再会の猫とひょっこり男子
「美咲ったら!! どこに行っていたの? スマホにも無反応だし、心配するでしょう?」
私が家に帰ると、親が起きていて怒ってた。というか、オロオロイライラしていた。私が消えていたから。
「ごめんなさ〜い。スマホは部屋に置きっぱだよ。充電中! 春休みの間、家でお菓子食べてたから、その分運動しようと思ってさ。朝早く目が覚めて、思いつきでジョギング行ってた。明日も行く。春休み終わるまで毎日!」
テヘペロで明るく誤魔化す。
「なら、ちゃんと言ってから行きなさいね。びっくりするじゃない。いきなりもぬけの殻になっていたら」
「はいはい、わかったよ。今、言ったからそれでいいでしょ? ママ、それよりお腹すいたぁ〜。ベーコンエッグ食べたい! ダブルで!」
私は親の前ではいつだって、元気でおしゃべりで、勉強も運動もそこそこ出来る、太陽みたいな女の子でいなければならない。
周囲が私に望んでいることだから。
私は私を演じてる。
私が囚われている死への恐怖と悲観。心の中のことは誰にも言えない。
それに聞いたって、答えられる人なんているのかな? きっと誰にもわからないんじゃない?
死んだことないもん。
今生きてる人たちが、家族も、クラスの友だちも先生も、その辺歩いてる人だって、この世からみんなみんないなくなってしまうんだよ? 誰もが逃れられない恐怖について語れる人、いる?
*
翌朝、明るくなってから家を出た。流石にね、早く出過ぎてまた変態が出たらヤだし。
目指すは緑道の小道。
おばあちゃんの鈴をポケットに入れて。
あの三毛猫がいた辺りのベンチに座って待ったけど、全然気配もない。
「・・・・ちょっと歩こうかな」
三毛猫を求めて小道をあっち行ったり戻ったりウロウロ。
私、ちょっと怪しい人?
文庫本でも持ってくればよかったかな・・・
向こうに猫がいたと思って走ったけど、私が走ったら向こうも走って逃げてしまった。違う猫だったのは見えた。残念。
私は、最初にいたベンチに戻って一休み。
おばあちゃんの鈴を手にとり鳴らしてみる。
チリンチリン・・・
20分待ったけど、来ない。今日は諦めよう。
そんな日が続いた。雨降りの日はさすがにパス。
しょうがないよ。そうそう上手く行くわけないじゃん・・・
そして春休み最終日、明日は中学の入学式って日になった。
いつものように緑道の小道のベンチで待つ。
今日もダメ? もう一度あの子に会いたかったけれど、そんな偶然期待すんのは無理だったのかも。
もう帰ろうとベンチから立ち上がり、鈴を短パンのポッケに入れようとして、足元に落としてしまった。
地面にぶつかってチリンと小さな音。
立ったまま手を伸ばし拾い上げ、ポッケに戻した。
あーあ・・・無駄な努力の春休み。ため息・・・フゥー・・・
────それは運命の瞬間だった。
すぐ背後でカサッと枝が小さく鳴った。刹那、 私のすぐ背後から、猫の声が!
「ニャ~・・・」
振り向くと、ウソみたい!
あの三毛猫が植え込みから出て来た!! 間違いないよ! 首輪も一緒だし。
「・・・私、キミのこと探していたの。数日前にここで私と会ったよ。覚えてる? 先日は助けてくれてありがとう」
私の言うことが分かる?
三毛猫は立ち止まって、ただ黙ってじっと私の目を見てる。
私は驚かせないように静かにゆっくり小さくしゃがみ込んだ。
「あの・・・三毛猫さん。私は河合美咲という者です。私とお友だちになりませんか?」
────あー、猫、無反応 ( ´ー`)
・・・だよね。
うふふ、いいの。また会えただけでも嬉しいよ♡
取り敢えず、眺めてるだけでも癒される。可愛いし。
私はベンチに座って、目の前で毛づくろいを始めた三毛猫を眺めてる。
「あなたの名前はなんて言うの? この近くのおうちの子なの?」
私が聞いても知らんぷりで姿勢を変えつつペロペロ毛づくろいしてる。
毛づくろいが終わると、おもむろに私の横のベンチにシュタッと乗った!
────キャァァッ!! 嬉しい!! 感動で震える。
ガマンしてじっとしていたら、私の膝に乗って丸くなった!!
────ギャァッ!! か、かわいい過ぎない? この子は飼い猫だからね? すごく人慣れしてるのね。
やっぱりあの日の飛びかかりは、人懐こくて近づいてきたこの子に、あの男が以前何かしたに違いない。
*
あの再会の日以来、私がおばあちゃんの鈴を地面に落とすとあの子が来る、というジンクスを実行し、それは功を奏している。
きっと同じ形の鈴をつけているから音に惹かれてやって来るのかも。あの子の鈴のほうが新品でキレイだけれど。
私は三毛猫に夢中になった。
本当の名前が分からないから、取り敢えず「みけかわ」って呼ぶことにした。なら、見たまんまだから本当の飼い主にも失礼ではないでしょ?
ただただ、一方的に悩みをお話しした。みけかわは膝の上ので黙って聞いてくれた。何を言っているのかはわかっていないんだろうけど、私の心の色は伝わってると思う。
私に向けられるその神秘的な目は、死への不安にかられてる私の心を慰めようとしてるように思えた。
猫と会話は出来なくても、私はそれだけで癒された。みけかわの温もりが私の身体に伝わって来るだけで幸せを感じるの。
今までに増して休みの日が待ち遠しくなり、雨が降らないことを願った。
そして5月の終わりの週末。
そこで偶然にも、同じクラスの、しかも隣の席の男子とバッタリ出会った!
いつもの場所にみけかわがやって来て、膝の上でいつもの私のお話を聞いてもらおうとした刹那、近くで猫の声がした。
みけかわが「にゃにゃん?」ってお返事したから、みけかわのお友だちだと思ってワクワクして見に行ったら、そこにひょっこり立っていたの!
メチャびっくりしたッ!!
しかもその男子はなんだか様子が妙で─────




