四章 半島出兵
# 日ノ本、燃ゆ
# 四章 半島出兵
1942年9月30日 22時30分 ソ連海軍機動部隊
空母グムラク
(戦艦隊から、間もなく敵艦隊と交戦する旨の報告が来ました。)
(よし、今こそあの巨大な戦艦を叩き潰す時が来た。頼んだぞ。)
(しかし、なぜ第二次攻撃隊は敵機動部隊を発見できなかったのでしょう。)
幕僚が自問の意も込めて言った。日本海軍の攻撃の前にソ連海軍は残党狩りをするために、第二次攻撃隊を出していた。しかし、結局敵空母部隊を見つける事なく帰還してしまったのだ。そのため、ソ連海軍はしっぺ返しを食らったような格好になり空母2隻を撃沈され1隻を大破されたのだ。
(うーむ...。敵艦隊が遠ざかっていた可能性はあるかもしれんな。)
(と言いますと?)
(敵は夕方に来た。第二次攻撃隊の準備をしていたとしても、帰還は夜間かほぼ日は沈んでいる。ということは、第二次攻撃隊の損耗は着艦事故の危険性も含めると一次より酷いかもしれない。だから、着艦機を優先するため遠方に下がったのかもしれない。)
(なるほど。)
(まぁ、あくまで予測だ。帰ってから、戦況分析を行おう。)
22時50分 戦艦大和
(本艦は敵1番艦、サウスダコタとインディアナは敵2番艦、敵3番艦は長門、敵4番艦は金剛及び榛名。5、6番艦は米駆逐隊に任せる。)
敵の保有戦艦から見て先頭の大型艦は40.6cm主砲を持つソビエツキー・ソユーズ級戦艦2隻、あとのは38cm主砲のカリーニングラード級4隻であろう。金剛と榛名で協力して1隻に集中砲火を浴びせ、残りの2隻は米駆逐隊の戦果に任せるしかない。
米海軍 第35駆逐戦隊 旗艦シムス
(敵艦発砲!)
早速周囲に水柱が連続して立つ。自分たちは、大物を任されている。2隻とも仕留め損なうようなことがあれば、日本人で言うハラキリをしなければならない。駆逐隊が全滅してでも仕留める。司令官はその一心であった。
(アンダーソン被弾!)
後ろに続く駆逐艦アンダーソンが、大爆発を起こした。爆発が収まった頃には、艦体のほとんどが海に沈んでいた。生存者はほとんど居ないだろう。
(雷撃距離は1万2500!)
だいぶ近付いてから雷撃するつもりのようだ。既に、戦艦隊は敵と交戦している。その刹那、シムスの艦橋が炎に包まれ司令官も炎の中へ入る。数秒後、シムスは大爆発を起こして爆沈した。
駆逐艦ヒューズ
(し、シムスが!)
ヒューズ艦長が呻いた。駆逐隊は全部で8隻、うち2隻がやられた。そして、シムスがやられたということはヒューズが司令駆逐艦となる。
(うっ。まだまだだ。突撃を辞めるな!)
敵戦艦の中へ突っ込んでいく。
(よし、左舷魚雷戦!面舵いっぱい!)
先頭のヒューズから残りの4隻まで紐のように次々と面舵を取っていく。
(各艦より、魚雷発射準備完了!)
(魚雷発射始め!)
合計32本の533mm魚雷が砲戦をする敵艦2隻に向かって発射される。あとは命中を祈るだけだ。
(艦長、命中予測時間は50秒です。)
(うむ。)
10秒、20秒、経過していく。
40秒が経過した時
(敵5番艦に魚雷3、いや4発命中!敵6番艦に1発命中!)
(よしっ!)
2隻とも仕留めることは出来なかったが、少なくとも5番艦は傾斜によって戦闘不能になるだろう。予備魚雷はあるが、装填にはどれだけ急いでも20分以上かかる。駆逐隊に出来ることは敵の小型艦と砲戦することだ。
戦艦大和は、5、6番艦に魚雷が命中した時ちょうど6射目を放った。
(だーーーんちゃく!)
先に4射目が敵1番艦の方に弾着する。敵艦の前方に弾着したようだ。敵の射撃も、まだ大和を捉えてはいない。
(発射よぉい、てーっ!)
7射目が撃たれる。日本戦艦のうち大和、長門は砲弾を共用できる国がないため日本本土を奪還しないうちは砲弾の補充は不可能だ。だから、なるべく浪費は避けたいが砲戦である以上修正のために外れ玉が出るのは仕方ない。
(だーーーんちゃく!)
6射目、敵に火炎が踊るのが見えた。
(6射目、敵1番艦に2発命中!)
(よし。)
先に命中弾を得たのは大和だ。大和の主砲は46cm。ソ連海軍の戦艦には46cm砲弾に耐えられるような装甲はないから、あとは畳み掛けていかねばならない。
(砲術長、次より斉射。)
(了解、次より斉射。)
艦長から、砲術長に斉射に移るよう命令が行く。消費する砲弾の量が増えてしまうが、こうしている間に金剛型2隻が自分より強力な敵戦艦2隻に甚大な損害を被らせてしまうかもしれないのだ。その前に、早くこの1番艦を片付けなくてはいけない。
そう言っている間にも、交互撃ち方の9射目が発射される。
戦艦金剛
(くそうっ!)
戦艦金剛は、敵戦艦4番艦と6番艦に集中攻撃を受けていた。その結果、多数の命中弾を受け3、4番砲塔が使用不能となった。速力も衰えつつあった。金剛は、敵4番艦に命中弾を出すことなく火力が半分に減少してしまったのだ。
(うぐっ!)
自艦より若干大きい38cm砲弾が命中する度にその痛みに耐えかねるように金剛の艦体が振動する。
(射撃指揮所、副射撃指揮所被弾!)
(なんだと...。)
射撃指揮所が全滅した。こうなっては、砲塔の個別照準に任せるしかない。まず、砲塔照準など当たるものでは無い。
(敵弾、さらに来ます!)
これがとどめになる。艦齢29年の戦艦は、ここで沈むことになるのだ。そう思って、艦長は目を閉じた。
戦艦榛名
(金剛、行き足止まりました!)
(...。)
榛名を行き足が止まって急速に近付く金剛を避けるため取舵をとって避ける。榛名は敵6番艦に複数の命中弾を出していたが、貴様の攻撃など痛くも痒くもない。と言わんばかりに榛名の砲撃を無視し続け金剛を集中攻撃。結果、金剛は再起不能の打撃を受けたのだ。今度は、榛名の番だ。
(敵4番艦発砲!)
初弾は当たらないと思っていたが、突如榛名の艦体を激しい揺れが襲った。
(敵弾1発命中!)
なんと、敵4番艦は初弾から榛名に命中弾を出したのだ。
(本艦では、やはり力不足なのか...。)
榛名も就役から27年だ。老兵に等しい。近代化改修を受けた身であっても、1930年代後半の巡洋戦艦相手は厳しいのかもしれない。
(敵6番艦に4発命中!)
6番艦の左舷側の上部構造物はもはや形を成していない。なのに、速力の衰えは顕著では無い。こころなしか、若干傾斜はしているようだ。射撃に影響は無さそうだ。さらに、被弾する。
(第二主砲に命中!使用不能!)
(注水急げ!)
榛名も、ここで火力は四分の一に減少した。
戦艦ピトムニク
(敵のコンゴウ型2番艦の命ももうすぐで消える。)
カリーニングラード級重巡6番艦ピトムニクの艦長はほくそ笑んだ。敵の巡洋戦艦の1番艦を攻撃しながら、2番艦の主砲弾が命中していた時は気が気ではなかったが新鋭巡洋戦艦は多少の浸水こそあれどその砲撃を耐えきったのだ。と思っていたら、突如として前方で爆炎が踊った。大爆発だ。味方の主砲弾薬庫が爆砕されたのは明らかだ。
(バルナウルの船体が断裂しました!主砲弾薬庫誘爆です!)
なんと、共に敵巡洋戦艦2番艦を攻撃していたバルナウルがたった1発の命中弾によって主砲弾薬庫が誘爆。そのまま連鎖的な爆発を起こして船体が断裂、轟沈したのだ。
(米戦艦です!前方の味方艦は全てやられました!)
(な、なんだと...。)
ということは、今ここに残っているソ連海軍の戦艦は本艦だけということになる。
(敵から降伏勧告です!)
(...............。)
艦長は呆然としていた。運命を受け入れられずにいるのだ。
戦艦大和
(さて、これで停船しなければ撃沈せざるを得ないが...。)
敵戦艦も、考える時間をくれと言わんばかりに射撃を止めた。
(制限時間はあと20秒です。)
しばらくして
(敵戦艦、速力低下!白旗を上げました!)
(ふぅ。)
どうやら、艦長は負ける戦いに乗員を無理に巻き込むべきではないと判断したようだ。
1942年10月3日 ルソン港
ここでは、戦闘を終えて帰還した日米艦隊がいた。先の海戦は、公式に(五島列島沖海戦)と名付けられ日米軍は
空母紅龍 大破
空母雲龍 喪失
空母ホーネット 大破
空母ワスプ 喪失
戦艦長門 中破
戦艦金剛 喪失
戦艦榛名 大破
戦艦サウスダコタ 中破
重巡1隻喪失、1隻中破
駆逐艦6隻喪失、2隻大破となった。作戦目標は部分的にしか達成出来ず公には勝利と伝えたもののその実は勝ちとは程遠いものとなってしまった。また、日本軍は機動部隊の扱いに長けた小澤治三郎中将や各空母に載せてきた搭乗員など貴重な人的資源を喪失した。
(我が方の新型空母が戦力化されるようになるのは早くて1944年中期からです。なにしろ、しばらくの間我が国の空母戦力の更新は停滞していましたから。)
米軍にはエセックス級なる、新型の量産型空母が建造されているが当時の風潮が大艦巨砲主義だったためにヨークタウン級以降空母は造らないと決めていた米海軍が42年から慌てて建造を開始したのだ。それまでは、既存の戦力で戦うしかない。冬が近付きつつあることでドイツ軍は若干押し戻されており中国軍も進軍が芳しくなく朝鮮までは遠い。
(一度、目標を変更した方がいいかもしれません。)
ニミッツが発言した。
(今の我が軍では、直接日本本土に上陸するのは難しいです。そのため、朝鮮半島に上陸しそのまま上陸する方がよいでしょう。)
(しかし、中国軍と共同作戦を行うのでは?)
(進撃が芳しくないなら戻すしかありません。何より、アジア方面の陸軍司令官のマッカーサー大将がそれを望んでおられまして。)
(ですが、我々がそれに直ぐに出ることは難しいのでは?)
海軍のの井上成美が反論する。(日本本土奪還に備えて戦力を温存するべき。)と言いたそうな目であった。彼は、日本海軍の理想家として有名であった。
(しかし、日本にとっても無益では無いはずです。中国国内や、朝鮮半島でもゲリラ化した多数の日本軍がいるはずです。一部は、まだまとまった軍量を持つと聞きます。これらを集めれば、再び九州を奪還する際により日本軍主体で陸戦が可能です。また、春から攻勢作戦を行う際にはソ連海軍の太平洋方面最大の軍港ウラジオストクを安全では無くすこともできます。)
山本と山口もこれに賛成意見を述べると、井上も折れた。
(分かりました。しかし、いずれにしても我々の空母戦力は不足気味です。搭載機、特に搭乗員の不足はどうしようもありません。我が軍も軍艦に予科練を積んでいましたしや南洋諸島の飛行隊を使って空母搭乗員を育成していますが...。)
(いい加減、零戦から切り替える時期かもしれぬ。)
山口多聞が言った。
(零戦の単発火力は絶大だが、整備不充分な機体もあれば装甲が薄いためにソ連軍の戦闘機に直ぐに射抜かれてしまう。ここは、零戦も二線級に下げて多少力不足でもF4Fを使った方がいいかもしれん。)
米軍のF4Fは、機動性こそ零戦に劣るがその頑丈さには定評があり同機は機銃を20mm2門に変更したF4Fー5が米空母に配備され始めていた。この火力は、零戦と同じであり搭乗員の生存確率も零戦よりは上である。
(では、機種転換訓練を実施せねばなりませんな。ということは、作戦実施は早くても1ヶ月頃になります。)
(そうなりますね。それまでは、温存し訓練に集中するべきです。)
10月23日 グアム
(これがヤマトですか。)
(はい、日本海軍の技術を結集して建造した世界最大の戦艦です。と言っても、今は半分くらい貴国の技術ですが...。)
戦艦大和は、先の海戦では目立った被弾はなかったが至近弾によって小規模な浸水があったためそこを修理するためグアムを訪れていた。大和は、戦争前の半年間を使ってハワイで大改修を実施。副砲、装填機構が違うため米軍と共用できない12.7cm連装高角砲を全撤去し米海軍の5インチ両用連装砲に換装。対空機銃もボフォース40mmやエリコン20mmに換装されている。日本海軍の艦艇はいまやらそのほとんどがアメリカ製の兵器も装備していた。
(問題は、主砲弾の在庫です。先の海戦で、大和、長門はそれなりの主砲弾を消費しました。貴国で補充が効かない以上、弾薬庫に入っている主砲弾を撃ち尽くせば両戦艦は戦艦ではなくなってしまいます。本土に行けば、砲弾は手に入るはずですが...。)
(それは致し方ありませんね。今度、朝鮮を奪還する時、成功を祈ります。)
1942年12月15日 朝鮮半島西岸 空母翔鶴
午前5時45分
(第一次攻撃隊、発艦はじめ!)
レシプロエンジンの音を響かせながら、日の丸をつけたF4Fが翔鶴から発艦していく。目標は、3つの飛行場だ。ここを叩き、マッカーサー率いる米陸軍と日本軍の上陸を援護する。今回は、使用可能な日米空母を使った作戦となるので日米で役割分担し2つずつ攻撃。残った基地を日米余裕のある方が叩くという予定である。今回の海域では、敵空母が出てくる可能性はほぼ無きに等しいとして第二次攻撃隊も対地装備である。
午前6時25分 金浦飛行場
(上方敵機。)
レシーバーの声を受けて、戦闘機が向かっていく。敵飛行場からの迎撃機だ。
(こいつでなら、安心して正面攻撃できる。)
五島列島沖海戦では、多数の熟練搭乗員が死亡し当初より少なくなっているがまだ戦闘経験のある搭乗員はそれなりにいる。今回の機種転換で、より生存性は向上したはずである。
敵機との距離が縮まっていく。敵機の形状から見て、Laー7だろう。20mm機銃3門を主武装とする強力な戦闘機だ。
(くっ!)
米軍機なこともあるのか、発射ボタンが硬い。手に力を込める勢いで押さないといけない。そのまま、敵機とすれ違う。果たして、墜ちたのはLaー7の方だった。エンジンに直撃を食らったのか、炎を出しながら墜落していく。F4Fにも掠っていたが、流石はグラマン社製である。零戦とは防弾性能が全く違う。
(しかし、重いのが欠点...か。)
搭乗員は、以前乗っていた零戦を思い出す。零戦は、旋回性能はこんなに悪くなかった。いや、F4Fが遅すぎる訳では無いのだが元機種があんなだからそう思うだけかもしれないが少しストレスになる。自分たちの命を優先してくれるのはとても嬉しいが、防弾性能を優先しすぎて鈍重になるのも考えものである。
(よいっしょ。捉えたぞ!)
再び20mm2門を叩き込む。F4Fのもうひとつ良い点としては、装弾数が多い事だ。零戦は、重量やエンジンの問題から20mm機銃の装弾数は60発だった。だが、F4Fでは片翼200発、合計400発を装備できる。戦闘経験のないものも増えてきた中で、継戦能力が高いのはありがたい。
Laー7は右翼に射弾が集中したことで破断。錐揉みになりながら落ちていった。
攻撃隊
(よし、行くぞ!)
SBDドーントレスが次々と機体を翻し急降下する。
(80!70!60!50!)
(てっ!)
今回は静止目標なので、高めの高度で爆弾を投下する。このSBDも、改修型でエンジンを強力にして主翼の折りたたみ機構も追加。機首の機銃も7.7mmから12.7mmに変更された。
(命中です!)
(空母も攻撃したんだ。これくらいで外せるもんか。)
後席からの嬉しそうな声に返す。あとは、帰還するだけである。しかし、その裏で機動部隊は大変な目に遭っていた。
機動部隊 戦艦大和
(敵攻撃隊発見、中型機ヲ伴フ。方位740、距離248海里。)
艦隊輪形陣のさらに外側に位置するピケット艦が報告してくる。
(潜水艦にでも見つかったか?)
(その可能性はありえますね。敵勢力圏内ですから、その可能性はあるかと。)
(被害はなるべく抑えたいところではあるが...。)
今回、日本海軍機動部隊には護衛の戦艦として大和、サウスダコタ級マサチューセッツがいる。長門、榛名は修理中であるため、今はハワイにいる。
今回、敵の方向的に狙われるとするなら翔鶴、飛龍であろう。戦艦も含むなら、マサチューセッツ...だが空母に向かう敵機の方が多いだろう。
空母翔鶴
(さて、頼んだぞ。直掩隊...。)
山口が独りごちった。
直掩隊 F4F 24機
(さて、敵機はILー2、Tuー2、yakー9か...。)
Tuー2は、最近確認されたソ連の新型双発攻撃機である。まだ、配備数は少ないが単発戦闘機並の速度と頑丈さ、強力な対地兵装を搭載できる利点がある。おそらく、ILー2の前に先行して爆弾を投下。艦隊陣形をかき乱すつもりだろう。だが、水平爆撃は静止目標ならともかく高速で動く目標に当てるのは至難の業だ。
(となると、ILだな。)
急降下爆撃も雷撃もしてくるとなれば、ILー2の方が危険だ。
(その前にyakー9だ。)
各機がそれぞれ敵機と交戦する。
Tuー2隊 第一中隊
(目標は、輪形陣中央右前方の敵空母だ。)
(爆弾槽開け。)
敵戦艦の主砲弾が炸裂する。機体が激しく振動する。数機が子弾に絡め取られて火を噴き、あるいはコクピットをやられたのか原型を留めたまま墜落していく。
(まだまだ...いいぞ...。)
周囲で対空砲弾が炸裂する度に、機体が揺れる。
(投下!)
爆撃手が投下レバーを引く。500kg徹甲爆弾が2発ずつ投下される。
空母瑞鶴
(水平爆撃は攻撃してくるか...。)
既に瑞鶴は回避機動を取っている。敵機高度は6800m。その高度からの水平爆撃など当たる確率は数%しかない。が、避けるに越したことはない。
(敵弾、来ます!)
周囲に連続して水柱が立つ。
(ひ、飛龍被弾!)
見張りの1人が言った。艦橋要員らが、一斉に後方の飛龍に目を向ける。そそり立つ水柱のせいで飛龍が見えない。しばらくすると、水柱から飛龍が出てきた。火災は見えない。おそらく、早とちりで誤認してしまったのだろう。ホッと、胸をなでおろした。
(翔鶴被弾!)
今度は、翔鶴の方に目を向ける。翔鶴に火災が発生している。数%のはずれを翔鶴は引いてしまったのだ。問題は、この後のILー2だ。これを避けなくてはならない。
空母翔鶴
(敵降爆16機、本艦に向かう!)
翔鶴は、500kg爆弾1発を被弾していた。右舷の対空砲がめいっぱい射撃する。ILー2が次々と機体を翻してくるのが見える。
(敵2機撃墜!)
おぞましいダイブブレーキ音がどんどん拡大する。聞いていて気持ちの良いものでは無い。
(敵機上昇!)
周囲に水柱が立つ。爆発の度に翔鶴の艦体が揺れる。ILー2の搭載できる爆弾も重量なら600kgまで搭載できるのだ。つまり、500kg爆弾を搭載していることになる。
唐突に、飛行甲板に爆炎が踊る。そして、要員は飛び上がった後に床に叩き付けられる。連続して3回爆発音がした後、山口含む幕僚らは起き上がった。飛行甲板は地獄の様相を呈していた。発着艦不能なのは誰の目にも明らかだ。だが、まだ危機は去っていない。
(敵雷撃機、8機来る!)
ILー2 雷撃隊
(頑丈だ...。その調子で頼むよ。)
乗機にそう呼びかける。機体は、穴だらけだが飛行に支障はない。雷撃まで耐えてくれ。それだけ願っていた。
(よーし...。)
ゆっくり投下レバーに手を移す。
(....投下!)
魚雷を投下して、そのまま対空機銃に20mmを射撃しながら敵空母の上空を掠め飛ぶ。
(どうだ!)
(.......ありません!)
(何っ!?)
後方の僚機を見る。6機に減ってはいるが、それでも2本以上は当たると思っていた。しかし、しばらく待っても返答は同じだった。どうやら、外してしまったらしい。魚雷の命中が1本もないとなると、撃沈とまでは行かないかもしれない。
(しくったな...。)
午前6時45分 空母瑞鶴
(翔鶴より、火災鎮火の見込みと来ました。)
(よかった...。)
幕僚のひとりが胸を撫で下ろす。あの後、山口らは戦闘不能になった翔鶴から瑞鶴へ将旗を移し指揮を執った。翔鶴の被害は決して小さくはなく、飛行甲板は爆砕され格納庫もめちゃくちゃになりうち2発は機関室へ貫通し速力を23ノットまで低下させた。それでも、日本空母の中でも一番の完成型といえる翔鶴型はその頑丈さも発揮。なんとか、沈没は避けることができた。米軍の方も、攻撃を受けたもののヨークタウン、エンタープライズ両艦は無傷と報告が来た。この後、航空支援を受けた日米地上軍は仁川に上陸作戦を決行。半島を占領するべく一挙に進軍した。
1943年 1月5日 釜山
(敵戦車、1時方向!Tー34!)
日本陸軍の戦車隊は、アメリカから供与されたM4シャーマンになりソ連軍中戦車と対等に戦闘できるようになっていた。半島北方では、まだソ連軍が粘っているものの7割方は日米軍占領下であり南方はこの釜山を残すのみとなった。
(装填!)
(撃てっ!)
低速行進射で、Tー34を射撃する。砲塔の形状から見て、砲を85mmに換装した/85というやつだろう。近くに敵弾が弾着し土埃が舞う。
(次で決める!)
(装填!)
(撃て!)
Tー34から炎が吹き上がった。どうやら撃破に成功したらしい。
1943年3月には半島はほぼ完全に占領されウラジオストクが危険にさらされたソ連軍はコルサコフ(樺太南端)に移動した。4月には、今度こそ日米両軍が九州及び中国地方に上陸。日本本土上陸を成し遂げた。各地で、日米軍は現地日本人に歓迎された。さらに、呉で自沈されることがなかったいくつかの艦艇を取り返すことが出来た。ソ連軍は、体勢を立て直し日本海側唯一の軍港がある京都府より前の兵庫県の西部方面と大阪から進軍してきた軍に対しても防衛線を形成した。
1943年 5月12日、広島県呉市に日米海軍の姿はあった。
呉鎮守府
(つまり、ここでも必ず敵空母が出てくると?)
キンケイドが山本に質した。
(はい。この防衛線を崩されれば、あとは防衛線を形成できる場所はほとんどありません。つまり、ジリジリと追い詰められるだけです。ドイツ軍も春から再び攻勢に出てモスクワとスターリングラードを占領したそうですし。ここで勝てれば、日本本土の奪還は確実です。もちろん、我々の首都はなんとしても渡すまいと本当の決戦は東京のある太平洋方面になりそうですが。)
(まぁ、日本本土を奪還できるかはここで決まるということですな。)
ニミッツが短くまとめる。
(そういうことです。)
ここに、極東方面の一大決戦が始まろうとしていた。