プロローグ:滅びゆく運命
~レオン~
「やはり、我々は滅びゆく運命なのでしょうか……」
鬨の声と断末魔が入り混じった喧騒の中。
そこかしこで降りしきる鮮血の雨をどこか遠い目で見ながら、『学者』が呟いた。
「レオン!北東に新たな敵影四千!」
「南からも三千来る!囲まれたぞ!どうする!?」
おれが『学者』に何か答える前に、ザックとジェラルドの叫び声が耳朶を打った。
——みんなが、おれの判断を待っている。
「……已むを得ん。撤退だ!」
おれは振り返って叫び返した。
「撤退って、どこへだよ!?」
「三方を敵軍に囲まれてるんだ。他に道はない」
ザックの悲鳴のような問いに、おれは静かに答え、そして西の方角を顎で示した。
視線の十数メートル先には深い森の入り口——があるのだろうと思われる。
——断言できないのは、彼らの西側はどこまでも暗い濃霧に覆われているためだ。
数本の木々が僅かに見え隠れしているから、そこは森なのだろうと辛うじて推測できる程度。
霧の中に入ってしまえば最後、二メートル先が見えるかどうかと言ったところだろう。
「こ、この真っ暗な霧の中に入るってのか……!?視界を完全に奪われたまま闇の大地を進むなんて、正気の沙汰じゃねえ!」
「自殺行為だ……こっちは戦えない女子どもや老人どもが山ほどいるんだぞ?」
「……だからこそだ」
怖気づく二人に、おれは自分自身の不安を払拭するために、敢えて落ち着いた声できっぱりと言った。
「このままここに留まれば、どのみち俺達は確実に皆殺しだ。それこそ紛れもない自殺だろう。それなら、一か八かに掛けるしかない」
話している間にも、たった数十メートル先でひとり、またひとりと仲間が敵兵に切り殺されていく。
断末魔の叫びは途切れることがない。
もはやおれの言葉に、反論する者はいなかった。
「……行こう、みんな。どうせ死ぬ運命なら、最後まで足掻ききってやる」
おれの静かな号令とともに、敵軍に追い詰められた二千の兵と千の非戦闘員は一縷の望みを懸けて濃霧の中へと突入した。
——その選択が果たして正解だったのか、それともあの場で滅びを受け入れるべきだったのか。
それは今でも分からない。




