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柳棚国男

「お待ちしてました、いもたち。先生お待ちしておりました」


 そう柳棚国男は在原業平一行を迎えた。在原を挟んで両隣には制服姿の女子高生二人。


「誰が芋だ。このアホ茄子野郎」そう葛原けい子は国男に毒づいた。


「ズバリ妹というのは、親しい女性を指す古風な言い方でしょう」


 小野まちこは柳棚国男の物言いが苦手で、会話は葛原けい子に任せていた。けい子は男子にも物おじしない姉御肌的なところがあり、二人の会話は知らない者が見ると若手漫才の練習のように思えた。


「あんたといつ親しくなった。私たちは業平さんを置いたら、とっとと帰るから」そうけい子は言うのだが。


「お部屋は用意できてます。ここの二階になります。私はこの店の留守番を父から頼まれたので案内できかねますが……。母さん、お客さんが到着したよ。お茶お願い」


 客なんて来そうもない本屋なのだが、国男の友達の溜まり場となっていた。


「旅館でもあるまいし。この階段を上がって行けばいいんだね。爺さん、下から覗かないでよ。それにしても急な階段だ。狭い家だってわかるよ」


 まちこは、先に行くけい子のパンツが丸見えで国男が下から覗いてないか確かめて上がっていく。


「店番を母さんに変わってもらいました。お茶菓子なんか先生のお口に合うか……『萩の月』なんですけど」


「あんた馬鹿だね。江戸時代の芭蕉なんか業平さんが知るわけないだろう。田舎もんはこれだから。京都の八ツ橋ぐらい出さんかい!それにそんなもん爺さんの口に合うかどうか……。爺さん珍しいんで食べている」


 業平はお腹が空いていたのか、次々と小袋をあけ食べていた。


「先生は甘いものが好きかと。この菓子は芭蕉同好会のお土産でして、私は関わりがなく歌の道一筋の所存でございます」


「『シェイクスピア全集』『夏目漱石全集』『松尾芭蕉 奥のほそ道』『奥様の細道写真集』とか。『万葉集』ぐらい置いときなよ」


そう、けい子は本棚を見ながらつぶやく。


「それは爺さんのコレクションで。先生の歌集なら、うちの店にもあると思います」


「業平さんが現代の言葉わかると思っているの?今日この世界に来たばかりなのに。業平さんとは古典和歌で会話するんだよ」


「名にし負はばいざこと問はむ都鳥 わがおもふ人はありやなしやと」と、在原業平が歌う。


「業平さんはホームシックのようです」と国男が言い、続けて


「淋しくないように写真集も置いておきましたから自由に見て下さい」


 業平はすでに『萩の月』を食べながら『奥様のほそ道写真集』を開いていた。こういうところは昔の人は大胆だとまちこは思った。


「そうでした。さっそく白百合学園の短歌部の顧問就任おめでとうございます。小野さくら先生からもよろしくお伝え下さいと。また二週間後には我が校の短歌部と練習試合があるそうなんで、私も出場させてもらいます」


「あんたそんなの無理に決まっているでしょ。今日やってきたばかりの人が、二週間後の試合なんて」


「いや、それは先生が来る前から決まっていたことで、うちの部長の俵田もまちこさんとの歌会楽しみにしています」


 小野まちこのライバルでもある俵田まちことは、「マッチング対決」というほど世間を騒がせていた。


「まちこに勝とうなんて十年早いわ。私でも勝てそうだもの」


「いえ、うちの部に今度入ってきた新入りが、寺山修司命とかいう絶叫野郎でして、面白いと思いますよ。先生は判定だけでいいんです。選評とかいりませんので、私の歌を選んでくれればいいわけです」


「誰があんたの歌なんて選ぶものですか!」


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