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第12話 青い肌の妖精の国

 ~ジェラルド~



 早朝の、リコの父親の涙で枯れたような声。

 広い治療室の一角で仮眠をとっていたザックと俺は弾かれたように跳ね起きた。


「思ったより早かったか……」


 その声だけで、ザックも俺もだいたいのことを予想していた。


 だが、カーテンを開くと、それは予想とは全く違う光景だった。


 昨日まで余命僅かだったはずのリコの母親が、まるで子どものように泣きじゃくる夫の頭を優しく撫でているではないか。


 その顔は年相応に若く瑞々しく、いかにも健康そのものと言った感じだ。

 顔にも、寝巻から覗く手足にも細いうなじにも、昨日までの紫色の斑点もなければ醜く膨れ上がった血管も見えない。


「ど、どうなってんだ……?」


 言葉が出ない俺の代わりに、ザックが呻くように尋ねた。


「この子がくれた薬が効いたみたいです」


 そう言って、母親はこちら側、簡易ベッドの脇の簡素な木の台に置かれた小瓶に視線を向けた。


 俺はそれを摘まみ上げる。

 やはり改めてよく見ると、随分と立派な造りだ。


 透き通るガラスも見事だし繊細な装飾まである。

 偽物とは思うがまるで本物の金細工のようだ。


 この村にある物はもちろん、軍で使っていたどの回復薬の小瓶とも違う。


「これは……?」


「娘が、どなたかに戴いたのだと」


 母親はそう答えた。


「すげえ回復薬だな、おい」


 ザックが素直に感心したように呟いた。


(馬鹿な……)


 コイツは戦闘しか取柄のない阿呆だが、俺は違う。

 『学者』が仲間に加わるまでは、このチームの“参謀”役を担っていたと言う自負がある。


 その俺は知っている。

 この集落に、そんな高レベルの回復薬なんか残ってやしないことを。


 ということは、まさか……


「リコ!リコ!起きろ。起きてくれ」


 俺はまだ母親の布団の中で眠る幼い少女の肩を揺さぶった。


「……んん?なぁに?」


 リコはやっと目が覚めたようで、眠そうに瞼をこすりながらも体を起こした。

 そして、母親を見て——


「あ!お母さん!良くなったんだね!」


「ええ、あなたがくれたお薬のおかげよ」


 母親が優しく微笑むと、


「よかったぁ!」


 リコは満面の笑みを浮かべた。


「なあ、リコ、この薬はどこから……誰からもらったんだ?」


 俺が尋ねると、


「えっとねぇ!森の中で、すっごく綺麗なお姉さんからもらったの!」


「も、森!?リコ、あなた昨日、森に入ったの!?」


「そうだよ!お姉さんと一緒にいたコワい人たちが、リコのことを()()()()としたんだけど、お姉さんがたすけてくれたの」


「な……!」

「こ、ころ……!?」


 言葉を失う両親を他所に、リコはにこにこ笑って続ける。


「それで、これをお母さんに飲ませてあげてって。……あのお姉さんはね、きっと妖精さんだよ!しかも妖精の国のおひめさまなの!」


「よ、妖精?」


 父親が怪訝な顔をする。


「そう!耳が尖ってて、青い肌の妖精さん!」


 リコは何故か少しだけ自慢げに胸を張った。


「青い肌……」

「……妖精の、”国”だと?」


 ザックと俺は、すでにある可能性に思い至っていた。


「おい、ザック。今すぐレオンと『学者』を呼んで来い」


 俺はザックに向かってそう言った。

 ザックもすぐに頷く。


「……これは女神が与えたもうた、千載一遇のチャンス——俺達にとっては、最後の希望になるかもしれん」


 無意識のうちに俺は小瓶を握りしめながら、虚空を睨みつけていたようだ。


「どうしたの?おじさん。そんなにコワい顔をして」


 リコが心配そうに俺を見上げてそう言った。



     Ψ


 ~レオン~



「《光の剣》の秘術が欲しければ、まずは貴殿が王たる器の持ち主であることを示せ」


 やつらはおれに、そう要求した。


「どうやって示せばいい」


「『黄金の魔剣』だ。九百年の昔、魔人に盗まれた王者の剣。この剣を見事やつらから奪い返して見せよ」


「魔剣?お前たちは、そんなものが欲しいのか」


「否。望むのは我らではない、貴殿だ。勇者の血を引く者よ」


「どういう意味だ」


「『黄金の魔剣』は偉大なる聖王の遺物。まごうことなき王者の証。()の魔剣を手にすれば誰もが貴殿を真なる王と認めるであろう。その時は我らも喜んで光の奇跡を与え、子々孫々まで貴殿の王道を陰で支えようではないか」



 ——あの時、やつらはそう言っていた。


 ……何が「子々孫々まで陰で支える」だ。

 要は国を裏で支配する魂胆だろう。


 しかし『星の民』が滅亡の危機に瀕した今、滅びゆく彼らを救うには、やつらの力を手に入れるよりほかに道はない。


 探知魔法に秀でた『学者』の全力を傾けて尚、その所在の手掛かりすら掴めなかった『黄金の魔剣』。


 それを奪った、悪魔の末裔たちの国。


 まさか、あの霧の先にあったとは。

 ここに来て首の皮一枚繋がるとはな。


 ——これも運命というやつなのだろうか。


 窓の外に目を向けた。


 今宵は新月。

 夜空に輝く月はない。


 ——しかし、本当にこれが正解なのか。


 おれは深呼吸してから、皮袋の中の魔水晶をとり出した。

 木製のテーブルの中央に置き、そして起動の呪文を詠唱する。


「……響け、時空の彼方。繋げ、魔導の回廊」


 俺の声に呼応して水晶は魔力の光を纏う。


 ——やるしかない。

 仲間を、そしてエリーゼを守りたいのなら。



 ほどなくして、魔水晶はやつらの姿を映し出す。


『久しいな。……勇者の血を引く者よ』


 おれはそれを確認してから、告げた。


「——見つけた。霧の国『ニヴルヘイム』だ」



お読みいただきありがとうございました!

このエピソードで第二章は終わりです。第三章からはいよいよ物語も後半に入り、展開がスピードアップしていく予定です!


もしよろしければ、評価やブクマなどいただけると、大変うれしく、励みになります!


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