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第3話 〈戦士たち〉の円卓

 ~キロン~


「——陛下。ご報告申し上げた通り、彼ら人間達は『寂寥の森』からおよそ二キロの地点に、集落を築いておりました。数は武装した者がおよそ二千。その他、子どもや年老いた者や怪我人など、非戦闘員が千弱はいるようです」


 姫様のもとを離れ、俺はルイーズ殿とその調査隊とともに王城に帰還していた。


 俺達が到着すると、直ちに軍事会議が開催された。

 『ニヴルヘイム』の中でも、選ばれた強者たちのみが集う会議だ。


 巨大な円卓を囲み、国王陛下を含む五人の〈戦士〉たちが席についている。


「……わざわざあの霧を超えて来るとは」


 若い女性が苛立たし気に呟いた。

 マルティナ様だ。


 美しい女性(ひと)だが、敢えて飾り気の少ない甲冑を纏い、長い銀髪を一つにまとめたその恰好は、動きやすさを優先したいかにも〈戦士〉然とした出で立ち。


「まさか、我が国の秘宝を奪いに来たのでしょうか……」


 怪訝そうな声を漏らすのはもう一人の女性。


 円卓を取り囲む他の者よりやや金色がかった髪を、丁寧に編み込んでいる。

 品が良く(たお)やかな女性だが、その表情には微かに不安の色が滲んでいた。


「いいえ、母上。恐らくそうではないと思います」


 ルイーズ殿は首を横に振った。


 そう。彼女は軍事総長殿の母君だ。

 国王陛下の再従兄妹(はとこ)にあたる。


「彼らの会話を確認したところ、どうやら人間同士の覇権争いに敗れて逃げる最中に、偶然迷い込んだだけのようです。霧の前で敵に囲まれて、非戦闘員も多かったことから他に逃げ場がなかったのだと」


「敗残兵と避難民か……避難民のほうは大方、争いで村を追われた者たちと言ったところか」


 尚も不安そうなルイーズ殿の母君の代わりに口を開いたのは、ひと際豪華な椅子に座す壮年の男性。


 我らが霧の王国『ニヴルヘイム』の現国王、メイザ―陛下である。


「はい、陛下。恐らくは」


 ルイーズ殿は頷いた。


「ふん。一か八かで霧の中へ逃げ込んだら、その先に魔物のいない楽園を見つけて厚かましくも居座ったと言う訳だ」


 俺が不満をあらわに鼻を鳴らすと、


「そうね。私たちが常時魔物を退治しているとも知らずに」


 甲冑を纏ったマルティナ様も頷いた。


「——陛下」


 わずかな沈黙の後、ルイーズ殿は口を開いた。


「いかがなさいますか?数は三千足らずですが、人間にしてはかなり腕の立つ者が何人か紛れているようです」


「まあ、恐ろしい」


 彼の言葉に、母君は眉間に皺を寄せた。


 彼女は心優しい人だが、少々心配性で臆病なところもある。

 だが今回に限っては、彼女の反応は至極真っ当だ。


「安心して、レノラ。多少できると言っても所詮は人間。我が国の〈戦士〉に敵う筈はないもの」


 俺が何か言うより先に、マルティナ様が落ち着いた力強い声でそう言った。

 確かに、その言葉は間違ってはいない。


「それに、霧の結界を超えたとは言え、『寂寥の森』の中で我が国に至る『扉』を見つけるなど不可能です」


「マルティナ様、ルイーズ。それは……そうですわね」


 マルティナ様の言葉にルイーズ殿も付け加えると、彼の母君も一応納得したように頷いた。


 ——だが、違う。それで終わるのはよろしくない。

 そう言う問題ではないのだ。


「しかし何かあってからでは遅い」


 俺は、敢えていつも以上に低い声でそう言った。


 周りからは不機嫌そうに見えたかもしれない。

 だが構わない。それが俺の役回りと言うやつだ。


 誰も言わぬなら、俺が言わねばならぬ。


「我が国に害が及ぶ前に、直ちに皆殺しにすべきです」


 マルティナ様が、(たしな)めるように俺に視線を送ってくる。


「キロン、あなたはまた過激なことを」


「国と民を守るためです。行き過ぎた発言とは思いませんな」


 だが俺は、彼女の瞳を正面から見つめ返した。


 僅かな沈黙が訪れる。

 気まずい空気——だったかもしれない。


「何も殺す必要はないと思いますが……」


 その沈黙を破ったのは、ルイーズ殿の母君だった。


「キロン将軍の危惧ももっともですわ、マルティナ様。人間達が何を求めているにせよ、彼らがわたくしたちにとって危険な存在であることは確かだと思うのです。彼らは『光に祝福されし子ら』。わたくしたちとは違う。殺す必要はなくとも、霧の外へ追い払う必要はあるのではないでしょうか」


「それは……その通りね、レノラ」


 マルティナ様は素直に頷いた。

 そして陛下に顔を向ける。


「レノラの意見に私も賛成です、お父様。霧の内側はやはり人間が居るべき場所ではありません。万に一つも、この『ニヴルヘイム』の存在が知れては厄介です」


 それを聞いた国王陛下は、意見を問うように俺に視線を向けた。

 陛下はとかく立派なお方だ。

 俺のような嫌われ者でさえ、配下の者の立場を決して蔑ろにしない。


 俺は「それでも甘い」とは思ったが、敢えて反対するのは止めておいた。

 霧の内側を知られただけでも危険ではあるが、一度怖い思いをさせてやればもう入ってくることもないだろう。


 俺は小さく頷く。


「……ルイーズ」


 陛下は、最後に軍事総長に向かって仰った。


「次期国王のお前はどうだ」


 ルイーズ殿はその言葉の重みに少し迷っているようだったが、やがて口を開いた。


「私も……彼らに出て行ってもらうのはやむを得ないかと考えます、陛下」


 当然だ。

 俺はそう思った。


 陛下は小さく息をついてからゆっくりと頷き、


「わかった。よかろう。ならば——」


 だが、その時だった。


「お待ちください!」


 会議室の扉が乱暴に開け放たれ、一陣の白い風のように中に舞い込んできたのは、()()()だった。


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