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思春期未来志向  作者: メイズ
因果の少女編
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金の鈴と私


私はあの日以来、ずっと考えている。


死について─────


 私の机の上には、鈍い金色を(まと)う古い鈴。


 毎夜宿題をしながら眺めてる。時には、紅い紐を持って鳴らしてみたり。


 これは田舎のおばあちゃんの形見の品。


 *


 おばあちゃんは、今年の冬と春の狭間に死んでしまった。


 私、すんごく悲しかった。


 田舎のおばあちゃんのお(うち)では、春夏冬の休暇を一緒に過ごした楽しい思い()しか無かったから。


 私たちが遊びに行く時には、おばあちゃんは面白いことをたくさん用意してくれていて、孫の私たちに楽しい体験をたくさんさせてくれたの。たまにしか会わない従兄弟(いとこ)たちと遊ぶのも、すっごく楽しみだった。


 春にはおばあちゃんに連れられて、土筆(つくし)やフキノトウ摘み。合間にヒラヒラ飛んでくるチョウチョと追いかけっこ。突然現れるトカゲに悲鳴を上げて、笑われたりしたことも懐かしい思い出。


 夏休みはおばあちゃんちのお庭で、従兄弟(いとこ)たちと恒例のスイカ割りと夜の花火。


 夜は蚊取り線香の匂い漂う広い畳のお部屋で、布団をたくさん並べ、おしゃべりしながら大勢で寝るのは普段と違って楽しかった。


 お正月にはおばあちゃんちなら、真ん中に火が燃えてるとこがある石油ストーブの上でお湯を沸かしたり、おもちも焼けるのよ。おばあちゃん特製の胡桃あんのおもちは最高に美味しいの。


 雪の積もった田んぼにバナナを1本埋めておいて、冷凍バナナの宝探しとか(隠したおばあちゃんもバナナの場所を見失って結局は行方不明だったけど)も面白かった。



 大きな四角いちゃぶ台の上に並べられた、おばあちゃんの遺した(よすが)の品を一つ一つ見ながら、あれこれおばあちゃんの思い出が溢れて、思い出されて、悲しくて、切なくて、私は親戚の誰よりも涙が止まらなかった。おばあちゃんの実の娘のママよりも泣いていた私。



 大好きだった私のおばあちゃん─────



 葬儀の前に親戚一同集まったおばあちゃんの家。


 おばあちゃんの長男家族の計らいで、皆1個づつ形見の品を選んで持って行くことになった。


 私はこの鈴を選んだの。


 おばあちゃんの漆塗りの文箱に入っていた古びた金色の鈴。一緒に入っていたセピア色の写真には、子猫を抱いたおかっぱ頭の幼い女の子。この子、おばあちゃん?



 ────あれから私の頭から、おばあちゃんのことが離れなくなった。生きてる時は、次の長期休みになるまで忘れていたのに。おかしいよね。



 おばあちゃんがただの骨になって、長いお箸で2人で1つの骨を拾ったの。


 これはなんの儀式かわからないけど、言われるままに。



 骨壺に納められたおばあちゃん。


 この中に? ウソみたい。


 なんだか全てが夢を見てるような、ふわふわした私がいたの。


 中学校の入学式で着るはずのセーラー服をいち早く着た私。


 春休み中の出来事。



 中学生姿の私を見たいって、おばあちゃんは楽しみにしてくれてたから見てくれたかな?



 *



 あの日から私は死に怯えるようになった。


 人は誰でもいつかは死んじゃうの。


 どんなに大切な人だって。いい人だって。偉大な人だって。お金持ちだって。



 そしてこの私だって。



 ──────怖い。



 いつか絶対に私に訪れる死が。いつかは白い骨だけになる私が。


 みんなよくも平気な顔して生きていられるよね? どうせ死んじゃうのに。


 怖い、怖い、怖い。


 とにかく怖いの!


 もう年は取りたくない。本当は中学生にもならなくてもいいや。


 楽しかった小学生のままの私でいたい。おばあちゃんと過ごした楽しい思い出の中の私に戻して。


 神様、お願い。


 私を助けて下さい。



 *



 小学校を卒業し、中学が始まるまでの春休み。あれは3月の最後の日の早朝。


 私は夜が明ける瞬間を感じたくて、こっそり外に出たんだ。


 その瞬間なら、もしかして神様に会えるんじゃないかって思ったの。


 

 こっそり家を抜け出した。


 私は、このままでは怖くて、苦しくて、切なくて、壊れてしまうから。



 *



 自室を出て、廊下を忍び足で玄関ドアまで。


 細く開けて外側を覗くと、しんとした共用部廊下。静まり過ぎててちょっと不気味。けど、こんな時間にもし誰かいたらもっと不気味。



 ───ヨシ。誰もいない。



 そっと扉から抜け出る。


 廊下の壁には等間隔に並んだ同じドア、ドア、ドア。


 白々しい灯りが灯る中、押すとすぐ来て開いた無人のエレベーターもちょっと薄気味悪くて、乗るのも少し躊躇したけど、えいって乗り込んだ。



 ────無事1階に到着。


 良かった。エレベーターは異次元には行かなかったね。不審者も殺人鬼も出なかった。



 小さな図書室にもなっている、しゃれたソファーがいくつもランダムに並んだ、誰もいない共用部を横目に通り過ぎる。


 私を迎えたエントランスの自動扉は『さあ! お行きなさいな』って、サッと結界を開けた。


「・・・さっぶ」


 冷たい空気が頬を刺す。ああ、手袋忘れた。けど、しょうがないや。



 おばあちゃんの形見の鈴を握りしめて、まだ星が輝いてる中、そのまま川っぺりまで走った。




 夜と朝の狭間に会うために。


 私を救ってくれる神様を探すために──────



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眠りにつく前に
魔女狩りに遭う運命を察知した少女の運命は・・・
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