プレリュード:蒼の血
~『学者』~
先に言っておくと、これは『教会』の教えではない。
これから私が話すことは、あくまで地方に伝わる民間伝承、
要するに、田舎のお伽話の域を出ないということを予め伝えておく。
——遥か昔。
それこそ、“聖王歴”が始まるよりずっと前のことだ。
嘘か真か、自惚れが極まった人類は、ついには神にまで挑んだと言う。
絶対的な支配者たる神々に対抗すべく、人々は魔族や竜族まで使役しようとしたというから、その計り知れない傲慢さにはたただた畏れ慄くばかりだ。
大戦の最中、人間達が用いた禁断の呪法によって、極めて強力な九体の大悪魔が地上に召喚されたと記されている。
彼らを呼び出すのに、まして使役するのに、いったいどれほどの命を贄として差し出したのか。
想像するだけでも恐ろしい。
しかしたった一柱で国一つを滅ぼせる程の強大な魔族でさえ、やがては神々との激しい戦の果てにその力のほとんどを失った。
同じ魔族でも、魔神種と異なり物質界での肉体を持たない悪魔種は、依り代となる器を失っては長く地上に留まることができない。
神々によって魔界に帰る術を奪われた彼らは、本来ならただ滅びを待つだけの存在となったはずだった。
しかし、悪魔たちは自らの運命を受け入れなかった。
滅びゆく定めに抗い、最後の力を振り絞って九人の女に憑りついた。
女たちは、いずれも妊婦だった。
人に憑依したところで、すでにその肉体を乗っ取るだけの力すら残っていなかった彼らは、女たちの腹の中の小さな命に狙いを定めた。
まだ自我の芽生えていない胎児の魂に自らの魂を融合することで、何とか“完全なる滅び”を免れたそうだ。
そうして生まれた九人の赤子は、どれも母となった種族と酷似した姿をしていた。
にも拘らず、まるで穢れた魂を証明するかの如く、その体に流れる血液は青色だったという。
彼らは邪悪な魔族の魂を引き継ぎながらも、表向きは人のように振る舞ったとも伝えられている。
しかしその本性はやはり魔族らしく極めて残忍で狡猾。
隙あらば人を襲い、騙し、殺し、そして喰ったという。
それでいて妖精をも超える恐ろしい魔力を持っていたのだそうな。
人々は彼らを“魔人”、あるいは“蒼い血”と呼び、大いに恐れた。
——そう。少なくとも、私が集めたどの文献にもそのように記載されていたのだ。
そしてその時の私も、それを僅かでも疑うことはなかった。




