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五章 旭日の蒼穹

# 日ノ本、燃ゆ

# 最終章 旭日の蒼穹


1943年11月5日午前6時31分 日本北方近海

空母エンタープライズ、ホーネットには合計32機のBー25が搭載されていた。

(本当にやるんですか?)

源田が聞く。まさに異例のことが起きようとしているのだ。

(ここまで来て引き返すことはできません。それにドゥリットル中佐もやる気です。)

この日、日米連合軍は歴史に残る出来事をしようとしていた。陸軍航空隊のBー25を使用して大湊沖に停泊している空母部隊を奇襲。反跳爆撃で敵空母を損傷させるという作戦であった。この作戦を実行するにあたってアリューシャンは強い警戒状態にあるため、米海軍の空母2隻を使用して行うことになったのだ。この作戦のために、志願者を募った結果これだけの人数が集まったのだ。そして、隊長はドゥリットル中佐が務める。もちろん、これは決死の特攻などでは無い。爆撃したあとは、燃料続く限り外満州へ飛んで間に合うなら不時着、間に合わなくても極限まで飛び続けて脱出するという方法を取っている。ドゥリットル飛行隊は、この日のために約1ヶ月訓練を積んでようやくこれを行える目処が立った。しかし、重量の関係や反跳爆撃の効率を考えて各機2発ずつの500ポンド爆弾になっている。これでは命中率に不安が残るため、4機1小隊で8個の中隊を作り1隻を集中攻撃する。中でも、防御の薄い軽空母は狙いやすいため軽空母は無力化するように言われている。

(そろそろ発艦の時間です。ここまで見つけられていないのが奇跡ですね。)

(えぇ。)

2人はエンタープライズの艦橋に戻った。エンタープライズ、ホーネットの後方には2隻の航空援護を担当する瑞鶴が航行している。

(発艦始め!)

ドゥリットルのBー25

(ソ連に新年祝いのプレゼントを届けに行ってくるぜ!)

エンジンスロットルをめいっぱい開いて、走り出す。甲板の切れ目が眼前に迫ってくる。発艦したら、着艦などできない。

(いけ...いけ!)

エンタープライズの航空管制官が思わず叫ぶ。切れ目から、Bー25が急速に落下していく。

(うわあっ!)

しかし、上昇した。Bー25の最初の機体は、見事発艦に成功したのだ。ホーネットの機体もこれを見て勇気が出たのか、続々と発艦していく。こうして、見事に全機が発艦した。発艦を見届けた各空母は直ちに転舵、日本本土から遠ざかる針路を取った。

青森県 大湊 ソ連海軍正規空母バルハシュ

(んあ?なんだ...?)

甲板上で掃除している兵士が黒い点がいくつも迫ってくるのを見つける。それは急速に拡大し、中型機であると分かってくる。

(よーし、俺たちの小隊はあいつを狙うぞ!損傷どころか着底させてやる!)

ドゥリットルの小隊は、一気に超低空飛行に移り敵空母を目指す。

(爆弾槽開け!)

爆弾槽が開き、海が見える。

(いいぞ...。)

対空砲火はまだない。気付いていないのか、慌てて準備しているのか。どちらにせよ、投下には間に合うまい。

(投下!)

急上昇して、爆弾を投下する。爆弾が水を切ったあとが見える。そして、敵空母の上空をかすめ飛んだ直後、敵空母の側面に2つ爆炎が踊り水柱が3本立つのがみえた。

(命中!合計5発命中です!あの距離の水柱なら傾斜しますよ!)

第二Bー25中隊長 ジェームズ・ハルゼイ機

(おーやってるやってる。軽空母3隻に正規空母1隻が損傷か。俺達も遅れないようにするぞ。)

続く16機が超低空飛行に移る。少しづつ対空砲が目立ち始めた。

(残ってる空母は軽空母1、正規空母1か。ま、全部はやれんか。この2隻は仕留めさせてもらうぜ。)

8機に別れて2隻を目指す。

(よーしよしよし...。もう少し右か。)

機体の軸を微調整する。

(.......投下!)

同じ手法で爆弾が投下される。2隻に16発ずつの反跳爆撃が行われる。

(いやー、お宅の空母もでかいな。)

上空を掠め飛ぶ。

(1、2、3発命中!敵正規空母に爆弾8発命中、水柱も4本立ちました!軽空母の方は、分かりません!とにかく大炎上です!)

(よし!大成功だ!)

あとは、中国を目指すのみだ。帰還してこそ、任務を達成したと言える。

1943年11月6日 ソ連海軍太平洋艦隊司令部

(正規空母2隻大破、軽空母は全滅...だと?)

(はい、正規空母のうち1隻は多数の命中弾により大破着底、修理不能です。)

(もう1隻はどうにか修理できんのか?)

(至近弾による損傷はありましたが、傷付いたのは艦側面だけです。航空機を搭載できて発着出来ればそれでいいと申されるのであれば、可能です。)

(それで進めろ。次は一大決戦なのだ。空母は1隻でも増やさなくては行かん。軽空母には、例の艦を加えろ。あれはうちの正規空母の搭載機数に準ずる数載せられる。)

(了解しました。)

昨日の爆撃で、ソ連海軍はそこに居なかった1隻を残して全ての軽空母を喪失。正規空母も1隻が大破着底し、もう1隻もそれなりに損傷し決戦までに万全の体制には修理できそうにない。そのため、ここでソ連海軍の空母戦力は合計7隻、日米連合軍には少なくとも同数か少し多いくらいの空母があるはずだ。

(数的不利か...。そっちがその気なら、こっちにも秘策がある。)

同日 広島県呉市

(思ったより戦果が少ないですね。)

源田が発言する。ドゥリットルは軽空母4隻は絶対に撃沈するという作戦目標を達成しているため彼を責めるつもりはないが、あれだけの機数で奇襲した割には戦果が少ないと言いたげだった。

(運が悪かったのでしょうな。どの日にどの空母がいるのかは、いくらなんでも調べようがありません。正規空母2隻、軽空母4隻停泊していただけでもありがたいと思うべきでしょう。)

ニミッツが返す。事実、これで彼我の空母戦力は日米軍9隻vsソ連軍は多くて6隻と数的有利を手に入れたことになる。日米軍は本当はあともう1隻空母が増えていたはずだがそのインディペンデンス級は呉に向かう途中にソ連海軍潜水艦の奇襲を受け撃沈されてしまったのだ。

(これで、あとは飛龍の点検さえ完了すれば我々は首都の奪還をかけた決戦に挑める訳ですな。)

山口が血が滲まんばかりの勢いで拳を握りしめ決意を口にした。山口は、前回の舞鶴沖海戦にて戦略的に勝利した後、捕虜の証言でソ連軍に一杯食わされていたことが分かり歯がゆい思いをしたのだ。

(我々は、九十九里浜に上陸後東京や横須賀を目指します。ここで、戦力を確認しておきましょう。)

山本が自ら艦隊構成が書かれた紙を持ってきて広げる。

日本海軍 機動部隊

甲部隊(第1群)

空母瑞鶴

空母飛龍

軽空母海鷹(元インディペンデンス)


乙部隊(第2群)

軽空母雲鷹(元インディペンデンス)

軽空母神鷹(元インディペンデンス)


米海軍機動部隊

第16任務部隊

空母エンタープライズ

空母ホーネット


第17任務部隊

軽空母プリンストン

軽空母ラングレー


日米混成艦砲射撃部隊(主力)

戦艦大和

戦艦長門

戦艦サウスダコタ

戦艦インディアナ

戦艦榛名

となっている。斯くして、日米連合軍は日本本土奪還の最後の大詰めに向け呉を出港したのである。

1943年12月10日 和歌山県沖 1時25分

日本海軍機動部隊甲部隊旗艦 瑞鶴

(さすがに冷えますね...。)

(すぐに暖かくなるさ。いや、熱いという方が正しいかもしれんが。)

戦場に出れば、今回機動部隊が相手にしなければいけないのは空母機動部隊に加えて飛行場4つである。これでも、戦艦隊に2つの飛行場を任せたくらいであり沿岸砲台もこの部隊が叩くのだ。ソ連軍は全体的に関東を要塞化しており陸海両面からの侵攻が必要なのである。

日本海軍機動部隊 乙部隊旗艦雲鷹

(軽空母2隻の機動部隊というのは、なかなか見られませんね。)

幕僚のひとりが苦笑する。

(確かにそうだが、今の我々にはこの米軍の空母が貴重な戦力だ。軽空母が正規空母並みの活躍をすればよいのだ。できないことはない。)

角田が言う。確かに日本海軍の乙部隊は主力が軽空母な上にアメリカ製である。しかし、どんな艦でもそれ相応の使い方をすれば活躍できるのだ。と言いたげであった。

(駆逐艦ウォーラーより左舷前方より発射管注水音探知!)

(敵も本気だ。)

(面舵いっぱい!)

潜水艦の魚雷を避けるべく艦長が雲鷹の面舵を下令する。しかし、軽空母とは言っても基準排水量は1万を超える。すぐには曲がれない。

(敵潜魚雷発射音確認!)

まだ雲鷹は直進している。

防空指揮所

(どこだどこだ...あれかっ!雷跡2本確認!向かってくる!)

伝声管に向かって叫ぶ。雲鷹は曲がらない。

(頼む雲鷹...。被弾してくれるな...。)

ようやく、雲鷹が右に曲がり始めた。間に合うかどうか、微妙なところだ。

(全速後進!)

艦長が被弾確率を下げるために全速後進をかけた。すぐには速度は下がらないが幾分か被雷確率は下げられるはずだ。

(雷跡2本、前方通過!)

(よくやった艦長。)

敵潜がいると思われる場所には既に駆逐艦が爆雷を投下し始めている。仮に撃沈できずとも、これで敵潜は攻撃の機会を失ったはずだ。

(神鷹被雷!)

(なっ!)

幕僚らが雲鷹の左舷後方に位置する神鷹を見る。2本の水柱が立っている。

(あれでは...!)

インディペンデンス級は元々軽巡の船体を流用して建造された空母であり水雷防御はほとんどない。2本も魚雷を食らって、生き残れるとは思えなかった。

1時42分 空母瑞鶴

(な、なにい?)

幕僚の1人が素っ頓狂な声を上げる。山口も目を見張っている。日米海軍の軽空母神鷹、プリンストン、ラングレーが潜水艦の奇襲によって一挙に大破。このうちラングレーは轟沈したらしい。つまり、ここで日米海軍は軽空母3隻を戦列から失ったことになる。

(と、言うことは我が方の空母は6隻になったわけですか!)

(残念ながら、そういうことになります。)

(どうして、対応できなかったのです?)

(群狼戦術を2群ずつ配置したようです。つまるところ、潜水艦で編成された艦隊のようなものです。そんな物量でこられたもんですから...。)

(つまり、ここに来て我が方はソ連海軍の空母戦力と同等の数に引きずり込まれたというわけだな。)

意外にも山口の声は落ち着いていた。

(肯定的に捉えよう。首都決戦で不安が大きいのは嫌だろう?正規空母が襲われてなくてよかった。こう考えよう。)

山口も内心は不安だろう。だが、決して負け確な戦闘ではないのだ。気をしっかり持ち、このお返しを航空戦でしてやればいい。そういう意図が読み取れた。

午前8時40分 空母瑞鶴

(第一次攻撃隊より入電。我、敵航空基地ヲ空襲。効果大ナレド、迎撃熾烈ナリ。今ヨリ、帰還ス。)

(やはり、敵も万全の体制ですな。)

源田が唸る。飛行場攻撃には成功したが、第一次攻撃隊の数は想定より減っているかもしれない。この15分前には、米海軍の方も飛行場空襲に成功したという報告が入っている。機動部隊で片付ける飛行場はあと2ヶ所だ。その仕事は、米海軍に任せて日本海軍は機動部隊と対決しなくてはならない。実質4隻で敵空母6隻以上と対決しなくてはならないのだ。

午前9時12分 飛龍偵察機3番機

(あ、あれは空母じゃないか?)

偵察員が目を見開く。眼下の雲間に平べったいまな板のような甲板が3つみえる。1つは少し小さめだ。識別表には無い。

(うーん。だが、報告するぞ。)

(右上方敵機!)

自分の後ろにいる機銃員が叫ぶ。操縦員が反射的にレバーを右に倒す。飛龍が搭載している偵察機は九七式艦攻という、もう旧式機にも程がある機体だが航続距離が長く開戦からこうして偵察機として使用されているのである。もちろん、他の空母ではアヴェンジャーを使用できるのでアヴェンジャーを使って偵察任務を行うし米軍は偵察&攻撃を行うのでSBDを使って偵察する。飛龍は、飛行甲板長の関係からこうせざるを得ないのだ。

(くそっ、打ち終わるまでは落ちれるかよ!)

必死にモールスの鍵盤を叩く。速度の遅い九七式が敵機に補足されたら、逃げ切れる可能性はほとんどない。

(うぐっ!)

機銃弾が主翼を捉え、火を噴く。

(打電完了!)

その直後、コクピットが粉砕され九七式は主翼が折れ搭乗員3名の意識は暗転した。

午前9時20分 空母瑞鶴

(敵機動部隊発見、空母3、戦艦2、重巡2、他多数。方位334、速力20ノット、距離1009海里!)

(来た!)

源田が言う。

(好機だ!第二次攻撃隊発艦!)

山口は即決した。瑞鶴、飛龍、海鷹の各空母で烈風、二式艦爆、三式艦攻がエンジンの唸りを上げて発艦していく。今こそ、ソ連海軍機動部隊を殲滅する時期である。

午前10時33分 攻撃隊隊長機

(む、敵機だ。)

右下方に敵機編隊が見える。おそらく、敵機からもこっちが見えているはずだ。敵の攻撃隊とすれ違うことはこれが初めてだ。今に敵の戦闘機隊がこっちに来るのではないか、もしくはこっちの戦闘機が空母部隊の身を案じて仕掛けるのではないか。両方の思いを抱えながら、とうとう敵機とすれ違った。どちらも行動は起こさない。隊長はホッと息をつく。あとは、こっちの機動部隊が避けてくれることを祈るばかりである。

午前11時1分

(あ、あれは!空母だ!)

ついに見つけた。偵察機の情報通り3隻だ。

(隊長、1隻は識別表にありません。)

(にしては、小さいな。新型の軽空母か?)

(かもしれません。)

(瑞鶴隊は先頭の敵空母、飛龍隊は右翼の敵空母、海鷹隊は軽空母に攻撃しろ。)

(左上方敵機!烈風隊が向かいます!)

間もなくして、烈風隊と敵のyakが交差し複雑に絡み合う。速度性能は烈風の方が上だ。一撃離脱で、敵機を仕留めていく。それでも、十数機は抜けてこっちに仕掛けてくる。

(来るぞ!)

アヴェンジャー、三式艦攻が後部の12.7mm機銃を敵機にばらまく。敵機は巧妙に軸をずらしながら、射弾を放ってくる。

(攻撃隊隊長機被弾!)

(なにっ!)

前方を見る。あの脱出時から攻撃隊隊長を務めてきた村田重治大尉機が被弾したのだ。こうなれば、次席指揮官は飛龍飛行隊隊長の友永丈市大尉になる。

(くそおっ!)

また1機、2機と落とされていく。機銃員はむやみらたらに射撃はしない。後部の12.7mmはあくまで自衛用だ。味方機を援護しようとするあまり、乱射していてはいざと言う時に自機を守れない。歯がゆい思いではあるが、味方機を見殺しにするしかない。

しばらくして、敵機が去り周囲に対空砲弾が炸裂し始める。

(隊長機よりト連送!)

(よし来た!)

まず艦爆隊が増速し、敵の防空網に穴を開けるべく突入する。艦攻隊は、高度を下げて敵に突入していく。

瑞鶴艦爆隊

(よしっ、いくぞ!)

艦爆隊が一糸乱れぬ飛行で次々と機体を翻していく。

(高度90!80!70!あっ!)

(数えるのを辞めるな!)

おそらく後方の味方が火を噴いたのだろう。だが、高度計を読むのをやめもらって困る。

(ろ、40!30!)

(てっ!)

投下レバーを引いて、一気に機体を引き起こす。物凄いGがかかり、体を押し潰さんとしているようだ。高度計が3000を指したところで機体を水平に戻す。

(1、2、4、5発命中!)

(よしっ!)

攻撃は大成功だ。投弾前に多くの味方が墜ちてしまったが、敵に一矢報いることができたのだ。

飛龍雷撃隊

(5番機被弾!あっ6番機被弾!)

敵空母は大炎上してみる。それでも、味方機が落ちていく。(貴様らを首都には通さぬ)そんな意思が感じられるような弾幕だ。

(ちょい右...ちょい右...宜候!)

機体の軸をずらす。

(よーい...てっ!)

投下レバーを引いて魚雷を投下する。魚雷を投下した機体は9機、4本以上当たれば敵空母は撃沈確実だ。そのまま、敵空母の上空を飛び去っていく。

(1、3本命中確認!)

しばらく待つが、新たな命中弾の報告はない。あと1本足りなかった。だが、艦爆が多数の爆弾を当てている。この空母は少なくとも戦列から離れざるを得ないだろう。この時、日本海軍甲部隊も敵機動部隊の空襲を受けていたのである。

空襲前 空母瑞鶴

(敵攻撃隊、貴方二向カフ。速度150ノット、方位338。)

通信士がそう言って、艦橋から出ていく。

(来ましたか。)

(こちらの攻撃隊と同じ方向というから、3隻分の攻撃隊ですな。)

(烈風隊が向かいます。)

三式艦上戦闘機烈風(F6F)24機のうち12機が、敵攻撃隊の来襲方向へと飛んでいく。

烈風隊

(あれか...。捉えたぞ!)

敵機の後方に回って、降下に移る。

(空母の奴らが楽になるように戦闘機を片付けるぞ!)

照準器の中に敵機を収めた瞬間、発射ボタンを押す。機体が振動し、20mm弾がyakー9に吸い込まれていく。

(おっ!)

敵機編隊を通過する直前、yakの主翼付け根から出火が見えた。降下したあと、すぐに上昇に転じる。速度に乗っている烈風は、それなりに曲がってくれる。

(結構落ちたな。もういっちょ!)

上昇しようとしている敵機に向けて、一連射する。

(やった!)

(小隊長、左下方!)

反射的に、レバーを左下に押し込む。コクピットの上を曳光弾が掠める。敵機とすれ違い、後ろにつこうとする。今度は、前面に別の敵機が映る。ほぼ同時に機銃の発射ボタンが押される。

(うっ!)

機体に被弾した時の衝撃が走る。火が出た。

(クソったれ!)

すれ違った敵機を見る。主翼を破断されたのか、錐揉み状態になりながら落ちている。

(落ちるもんかよ!)

烈風には、消火機能はあるがそれを補助するためにも消火機動を取る。急降下を辞めて、速度を出しつつ空戦戦場から離れる。無理な機動は厳禁だ。

(よしっ作動した!)

翼は真っ黒焦げになったが、飛行は維持できる。空母の元に戻らねばならない。

直掩隊 烈風12機

(敵さんお出ましだ。歓迎してやろうぜ!)

敵の護衛機が想定より少ない。先行した連中が引き付けてくれているようだ。

(IL発見!)

(叩き込むぞ!)

敵機と正面攻撃を行い、後ろを振り向かず攻撃隊の元へ一直線に飛ぶ。

(おらっ!)

20mm4門がILー2に放たれていき、エンジンを撃ち抜かれたのかエンジンから出火した。

(よしゃよしゃ。もう1回...行けそうだな。)

旋回して、敵攻撃隊の下っ腹に20mmをばら撒く。

(1機撃墜!)

空母瑞鶴

(ノースカロライナ、ワシントン、撃ち方始めます。)

烈風隊の効果的な迎撃が効いたのか、ノースカロライナ、ワシントンの主砲の射程に入ってくる敵機は想定より少ない。

(撃てっ!)

戦艦主砲らしい咆哮で、40.6cm砲弾が合計18発発射される。敵機の周囲で炸裂し、子弾を撒き散らす。新兵器のVT信管には、ソ連軍も対抗策を出せていないようだ。

空母瑞鶴

(いい調子だ。)

主砲の炸裂を通り抜けた敵機にも5インチ砲のvt信管が襲いかかる。

(敵機16機、急降下!)

やはり狙われるのは本艦と飛龍になってくるだろう。海鷹の方にも向かっている。瑞鶴のボフォース40mm、20mmエリコンが絶え間なく撃ち続ける。

(敵2いや3機撃墜!)

撃墜報告が上がる。

(敵機上昇!あっ1機撃墜!)

敵機が次々と爆弾を落として引き起こしにかかる。

(うっ!)

瑞鶴の艦橋の右前に着弾する。続いて左舷後部に水柱が立つ。

(海鷹被弾!)

(むぅ...。)

ここに来て軽空母の海鷹も被弾したようだ。巡洋艦改造だから、数発被弾すれば戦列から離れざるを得ないだろう。

(敵雷撃機複数接近!)

今度は左舷側から雷撃機が迫ってくる。

(取舵いっぱい!)

艦長が先程まで出していた面舵から取舵へと命令を更新する。だが、瑞鶴は日本最大の航空母艦、そうすぐには取舵はとれない。まだ面舵を取り続けている。

(敵2機撃墜!)

(敵機、魚雷投下!)

2機を投雷前に止めた。対空砲が水面に機銃を撃ち始める。魚雷を爆砕しようとしているようだ。果たして...

(魚雷4発誘爆!数発来ます!)

なんと、魚雷を誤爆させることに成功したのだ。あとは、残りのを避けなくてはならない。

(海鷹、魚雷3発被雷!)

(致し方なし...!)

海鷹はもう助かるまい。日本海軍の空母はもはや飛龍と瑞鶴、乙部隊の雲鷹の3隻しか残ってないのだ。

(魚雷...回避!)

(ふぅ...。)

山口は意図せず息を停めてしまっていたようだ。深呼吸をする。

(飛龍被弾なし!)

(助かったか...。)

海鷹の方を見る。完全に航行を停止して、傾斜している。海面には人が見えるから、総員退艦が発令されたようだ。

この十数分後、攻撃隊から敵空母2隻撃沈確実、1隻中破確実と報告が来てその直後には米海軍から基地の空襲を完了した旨の報告がもたらされた。これを受けて、後方で待機していた戦艦隊も艦砲射撃を始めた。まだ、敵空母は3、4隻残っている。これを日米海軍で、片付けなくてはならない。しかし、そうは問屋が卸さなかった。

午後12時31分 ソ連海軍攻撃隊

(2中隊は、右舷の空母へ。本2中隊は、左舷の空母を狙う。)

この部隊は、さっき空襲されたのとは別の空母部隊であり正規空母4隻で編成されている。潜水艦が発見した情報をもとに、米海軍機動部隊へ来襲した。

(第二部隊の仇を打ってやるぞ!)

とんだ見当違いだが、仕方ない。

敵空母の直掩機が向かってくる。

(くそっ、寄るんじゃねえ!)

12.7mmを射撃する。そのまま、敵機は下へ抜けていく。

しばらく進むと、左右に展開している戦艦の主砲が発砲した。至近距離で炸裂し、パイロットの体を傷付ける。機銃員は死んだ。

(うぐあっ!くっ...まだまだ!このILを簡単に落とせると思うなよ!)

必死に編隊の指揮を取り、急降下する。

(高度計なんかいらねえ!)

敵の対空砲火が、機体を捉え火を噴く。

(赤軍バンザーイ!!)

投下レバーを引いて、自機もそのまま突っ込む。

空母エンタープライズ

(ホーネット被弾!)

(やられたか...!)

これから、敵機動部隊と雌雄を決さねばならないというのにホーネットが被弾してしまった。エンタープライズも襲われているが、今のところ至近弾のみで爆弾も魚雷も避けきっている。

(ホーネット被雷!)

ホーネットの右舷側に2本の水柱が立つ。雷撃も食らっては、ホーネットはもはや空母としては機能しないだろう。米海軍も、健在な空母はエンタープライズのみとなってしまった。

午後1時22分 空母瑞鶴

(エンタープライズ偵察機より、敵機動部隊発見、方位078、速力25ノット、距離470海里。)

(だいぶ近いですな。)

(だからこそ今しかない。別の機動部隊を空襲してもらって早々、搭乗員たちに申し訳ないがこれが最後の決戦だ。米海軍と共闘し、敵空母を1隻残らず排除する。)

これまでの航空戦で、日米双方バカにならないほどの航空機を損耗しており上陸作戦時には大丈夫だと思うが敵機動部隊に空襲をかけるならおよそこれが最後の機会である。

(発艦始め!)

日米空母4隻から次々と航空機を発艦させる。

午後2時10分 空母瑞鶴

(SG電探に敵機編隊探知。方位330、速力170ノット。数はさほど多くありません。)

(随分前に逃した軽空母では?)

(あれか.....。直掩機を向かわせろ。ここでやられる訳には行かん。)

直掩機の烈風24機のうち12機がまた向かう。

ソ連海軍 第二部隊 軽空母ノリリスク(元飛鷹)

(この空母、本当に軽空母でいいんでしょうか...。)

(私もそう思うが、確かにうちの正規空母に比べれば少ないし小さい。致し方あるまい。)

幕僚の1人がそう言う。元々、この空母は日本の横須賀で建造されていたものらしく自爆工作ができていてこれは使い物にならないのではとされたがよくよく調査してみると修理可能であると分かりこれを最低限の修復を行った上でウラジオストクまで回航。ソ連海軍の空母として就役したのである。商船改造空母であるため、あらゆる点で正規空母には叶わないが搭載機数については軽空母らしくなく50機程度が搭載可能であった。そして、今回晴れて初実戦となったのである。空襲を受けた際、爆弾1発を受けたが応急修理を実施して発着艦可能となった。そして、現在は敵に一矢報いるべく残存攻撃機を用いて日本海軍を空襲しようとしていた。

空母瑞鶴

(あれだけ少なくても突破してくるのか...。)

合計24機の烈風で止めに行ったはずだが、敵攻撃機がいくつかこちらに接近している。ノースカロライナとワシントンが、主砲を発射する。それを見てか、敵機は二手に別れた。

(雷撃機か!)

今向かってきているのは雷撃機だ。瑞鶴を左右から挟撃し、大破以上に持ち込もうとしているのである。vt信管は不発に終わる。

(5インチで粉砕してやる!)

各艦が瑞鶴を援護しようとありったけの弾幕を展開する。1機、2機と落ちていくが怯まない。この少数機で、なお諦めないとは見上げた敢闘精神である。

(敵雷撃機左舷より6機!右舷より4機接近!)

(面舵いっぱい!)

(敵2機撃墜!)

さらに距離を縮めてくる。

(敵機、魚雷投下!)

(避けろ!避けるんだ!)

幕僚が興奮して口に出す。これ以上、海軍の純国産空母を失いたくない。そんな目をしていた。

(雷跡2本、後方に抜けた!)

(雷跡3本、近い!)

(うわぁ、3本とも来るぞ!)

山口が目を瞑った直後、3本の魚雷のうち2本が瑞鶴の艦首に吸い込まれて...

(.......ん?)

(雷跡全部抜けました!回避成功です!)

(よっし!)

(危なかった...。)

空母瑞鶴は、ここでも被弾することは無かった。そして、この20分後日米海軍攻撃隊が敵空母部隊に攻撃を仕掛けるのである。

午後2時56分 日米海軍攻撃隊

(敵機、右上方、烈風とF6Fが向かいます。)

少しして、味方機と敵機が複雑に絡み合い交差する姿が見える。火を噴いたり、コクピットを砕かれ原型を留めたまま墜ちていく機体もある。空戦は全体的に日米軍有利だが、やはり抜けてくる敵機がいる。

(墜ちろっ!)

12.7mmを射撃する。敵機が射撃してくる。敵機の弾は確実に味方機を捉えるのに、こっちの旋回機銃座は全く当たらない。もどかしくて仕方が無いものだ。敵機が去ったと思ったら、対空砲弾の嵐だ。それでも、こっちの防空網よりは被害は少ない。

(よし行くぞ!)

1隻に狙いをつけて、急降下する。機銃弾が飛んでくる。

(高度80!70!60!50!40!30!)

(渾身の一撃だ!喰らえぇっ!)

高度20で投下レバーを引いて引き起こしにかかる。

午後3時17分 戦艦大和

(機動部隊より、敵空母2隻撃沈確実、2隻大破確実。残存敵空母1隻ナレド、既に退避ズミト思ワレル。現海面ノ制海、制空権奪取セリ。)

((おおっ!))

艦橋内に、歓声で広がる。あとは、こっちの仕事である。既に、飛行場2つは潰した。残るは、九十九里浜の沿岸砲台である。今のところ、敵艦隊とは遭遇していないからおそらく沿岸砲台と挟み撃ちにする位置にいるのかもしれない。ならば、先に敵艦隊を片付ける。機動部隊が、苦心の末掴み取った勝利だ。そこに、最後の仕上げをしなくてはならない。

午後3時30分 戦艦大和

(SG電探にて敵艦隊探知。大型艦4、中型艦6、小型艦12乃至14!)

(接敵まで40分です。)

(敵一番艦は、本艦で担当、二番艦はサウスダコタ、三番艦はインディアナ、四番艦は長門と榛名で担当する。)

(了解。)

各艦に発光信号を送る。敵戦艦は数の上ではこちらより1隻少ないが先頭の2隻は間違いなくソビエツキー・ソユーズ級である。そして、残りの2隻は35.6cmを主砲とするクロンシュタット級である可能性が高い。重巡はこちらの重巡と戦わせる。最も、突撃要員である軽巡以下の部隊の戦果による。

(軽巡神通、駆逐艦雪風、野分、時雨、五月雨、神風、春風突撃します!米海軍駆逐艦8隻も続きます!)

日米混成水雷戦隊の突撃が始まった。速力はバラバラだが、35ノットでの雷撃となる。

軽巡神通

(敵戦艦にどでかい一撃を喰らわせてやる!)

周囲に展開している敵軽巡と敵駆逐艦が砲撃を始めた。回避はしない。全ては運だ。こちらに出来るのは、撃ち返すことだけである。

(ラドフォード轟沈!)

(....。)

(ラ・ヴァレット被弾、野分轟沈!)

距離が縮まれば縮まるほど、被弾する艦が増えていく。

(ニコラス轟沈!響被弾!春風轟沈!)

(まだだ...もう少し耐えてくれ!)

そして、

(よし、全艦統制水雷戦始め!)

残る11隻が一気に魚雷を発射していく。

(時雨被弾!)

魚雷発射中にも、被弾が続く。

(全艦より、魚雷発射完了!)

(よし、離...。)

その直後、水雷戦隊司令が初めて経験する巨大な衝撃が神通を襲い。司令の意識は暗転した。

駆逐艦雪風

(じ、神通が!)

砲雷長が言う。神通は、敵重巡のものと思われる砲弾が命中し船体が断裂、今真っ二つになって沈没しようとしていた。指揮権は、雪風へと移る。

(このまま全速で退避!)

魚雷の命中までだいたい50秒と言われた。20秒、30秒と過ぎていく。どれか1隻でいい、動きを停めてくれ!その思いでいっぱいだった。

(じかーーーんっ!)

後方を見ると、確かに敵戦艦1隻に2本、1隻に1本命中するのが見えた。先頭の戦艦に1本、2番目に2本である。少し遠目からということもあってか、命中率はこれだけであった。

(あれ?)

要員のひとりが双眼鏡を覗きながら首を傾げる。

(どうかしたか?)

(あの戦艦...大和型にそっくりじゃありませんか?)

(なにぃ?)

まさか味方を雷撃したなんてことは無いが、覗いてみるとやっぱりそっくりだ。

(どういう事だ...?)

雪風艦橋要員の頭の中は疑問符で沢山だったが、大和の艦内はそれどころでは無かった。

(あれは武蔵だぞ!)

(奴らめ、日本の大事な戦艦を!)

(落ち着け!)

有賀艦長が皆をたしなめる。

(これは紛れもない事実だ。戦艦武蔵は、あの時ソ連に鹵獲されおそらく装備のいくつかをソ連製に変更された上でソ連海軍の戦艦となったのだ。だからこそ、姉の大和こそが妹を解放してあげるべきだとは思わんかね?)

しばらく艦橋内に、沈黙が流れる。

(....そうだ。)

(そうだ、その通りだ!)

(ソ連のやつなんかにぬけぬけと使わせてたまるか!)

(やろう!)

(やろう!)

皆の声に、有賀は微笑んだ。

(よし、右砲戦!目標、敵一番艦!)

戦艦モスクワ(元武蔵)

(日本軍のヤツらは、今頃驚いているだろうな。)

(まぁ、何しろ彼らの自慢の巨大戦艦を使われているのですから無理もありません。)

(しかし、相手が自分の姉とは...な。さぁ、モスクワよ。首都の名に恥じぬ戦いを見せて、そして姉に勝利してみせろ!)

(まぁ、どっちも半分くらい他国の血が入ってますがね。)

その通りだ。大和は、対空火器や電探、射撃指揮装置がアメリカ製だしモスクワはソ連製の射撃指揮装置、対空火器に変更されている。つまるところ、他国の血が混じった同型艦同士の一騎打ちというわけである。モスクワの右舷側に、大和の最初の外れ弾が弾着した。

戦艦長門

(敵戦艦1隻を2隻で相手取るのですか...。)

相手はクロンシュタット級巡洋戦艦であり、防御力は自身の35.6cm砲に耐えられるだけしかない。いくら長門が旧式艦とはいっても、クロンシュタット級程度なら長門1隻でも相手取れると言いたそうだった。

(まぁ、榛名が加わった方が早く済む。そうすれば、前方のインディアナやサウスダコタの援護もできるしな。)

既に砲戦は始まっている。

戦艦大和

(てーーっ!)

大和の主砲弾が発射される。防空指揮所の連中は、最低限の人数だけ残して頭を伏せている。そうでもしないと、衝撃波で体が吹き飛ばされてしまうかもしれないからだ。)

大和の発射の直後、武蔵の砲弾が弾着する。

(こっこれは!)

幕僚が驚いたような声を上げる。武蔵の放った砲弾は、大和の周囲を囲むように弾着した。つまるところ、夾叉、である。武蔵は、大和より先に夾叉弾を出したのである。大和はまだ、夾叉にはなっていない。つまるところ、次かその次に命中弾が出る可能性が高い。現在、9射目である。早いところ、こちらも武蔵に有効弾を与えねば大和が戦闘不能になることも有り得る。

(てーっ!)

そう言ってる間にも11射撃目が発射される。

戦艦榛名

(うぐっ、まずい!)

榛名は、クロンシュタット級から集中砲火を受けていた。敵は、最初から長門には勝てないと見て榛名を集中砲撃したのだ。その結果、敵は五射目で命中弾を出したのだ。そして、榛名は満身創痍となっている。長門がクロンシュタットに致命的な命中弾を与えるのが先か、榛名にトドメが刺されるのが先か。

(てーっ!)

榛名も懸命に反撃し命中弾を出していく。もう四番砲塔も破壊されて、火力は半減している。あの時から、修理はできていないのだ。

(1番砲塔直撃弾!)

(砲塔注水急げ!)

もう1基しか主砲がない。速力も衰えている。金剛型全隻は、ここで沈む運命なのかもしれない。そう思い艦長は目を瞑った。

ふいに、敵の主砲塔の付け根が赤くなったと思ったら大爆発を起こした。長門の命中弾である。長門の命中弾が、主砲塔の誘爆を起こしたのである。敵艦の艦首がみるみる沈みこんでいる。致命的な一撃を貰ったらしい。おおよそ、艦前部の船体が割れて海水が入ってきたのだろう。榛名は、間一髪のところで一命を取り留めたのである。長門はそのまま、インディアナが相手取っているクロンシュタット級に砲を向ける。

(長門より信号!艦ノ保全二努メヨ。)

今回、西村中将は長門と榛名の戦隊を務める関係上、長門に座乗している。西村は、長年の戦友である榛名も失いたくないのか保全二努メヨ。と言ってきた。ならば、榛名を生きて還らせる以外に選択肢はない。

戦艦大和は、傾斜が増していた。武蔵が命中弾をどんどん出してくるのだ。大和は、運が悪いのか命中弾を出してはいるがどうも外れ弾が多い。つい先程の命中弾で、三番砲塔が破壊された。

(てーっ!)

残り6門で射撃する。サウスダコタとインディアナはまだ目の前の敵と戦闘している。

(命中弾2!)

そう、当ててはいる。当ててはいるのだ。

(うっ!おわっ!)

(1番高角砲付近火災!水上機格納庫被弾!兵員待機室及び左舷中部被弾!)

何故か武蔵の方が当ててくるのだ。

(くそう...。)

(あ、あれ?有賀司令(艦長兼務)!武蔵が傾斜しています!急速に!)

(な、なに?)

だいぶ前の駆逐隊の魚雷1発では無いはずだ。有賀は、双眼鏡を持って武蔵を見る。確かに傾斜が進んでいる。

(水中弾効果か!)

大和の砲弾は、仮に水に落ちたとしても被帽が外れて海面を滑るように移動する構造になっている。これは、別にそうしようとした訳ではなくて結果的にそういう構造になったのである。つまり、大和は外れ弾を出しているように見えて武蔵の喫水線下に着実にダメージを与えていたわけである。

戦艦モスクワ

(何故だ?何故、モスクワが傾斜する?)

日本戦艦は、一度廃止した水中魚雷発射管を改修で追加したのか?いや、入手した設計図にそんなことは書かれていなかった。そもそも、構造上そんなことは不可能なはずだ。

(司令、総員退艦を発令します。)

(何故だ!何故だ!途中まで完璧だったはずだ!なぜここで!モスクワよ、答えて...!)

司令官の言葉は、そこで途絶えた。艦長は拳銃を持っていた。あまりのショックに狂ってしまった司令を射殺したのだ。

(か、艦長...。)

(総員退艦だ。急げ。)

(は、はいっ!)

戦艦大和

(武蔵、行き足止まった!)

見張りから報告が上げられる。傾斜する武蔵の艦上に、人影が見え次々と海に飛び込んでいる。サウスダコタ、インディアナもソビエツキー・ソユーズ級を片付けたようだ。だいぶ後方で、航行を停止している。

戦艦大和

(勝った...か。)

有賀は、帽子を脱いで額の汗を拭ってくからまた被った。とんでもない戦闘だった。しかし、これで大和は妹を解放出来ただろう。その後、大和、榛名は損傷が激しいため離脱。長門、サウスダコタ、インディアナ、補充のため駆けつけたアイオワによって沿岸砲台と交戦。撃破し、夜間のうちに戦艦の援護射撃の元一挙に上陸作戦を開始。九十九里浜要塞は頑強に抵抗したが、沿岸砲台が潰されている状況で結局物量によって押し込まれついに

1944年1月3日 東京市 霞ヶ関 国会議事堂

(進め、進めー!あともう一歩だ!)

日本兵が、M1ガーランドやトンプソンでソ連兵を殺傷しながら進んでいく。目指すは屋上のさらにそのいちばん高い場所である。

(危ねぇっ!)

屋上に入らせまいと機関銃が撃ってくる。

(ええい、手榴弾を投げろ!やるぞー!)

手榴弾を投げて、隙を作る。

(突撃ー!)

日章旗を持った兵士を守りながら、全員が突撃する。

(よし、立てろ!やれ!)

その声に反応するように、屋上に立てられたソ連国旗を蹴落として日本国旗を立てた。この日、東京のソ連軍最後の拠点である国会議事堂が陥落。ドイツ軍もクイビシェフを落としたあと、インフラが悪くなってこれ以上の侵攻はできなかったがソ連は内部崩壊を起こして実質解体。1944年4月13日に、ソ連の暫定政権が発足し無条件降伏。これによって、第二次世界大戦は終戦した。

戦後世界を見ていこう。ドイツは、欧州地域のほとんどを領有、または傀儡化しアメリカにも劣らぬ超大国となった。ソ連は、形をなさずシベリア方面にはアメリカの傀儡政権であるロマノフ王家の末裔を立てたロシア帝国があり中央部はもう軍閥が群雄割拠である。日本は、日本列島以外はアメリカに渡したり独立させたりしたが代わりに戦後賠償として北樺太を領有。これも、荒廃した国土の復興に充てることになった。また、将来的には米軍からの供与兵器も返却したり返却できなかったものは支払わなければならない。英国よりひどいかもしれない。そして、一番の勝者、アメリカ合衆国。シベリアを傀儡化し、資源を手に入れたアメリカもドイツと充分張り合えるだろう。これからは、米独の新たな対立が始まるのかもしれない。

1944年9月11日 横須賀

(そういえば、今日は我々が横須賀から脱出した日ですな。)

山口が山本に話しかける。

(おお、そうだったな。)

(思えば、半年間も耐えたもんです。途中で投げ出していたかもしれなかったのに、我が軍の兵士は誰一人として忘れていなかった。そして、その努力は報われたわけです。こうして、日本本土が戻ってきた。)

(だが、問題も山積みだ。戦後復興、これが一番厄介だ。本土での戦闘によって、日本は荒廃してしまった。ソ連からの賠償金もあるとはいえ、これを戻すのは大変な年月がかかる。それに、敵勢力が二度と現れないとも限らない。陸海軍双方、力を合わせて国防を担って行きたいものだ。)

2人の目の先には飛龍と瑞鶴、長門が写っている。大和と榛名は呉で修理中だ。開戦から終戦までついてきてくれた艦にはまだまだ働いてもらわねばならなかった。戦後日本は、新しい道をあゆみ出していくのである。


日ノ本、燃ゆ 完




ここまでお読み頂きありがとうございます。これにて、完結となります。次シリーズは、全く違うものになると思いますが今後とも応援よろしくお願いします。感想もぜひぜひ

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