三章 鉄鳥の群れ
1942年9月13日 日米連合艦隊泊地 ルソン港
(これがFー9偵察機の撮影した写真です。)
ニミッツ大将が机の上に白黒の大きな写真を広げる。Fー9というのは、アメリカの戦略爆撃機Bー17を改造して写真偵察機にした型で単機で日本本土に侵入。様々な情報を持ち帰っている日米連合軍の大切な戦力であった。しかし、ソ連軍にも高高度性能に特化した戦闘機もいるのでこの写真も貴重なものであった。
(目ではっきり見える型としては、伊勢型2隻、妙高型1隻、最上型2隻でしょうか?駆逐艦も見えますね。)
(どうやら空母はいないようですな。)
キンケイドが残念そうに言う。どうやら、舞鶴かどこかに停泊させているらしい。
(上陸先は朝鮮半島と佐世保ですよね?)
(いえ、方針が変わりまして。中華民国軍と朝鮮半島は歩調を合わせますから、九州を奪還してから中国軍の攻勢作戦と併せて攻撃します。)
(では、朝鮮半島と遠ざかるために南南西方向から侵攻しましょうか。鹿児島にも上陸して、南と西から挟撃します。)
(えぇ。沖縄で合流した日本軍も併せて戦力はさらに増えました。ここで敵機動部隊と基地を叩き列島上陸を成し遂げましょう。)
1942年9月30日 五島列島沖
空母紅龍
(第一次攻撃隊より入電。爆撃効果充分、航空優勢確保とのこと。)
(一番槍を譲ってくれたスプルーアンスさんには感謝しなくては。)
小澤が言った。作戦前、最後の調整の際にスプルーアンス中将が小澤を呼び出して(次の作戦は日本にとってきっとトップクラスに大事な作戦だから、攻撃の一番槍は譲る。)といって、アメリカ軍は第二次攻撃を担うことになった。朝鮮半島の基地は、中華民国から飛び立った米軍によって既に無力化したと報告が入っている。しかし、そんな中でもまた空母が見つけられなかった。
(まさかまた出てこないつもりでしょうか?)
源田実が小澤に質する。
(いや、必ず出てくる。何らかの原因で、遅れた可能性もある。油断は厳禁だ。)
現在、既に後方の輸送船団が佐世保に向けて進軍している。敵空母が来なければ、このまま佐世保に空襲を行う予定であった。
機動部隊の最も後方に位置する戦艦大和では、
(SG電探に敵影多数!)
艦橋
(ついに来ましたか。)
(基地から離陸した連中も含んでいるんでしょうか?)
(おそらくな。さて、後手に回ってしまったが避け切れるか...。)
直掩隊 零戦40機
(あれか。頼むぞ、零戦。もう少し踏ん張ってくれ...。)
各日本空母が搭載してきた零戦は機銃をアメリカ製の20mmに変更して弾道が素直になったこと以外にはほぼ改良されておらずエンジンも旧式になりつつあった。沖縄で鹵獲したソ連軍戦闘機と模擬空戦した際には、5回戦中1回しか零戦は勝てなかった。しかし、米軍のF4Fも零戦の代替としては不適当でいま量産されているグラマンの新型戦闘機を待たねばならなかった。予備部品もなくなりつつあり、零戦は熟練搭乗員と共に死闘を繰り広げていた。
(正面攻撃か...。よし、来い!)
お互いの距離が縮まり、相手の機体がどんどん迫ってくる。
(食らえっ!)
射程の伸びた20mmを一連射する。
(んあっ!?うおっ!)
反射的に機体を下方へ降下させる。5本もの火箭が吹き伸びてきた。明らかに武装強化型だ。
(2、3、4番機!)
(2番機異常なし!)
(3番機、ちょっと掠りましたがいけます!)
(4番機異常なし!)
ひとまず自分の分隊に被撃墜機がないことにホッとする。すぐに機体を敵機の方へ向ける。
(なにっ!?)
今度はレバーを右にガっと倒した。また火箭が吹き伸びてくる。敵機はもう反転しこっちに仕掛けてきたのだ。どうやら、高速域では敵機は零戦並みの旋回ができるらしい。攻撃の暇もない。少し目をやると、無数の機体が墜ちているのがわかった。割合としては、零戦の方が多いようだ。
(くそっ。なんとかして低速域に引きずり込んで...。)
そして、操縦士の目に無数の火箭が伸びているのが分かった。目を見開くまもなく、それはコクピットガラスを砕きガラスは真紅に染る。主翼が破断し、火を噴きながら墜ちていく。
空母紅龍
(敵降爆ラシキモノ16機、貴方ニムカフ。ラシキモノってなんでしょう。)
(敵の新型機かもしれん。あの空戦戦場を見たまえ。零戦不利だ。ソ連海軍はここに来て、新型艦載機を投入してきたのだ。)
(零戦も限界が近いですね...。)
(仕方あるまい。今は回避に集中しよう。)
日本海軍機動部隊は2群に別れており、現在敵編隊に近いのは紅龍と雲龍になる。日本海軍機動部隊の中では、最大の大きさだから自然と敵機は寄ってくるだろう。
戦艦大和と長門、金剛、榛名が主砲を発射する。しかし、今度は敵機が発砲と同時に左右に避けた。三式弾は、10機程度を巻き込むだけに終わる。
(敵も学習したか...。)
ソ連海軍 急降下爆撃隊
(ひえー。日本の対空砲弾はこんな威力なのかよ。)
この日、ソ連海軍は新型艦爆ILー2の艦載機型を新たに投入していた。装甲を削って航続距離を伸ばしILー2の中では最も長く飛べる機体となっている。爆弾は最大600kg、場合によっては、ロケット弾の搭載も可能である。機銃は主翼内に20mm2門、後部に12.7mm1門と爆撃機にしてはなかなかの重武装である。しばらくして、周囲に黒い球体が浮かんでくる。敵の対空砲弾が炸裂しているのだ。しかし、装甲を削ったとはいえ頑丈さには定評のあるILー2だ。時折、子弾や破片が機体を叩きその衝撃が伝わるが墜ちることはない。
(よし、そろそろだ。全機、急降下!)
1機ずつ、数珠のように連なって反転急降下していく。
(高度100!80!70!)
敵艦から火箭が伸びてくる。中距離用の機関砲である。程なくして短距離用の機銃弾も、飛び込んでくる。
(60!50!40!30!)
(投下!)
600kg爆弾を投下して、急上昇する。凄まじいGがかかり体を推し潰そうとする。高度計がまた逆に回り始めて3000程で水平飛行に転じる。
(戦果は!)
(爆弾3発命中です!もう1隻の方はこっちがやったのよりもっと燃えてます!)
600kg爆弾を3発も食らったとなれば、大破は確実だろう。あとは、雷撃隊次第だ。
空母紅龍
(小澤司令、大丈夫ですか!)
幕僚が、小澤を起こす。
(うっ、大丈夫だ。被害は?)
(本艦に爆弾3発命中、発着艦不能、速力が25ノットに低下しました。雲龍は、爆弾6発が命中し大破。航行不能とのことです。)
(そうか...。確かに、敵機が硬かったな。全く落ちていなかった。だが、まだ終わってない。雷撃機を避けなくては。)
雷撃機が零戦の直掩をすり抜けて迫ってきている。魚雷さえかわせば、まだ紅龍だけでも助かることができる。
(雷撃機8機!左舷より接近!右舷からも6機接近!)
(挟撃か...。)
両舷の動ける対空火器がめいっぱい射撃する。40mmボフォースや20mmエリコン、M2ブローニング、挙句の果てには対空網の穴を埋めようと艦内にしまわれていたM1ガーランドを取り出すものもいる。紅龍は取り舵を取る。巡洋艦並の艦体がゆっくり左に曲がり始める。
(全速後進!)
艦長が新たな命令を出す。後進をかけて、敵雷撃機の魚雷をかわそうというのだ。
(敵1機撃墜!また1機!)
やはり前回と比べて格段に硬くなっている。
(敵機、魚雷投下!)
雷跡が、抜ける前に敵機が頭上を掠めとんで...
(伏せろ!)
艦橋内に銃弾が飛び込んでくる。
(小澤司令!)
(わっ、私なら心配ない。他の者を!)
(しかし、司令!足が!)
小澤の左足は膝から下が無くなっている。出血も酷い。状況を察した士官らが艦橋に上がる。
(大丈夫ですか!お、小澤司令!包帯を!早く巻け!)
(うっ...。)
(おい貴様!何を倒れてる!舵輪を持て!)
機銃弾にびっくりしてへたってしまった掌舵手を副長がどやす。
(はっはい!)
(右舷雷跡2!近い!)
伝声管の声が伝わったその直後、紅龍の右舷側が大きく持ち上げられ艦橋要員は、一瞬無重力状態になりすぐに地面に叩きつけられた。
攻撃終了から15分後 空母翔鶴艦橋
(残念ながら...。)
(そうか。)
俯いて報告する幕僚に、二航戦司令官山口は短く返答する。小澤は、あの後出血多量により死亡してしまった。こうなってしまっては、機動部隊の指揮権は山口多聞に行く。先程の攻撃で、空母雲龍は大破航行不能となり総員退艦が決定。紅龍は、かろうじて生き延びたものの発着艦不能により自力で戦場を離脱した。米海軍も損害を受けて、ホーネットが大破により戦線離脱、ワスプが撃沈された。日米連合艦隊は、ここに来て空母4隻を戦列から失った。
(来襲した敵機の数から見て少なくとも敵空母は3隻乃至4隻。米軍の方も同様か、1隻分少ないぐらいだろう。)
山口が言った。
(我が方の空母は米軍のも合わせて5隻、敵空母が7隻なのを考えると若干不利ですが分離して行動しているうちの1群を叩けば、少なくとも2隻以上の空母を行動不能にできるはずです。第一次攻撃隊を終了後、敵艦隊を叩きましょう。)
(もちろんそのつもりだ。偵察機を出すぞ。攻撃隊の減少が惜しいなど言っておれぬ。なんとしても敵空母群を発見するのだ。)
こうして、その判断は敵攻撃隊来襲から約40分後に報われることとなる。
(敵艦隊、機動部隊より方位056、空母3隻、速力20ノット、距離1056海里。)
(よし来た。すぐに攻撃隊の発艦準備だ。敵の攻撃が来ないうちにやる!)
米軍の方は、発見できなかったのか日本軍について行く旨を報告してきた。つまり敵空母3隻に対し5隻分、約300機強の機体が攻撃することになる。
14時25分 日米軍第二次攻撃隊
(おおっ!空母だ!)
右下方の海面にまな板のような特徴的な艦影を持つ軍艦がいる。間違いなく空母である。
(零戦、F4F隊が敵機に向かいます。)
(頼むぞ...。)
しばらくすると、攻撃隊のさらに上空でちらほら黒煙や曳光弾が見え始めた。空戦だ。今、ここにいる攻撃隊搭乗員のほぼ全員が空母を攻撃するのは初めてだ。一部隊員には、軽空母や加賀に乗って世界初の空母戦を行った者も少数いるがほとんどが初体験だ。しばらくして、巨大な球体が大きな音を立てて形成され周囲の味方機が落ちる。明らかに戦艦クラスの主砲だ。
(あいつか...!)
空母の次に目立つ巨大なシルエットが目に入る。ソ連では重巡、他国では巡洋戦艦と言われているクロンシュタット級に違いない。主砲は、金剛型と同じ35.6cmで砲戦能力だけでなく対空火力もなかなかのものと聞く。それが眼下に2隻確認できる。
(あいつも残しておくと厄介だが...今回な仕方ない!)
攻撃隊隊長機から、ト連送が発せられる。米軍には、米軍指揮官から伝えられる。
(上方敵機!)
後席からの叫び声に隊長は編隊を崩さない程度に機体の軸をずらす。右翼を機銃弾が掠めて敵機が前を通過する。
(くそっ。突破してきたか!)
日米軍の機体に被害が出始める。後席から7.7mm機銃を射撃する音が聞こえてくる。1分もすれば、今度は対空砲弾が炸裂し始めた。
(一難去ってまた一難!)
弾幕の量が、基地とは比べ物にならない。攻撃終了まで、激しい機動はできないから運だ。爆弾の投下ならともかくこの弾幕を掻い潜るのに、技量はほぼ関係ない。
(よし、急降下だ!)
エアブレーキを開けて、一気に急降下する。視界の中の敵空母がどんどん拡大する。
(高度80!70!60!50!40!30!20!)
(てっ!)
必中を期すため最大限近付いて投下する。Gに耐えつつ、何とか上昇する。
(爆弾4発、いや5発命中!)
(よし、大戦果だ!)
あとは、この対空網を抜けて帰還するだけである。敵空母にとどめを刺すのは雷撃隊だ。
雷撃隊5機
(ちょい右、宜候!)
敵空母は大炎上だ。引導を渡してやる。その一心で、瑞鶴のアヴェンジャー雷撃機は突き進んでいく。
(4番機被弾!)
味方機の撃墜に気を配る余裕は無い。報告だけ聞く。
(お返しだ!てっ!)
投下レバーを引く。米海軍の魚雷MK.13が投下される。その重さを切り離したことで機体が軽くなり浮くがすぐに機体を元の高度に戻す。今上昇する訳には行かない。そして、敵空母が至近に迫った時に行きかげの駄賃と言わんばかりに機首の7.7mmを対空機銃座に射撃する。すぐ上を通過して、今度は下から射撃音が響いた。下方銃座も射撃したようだ。
(魚雷3本命中!)
(まぁまぁか。)
5機で突っ込んでうち4機が投下して当てたなら9割が命中している。これであの空母は大破確実だ。
空母翔鶴 艦橋
(我、敵空母3隻ヲ攻撃。2隻撃沈確実、1隻大破確実、敵ノ迎撃極メテ熾烈ナリ。今ヨリ帰還ス。)
(迎撃熾烈なりということは、相当の被害を出したのでしょうか?)
(恐らくそうだろう。)
(帰還機次第ですが、機数によっては撤退も考えなくてはなりません。)
(うぅむ...。)
源田の具申に山口は唸る。現在彼我の空母戦力は5対3か4。ほぼ互角だ。もし、敵の攻撃がこれ以上あったりあまりに帰還した機体が少ないならば上陸部隊への航空支援は難しくなる。そうなれば、撤退するのが吉だ。いまだに、もう1群の空母部隊の所在が明らかになっていない。甲板上には、第三次攻撃隊が並んでいるが第二次攻撃隊が1時間半後くらいには帰還してくることを考えるとこのまま見つからなければ下げなくてはならない。
(しかし、我々には佐世保を空襲し我が海軍の艦艇を敵に使用される前に撃沈しなくてはなりません。それはどうするのです?)
士官が言う。
(薄暮に戦艦で強襲をかけては?)
それに源田が返答する。
(第二次攻撃隊収容後でも敵機が来ない場合、敵は撤退している可能性が高いです。第二次攻撃隊収容完了は短く見積もっても4時を超えますから、その時間を利用して我が方の空母も撤退。日米戦艦隊で、佐世保を艦砲射撃するというのはどうでしょう。)
現在、この海域には日本の戦艦は大和、長門、金剛、榛名がおり米戦艦はノースカロライナ、ワシントン、サウスダコタ、インディアナとなっている。このうちノースカロライナ、ワシントンを日米機動部隊護衛のために残して大和、長門、金剛、榛名、サウスダコタ、インディアナで佐世保を艦砲射撃しようという訳だ。
(ふむ...それでもいいかもしれんな。米軍に打診しよう。)
そして、間もなく米軍からOKが帰ってきた。そして、日米艦隊は第二次攻撃隊が帰還してからも空襲がなかったことからソ連海軍は撤退したと判断。帰還機数は、少なくとても第四次攻撃などは行えそうになった。そして、日米艦隊は合流も併せてそれぞれ艦隊から戦力を引っこ抜いて佐世保の艦砲射撃に向かった。
20時10分 佐世保港出口付近
(吊光弾、投下!)
軍港の上空を飛ぶ各観測機から吊光弾が投下される。数秒後、闇夜を昼間と見間違えるくらいの光量で照らす。
(発射よーい。)
ブザーが3回鳴って
(てーっ!)
46cm、41cm、40.6cm、35.6cm砲がそれぞれ火を噴く。目標は、敵艦及び内陸部の敵司令部である。金剛型の35.6では内陸部まで届かないのでそれらは大和、長門、サウスダコタ級2隻に任せて金剛、榛名は佐世保に係留されている日ソ両艦艇を大破着底させるのだ。
戦艦金剛
(だーーーんちゃく!)
初弾は、敵艦の前方に弾着した。金剛、榛名は敵艦のみを精密射撃するために他の戦艦より突出して佐世保港に近付いている。その分、沿岸砲から反撃を受けるかもしれないが今のところ攻撃は無い。
佐世保港近くの山
(まさか艦砲射撃だとは...。こりゃ、ぐずぐずしてたらやられかねませんよ。)
(どうですか?)
(行けないことはありません。しかし、夜間です。何も言わずに出港したら逃げようとするソ連海軍艦と見なされて誤射されるかも知れません。何しろ夜間ですから、この旗も使えない。)
(しかし、なんとかして行かなくては...。)
(....発光信号でやるしかありませんね。)
(...やっぱり賭けですか...。)
(やりますか?)
(はい、やります。)
(わかりました。では移動しましょう。混乱のうちに、さっさと乗り込んでしまわなくては。)
ソ連海軍 35.6cm連装沿岸砲陣地
(お前らの都市は要塞になったんだよ!反撃を喰らえ!)
日本戦艦の伊勢、日向という艦から鹵獲した35.6cm連装砲6基が火を噴く。狙うは、突出している敵戦艦2隻。
戦艦金剛
(沿岸に発砲炎!)
(敵艦か!)
(いえ、砲台です!戦艦クラスの巨大な沿岸砲台です!)
(なにぃ!?)
その直後、金剛と榛名の前方に水柱がそそり立つ。同じくらいの大きさのようだ。
(くそっ。やつらめ、人のものを勝手に...!)
人のこと言えないとは分かっているが、この沿岸砲台がそんじょそこらの1年程度で新造できるわけがない。おそらく、こちらが放置した戦艦から剥ぎ取ったものだろう。
(弔い合戦だ!待っててくれ、その苦しみから解放してやる!)
司令官が小声で沿岸砲台の主砲に呼びかける。今や、鹵獲された日本戦艦の忘れ形見だ。写真で確認された戦艦伊勢日向は、もういない。おそらく、ソ連国内で解体するか実標的として処分されているかだろう。
陸海軍水兵混成部隊
(ふーーーっ。よし、いいですか?離れないでくださいね?)
(はい。)
そうして、部隊長が腰にある刀を抜く。
(突撃ーーーー!)
((うおーーーーー!))
突撃ラッパを合図に、部隊全員が一直線に佐世保の軍港目指して突っ走る。今、味方の三連装主砲を持つ戦艦は内陸部に砲撃している。近い方の戦艦2隻は、沿岸砲台と砲戦している。今しかない。
ソ連軍軍港守備隊
(なんだなんだ!)
(日本軍だー!ゲリラ化したやつが襲ってきたぞー!)
(なんだって!)
(おい、数は!)
(800人は超えてる!大部隊だ!)
(800だと!)
(俺たちじゃ抑えられない!近くの師団に伝えろ!)
(はあっ、はあっ!)
息切れを起こしながら、水兵たちは目的の艦がいる岸壁にそれぞれたどり着いた。陸軍と陸戦隊の連中はまだまだ走り回って撃ちまくっている。やはり陸戦が主な仕事なだけある。
(ここまでありがとうございました。あとは、我々にお任せ下さい!ほら、さっさと乗れ!行くぞ!)
(後ろはおまかせ下さい!いってらっしゃい!)
水兵のトップは、にっこり笑って艦橋に駆け上がった。
(機関は動いてるな?)
(はい、残燃料充分です。)
(よし、動かせるならそれで充分だ。両舷前身微速、着底してる艦に気を付けろ。)
艦前部から後部にかけてスラッとした艦型、艦橋は小さくまとめられいかにも近代的な巡洋艦、最上型の1番艦最上だ。他に、護衛として駆逐艦時雨、駆逐艦五月雨を連れている。こちらも発光信号で出港可能な旨を報せてきた。
戦艦金剛
(くそっ、沿岸砲台にここまで手こずるとは...。)
金剛、榛名の両艦は6基あった沿岸砲台のうち4基を破壊したがその間に金剛が3発被弾し、榛名も1発被弾した。戦闘、航行に支障はないが早く潰さなくては佐世保港内の殲滅に時間をかけてしまう。
(司令、軍港内に動きあり!軍艦が動いています!)
(なにっ!)
艦長は高台の砲台から、港内に目を向ける。
(あれか...。)
(どうしますか?)
(榛名に対処させろ。港内からは1隻も逃してはならん。)
(了解。)
戦艦榛名
(目標変更、港内の巡洋艦へ指向。最上型か...すまない。)
(艦長、発光信号です!敵艦から発光信号!)
(む、読め。)
(は、我、帝国海軍籍重巡最上。護衛駆逐艦2隻ヲ伴フ。攻撃サレルベカラズ。)
(か、艦長。彼ら、ソ連海軍の旗を捨てました!代わりに、旭日旗が!)
(どうやら本物のようだ...。よし、射撃中止。3隻を援護する。沿岸のちっさい砲台に向けろ。3隻に被弾を許すな!艦隊にも報せろ!)
(了解!)
戦艦大和
(おお、本当か!)
(はい。現在、脱出を榛名が援護しています。)
ソ連海軍 15cm沿岸砲
(撃てー!逃がすな!)
軍港内に取り付けられた15cm砲弾がひっきりなしに飛んでくる。低速の軍艦ほど、格好の獲物は無い。
(くそっ。頼む、援護を早く!うわあっ!)
1発被弾した。駆逐艦が援護射撃してくれているが、作業効率は良くなさそうだ。
(うぐっ!)
さらに2発被弾する。
(逃げ切るまでは死んでも死にきれん!頑張ってくれ最上!)
そこに、大爆発が起こった。15cm砲があったであろう場所に集中して大型の砲弾が弾着し砲を爆砕し、人員を蒸発させる。
(おぉ、海軍軍人の立場でも大口径砲は戦場の女神と実感することになるとは...。)
戦艦金剛
(次で行ける!)
その声に呼応するように金剛の主砲弾が、斉射される。しばらくして、弾薬庫に命中したのか最後の沿岸砲台が盛大に爆発し砲塔が空高く吹き飛んだ。
(よし...。あとは軍港内の掃討だ。)
こうして、艦砲射撃は成功し最上、時雨、五月雨も脱出に成功。艦隊は帰路についた。
重巡最上
(一段落ですね、艦長。)
(逆にこれだけしか持っていけないのが残念ではあるが、仕方ない。3隻持って帰れるんだ。胸を張って、目的地へ行こう。)
本人は、艦長ではなく元々最上の砲雷長である。ソ連侵攻時には、何とか逃げ延びてゲリラ化した部隊に他の乗員たちと共に拾ってもらった。行動しているうちに、白露型の乗員たちと会ったり次第に戦力は膨らんだ。そして、一世一代の大勝負に出、そして勝ったのだ。
22時23分 戦艦大和
(SG電探に感!大型目標6、中型目標4、小型目標14!)
(なっ。まさか戦艦か!)
(奴らも、待っていたのかもしれません。)
(お察しというわけか...。電探のおかげだ。丁字戦法を描かれてはたまらん。同航戦に持ち込むぞ。取舵いっぱい!最上と護衛の駆逐艦2隻は離脱させろ!)
海戦は、まだ終わっていなかった。
航空主兵の方でも大艦巨砲主義の方でも楽しめる小説を書いていこうと思ってます。推し艦は登場しましたか?なかった方は、次回にご期待ください。




