ミツハシさんの正体とは?
『・・・礼か? 某が沙衣殿の願いを叶えたら、次は某の願いを沙衣殿が叶えてくれるとな?』
あ・・・イヤな予感・・・! このニタニタ感。
『ならば沙衣殿の問題が解決した暁には・・・』
これって絶対言わせてはダメなやつじゃねッ? させるかッ!
『待って! けっ、けど、ミツハシさん! 俺に出来ることなんて知れてるからな! あんま期待されても煮干し1袋とか、好きな猫缶数個とか、それレベルなんで。俺のお小遣い、今どきたった月2千円なんだぞ! ペット同伴可の高級温泉に連れて行けとか言われても無理なんで』
『某が、そのような自分でどうでもなる食べ物のことをそなたにお願いするとでも? 某が辺りを歩けば、頼まなくともそのようなをお布施が自動的に集まるのであるのに。愛らしい猫には、奉仕をせずにいられない種の人間が多数存在するのだ。そして某は、水濡れは嫌いである。風呂など某には不要! シャーッ!!』
猫って水濡れ嫌いだったんだ。知らなかった。猫飼ったこと無いし。
背中の毛を逆立てて、刹那見せた鋭い牙。普段は可愛らしい猫とて、わりと迫力。
体をペロペロ舐め始めたミツハシさんに視線を取られ、まじまじと見入る。
そもそもミツハシさんってすんごい頼りになってるよな? 人やAIよりも。
猫と話したのは初めてだから他の猫とは比べられないけれど、ミツハシさんって相当優秀な猫じゃない?
それに猫は、この世を彷徨う霊的なものの存在まで感知してるようだ。人間には見えてないものも見えてるのかも。
あ・・・! ((((;゜Д゜)))
ミ、ミツハシさんこそ、妖怪とかモノノ怪系ってことも考えられないッ?
『・・・ミツハシさん。ま、まさかとは思うけど、ミツハシさんは俺の体に乗り移ったりしないよな? 俺を助ける代わりに体、もしくは魂を喰らうとか・・・。猫って祟るって言うし、猫の怪談話とか多いし・・・相談に乗って貰っといてこんな疑いをかけるのは、非常に申し訳ないけど・・・けど・・・』
俺の青ざめがぶりが面白かったらしい。ミツハシさんは赤い口の中と鋭い牙を見せながら大笑いした。
『そなたは某に何を想像したやらw 人間は随分と猫に神秘性を見てるからな? まあ、基本間違ってはいない。人間から見たら猫は不思議な生き物であろう。某は人間に危害を加える猫ではない。とは言え邪悪な者らも皆、そうとしか言わぬがなw』
俺はミツハシさんを信じていいのだろうか?
『忠告として・・・。邪悪で狡猾な人間もいるように不心得な猫だっている。先ほどの沙衣殿の軽率な提案。そなたも不用意な言質には気をつけるがよい』
もう俺はミツハシさんに敵いそうにない。ここで出会ったのも神様のお導きかもだし、信じてみっか。
『・・・ハイ。で、俺はどうすれば元に戻れるのですか?』
『簡単だ。放おっておけばそのうち治る』
『本当ですか? けど、その "そのうち" ってのが俺の問題になるんだけど』
『それは某にもわかりかねる。そなたの心の問題だからだ。沙衣殿に入り込んだのは、なんの特徴も無き猫の思念の霞が如き残留物。そなたの本気の意思さえあれば、本当に元の言葉を取り戻したいと願うなら今すぐにでも猫語は消え去り、奥底に閉じ込めた本来の言葉は解放され問題は解決するのである』
『俺が本気で元に戻りたいって願ってないってこと?』
『まあそういうことだ。自覚はあるのかどうだか知らないが。それで・・・某への礼だが、今は急いでいるゆえ貸しとしておく。受け取るのはいつになるか分からんが。・・・某はもう行かねば。ではこれにてさらば、少年よ』
耳をピクピクさせたミツハシさんは、俊敏な動きで植え込みの茂みに潜り込んだ。
『あっ! ミツハシさんちょっと! さらばってなんだよ、待って!! 某への礼って? 俺まだ解決してないのに!』
あっという間の出来事で、植え込みの裏を覗いたけれど、もう姿はどこにも無く・・・
ぽつんと残された猫語のままの俺。
どこにも行けないし、誰とも話せない。
せっかくのこんなに天気の良い土曜日だってのに・・・
「みゃぁ・・・」
う (>_<")・・・思わず漏れたため息さえ猫だ。
取り敢えず一回家に戻ろう。とにかく俺は準備不足だ。
帰ろうと鳥居をくぐり抜け、境内から出た刹那のことだった。
通りの向こうの電柱の角を、ミツハシさんらしき猫が曲がったのがチラッと見えた気がした。
「待って! ミツハシさーん」
追いかけながらうっかり猫語で叫んでしまった! 前方から来る子犬を散歩させていたおばあさんが、俺を変な目で見たけどそれも一瞬で、ことも無く通り過ぎた。子どもがふざけていたと思っただけみたい。
因果が本末転倒だけど、俺が見かけ小学生に見えるのは幸いだ。
ミツハシさんを見かけた気がした角を俺も曲がった。その突き当たりは、道なりに植えられた桜の木と植え込みの小道の側面に突き当たる。この道は所々にベンチもある市民の憩いの場。あの小道のどこかにミツハシさんがいそうな気がする。
先ほどのおばあさんの反応からして、俺が猫語でミツハシさんをみゃみゃー呼んでも特に問題は無さそう。今回だけは小4の姿で良かったと感謝。大人がやったら不審者で通報されるかもだ。
「ミツハシさーん」
呼びながら緑道に入ると、道の奥向こうからミツハシさんの返事が!!
「某にまだ何か?」
心臓が止まるかと思った。
カーブした道なりの木々の陰で、前方がよく見えなかったんだ。
再び俺の前に現れたミツハシさんは、なぜか俺の隣の席の女子に抱っこされていた!
河合だ! 昨日の放課後に、俺をバカにした女子。
「・・・うっそ、河原崎じゃん。朝っぱらから驚愕の偶然!」
普段でもでかい目をさらに大きくして俺を見てる河合。すっごくびっくりしてる顔。
そういう俺だって ((((;゜Д゜)))) アワワワだよッ!! ミツハシさん、これってどうなってんのッ?!