをノートに走らせていた私に突然、耳元の上を通過した甘い吐息。
「色気もへったくれもねぇ悲鳴だな」
掠れた声。変声期真っ只中の男子の声だ、と思う。
バッ、と振り向くと馬鹿にしたような薄笑い。
「人をのぞき見する人に言われたくありませんー!」
私が言い返すとは思わなかったのか
吃驚した顔をした。それからにんまり笑って、
「そういう顔も出来るんだ」
なんだコイツただの変態か?
それとも変質者……?
どうしよう!
よくよく見ると、色素の薄い焦げ茶色の髪はさらさらと風に揺れ、髪と同色の瞳は真っ直ぐ私を見詰めていた。
いわゆる優等生の鏡のような顔……というべきだろうか?
しかしそこには凶悪犯も後ずさるような荒んだ笑みが乗っけられていた……。
「誰?貴方……」
訝りながら見詰め返すともっと吃驚された。何で?
「俺達……クラスメートなんだけど……まさか…知らなかった?この俺様を?」
ひくっと頬が動く。
マジですか……?
全く存じ上げませんが?
「はっ…ありえねー」
渇いた笑みを湛えながら美形は言う。
「ま、仕方がないよね?」
―――え?今の声はどこから?
きょろきょろとあたりを見回す。しかしここには俺様と私しかいない。
「ははは、おもしろー」
まさか――こいつ?
ないない。それはない!
「俺だけど?」
柔和そうな顔立ちに、縁無しメガネ、僅かに微笑みを湛える様子はまるで神の使いのよう――。
皆、この笑顔に騙されるんだっ!絶対そうだ!
「人聞きの悪ィこと言うなよ?」
あああああ!その顔で不良口調!
やめとくれ!全国の女子が悲しむからっ!
だいたいなんなんだ!その切り替えの早さはっ!
「ま、教室ではこっちだし?」
ちゃきっ、とメガネを掛けなおす。その姿はどこからどう見ても優等生委員長キャラ。
特技欄に書けるんとちゃいますか?
「俺様の名前は佐伯 涼、覚えといてよ?」
後半は優等生キャラ、やばい、この子――強い!
「と・に・か・く…この事は他言無用~ばいばい~」
な、…!
わたくし、琴吹 桜華。佐伯 涼のとっぷしーくれっとを知ってしまったようです。
そして――…屋上から始まったのは、あまあまな恋ではなく…悪夢なのでした…。
今日の一言。
――知らぬが仏。