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思春期未来志向  作者: メイズ
約束の先
35/39

解明の時

 何事だ? 河合が部屋に入ってから、誰もこの階に来てはいない。


 左側一番奥の部屋に駆け戻った。



「おい、どうした? 河合? 大丈夫? おーい!」


 ドアをノックしチャイムも鳴らす。


 すぐにドアが開き、その隙間には、見るからに取り乱し青ざめた顔がそこにあった。


「早く入って!! 大変なの!! 三葉に用意しておいたごはんのお皿の中に、チョコレートが入っていたのッ!!」


「何だってッ!! 食ったのか? いつ?」


「ハ、ハッキリはわからないけど、食べた可能性が大きいかも。今食べてたの」


 ったく! 飼い主の不注意にはムカつくけど、河合を咎めてる場合じゃない。


 河合について、キッチンカウンターの内側に入った。



 チョコレートの香りがする。床にある猫の餌入れにカリカリ餌に混じって粒チョコが混ざっている。なんだコレ?!


「わ、私どうすればいいの? 応急処置はどうすればいいの? 診察料は支払うからお願い」


「とにかく落ち着いて。急にどうこうなるわけじゃないから。それにどれくらい食べたかによるんだ。少しなら無症状で終わる。で、何チョコレート?」


「私がパントリーに買い置きしていた、箱入りチョコレートみたい。ここよ。こんなところ三葉が開けることも無かったし、この子には開けられないと思ってたの」


 河合は造り付けの物入れの扉を開いて見せた。綺麗に整頓されて箱や缶詰や、買い置き消耗品が並んでる。


「それってミルクチョコレート?」


「そう。板チョコ状ではなくて、12個入りのミルクチョコレート」


「ミルクチョコならマシだ。箱からどれくらい減ってんの?」


「12粒全部。おかしいよ。床に落ちてたこの箱! 横から綺麗に開いてる。猫が開けた箱じゃない。ほら、ここに落ちている内袋だって、手で切ってあるみたい。猫が齧って開けたわけじゃない・・・」


「河合が開けて忘れてたってことは?」


 買い主って結構自分の非は認めなかったりすることあるし、俺は一概に信用はしてない。


 証拠に、パントリーの中は全く乱れてないじゃないか。猫が入ったのならぐちゃぐちゃになってるはず。


「私のウッカリではないよ! すごく気を付けてるの。私はそれを棚の上段に置いたままにしていたし、開けた覚えは絶対に無いの。河原崎は先日も三葉の薬の誤飲を疑っていたけれど、それはあり得ない。それにどうしてこの箱のチョコが、三葉のエサ入れにちゃんと入っているの? 三葉が自分で入れたとでも?」


 ────どういうことだ?



 河合に断って、餌入れのエサをキッチンの作業台に広げてた。残ってるチョコをより分ける。 


「・・・12個入ってた。一箱分、全部ここに・・・?」


 ────これは人為的だ!



「じゃあ、三葉はカリカリしか食べて無いってこと?」


 ホッとしていいのかそうではないのか、眉根を寄せて複雑そうな顔してる河合。


「取り敢えずはそうみたいだけど、診察させて。もしかしてもっと餌入れにチョコが入っていた可能だってあるし、今食べてたのなら、口の中に痕跡残ってるはずだから。舌は特に。ニトリルグローブか未使用のゴム手ある?」


 河合がキッチンの引き出しをガサゴソしてるその奥で、三葉が警戒して俺を見てる。先日この子を計った時、4kgちょっとだったし、仮に食べてたとして中毒症状が出るまで2時間はかかる。



「河原崎、これでいい? 三葉ちゃん、この人は怖くないよ。私の大切なお友だちなの。こっちに降りてきて」


 河合は俺に使い捨てのニトリルグローブを手渡した。


 冷蔵庫の上に乗ってる猫は、俺ら人間が発する動揺をしっかり読んで警戒してる。



 ここは俺の猫語で猫と会話。


また会ったね(ミャオン)。三葉ちゃん。俺のこと覚えてる(ニャーニャー)?』


『今日は留守番のはずだったのに、うざい奴ばかり来んなよ!』


 俺の他にもうざい奴が来た? とにかく俺のことは覚えているらしい。


『診察の続きだ。ここで見せてくれないなら即刻病院行きになるけどどうする?』


『にゃに?! オレは病院などにはいかないぞ。どこも悪くない』


『口の中あ~んして見せてくれ。その後、質問に答えてもらって、何も問題無かったらとっておきの猫缶をあげる』


 俺は猫にウソはつかない。さっき棚の中にあったの見た。この子、食事の途中だったらしいから腹減ってるだろ?


『おっ!・・・おい、本当だな? 嘘だったら猫パンするぞ?』


『疑うの? なら頼んでおこうかな』


 河合に指示する。


「河合! ゴールドの猫缶あったよな? 良い子のご褒美に後で1個あげてくれないか?」


「えっ!? えっと、了解です」



 三者取引成立!



 ソファに移動。


 河合に抱っこされた猫の口腔内をスマホライトで照らして診たけれど、チョコの痕跡は無し!


 これだけではまだ足りない。



 ────お次は知る限り、この世では俺にしか出来ない猫語による猫問診。



今日の留守番中に(にゃーにゃー)いつもと違うもの(にゃーにゃにゃー)食べてない(にゃ)?』


ない(にゃ)!』


『カリカリに混ざってた黒くて甘いものも?』


『にゃッ! あんなもの誰が食うかよ? オレの大嫌いな男が入れたものなんて』


 やはり人為的に誰かが入れたんだ!


『誰か来たの? いつ? 今日?』


『美咲が出かけてから少しして入れ替わりに来た。オレはアイツは嫌いだしずっと隠れていた。入る前の足音だけでオレは誰だか分かるのさ。呼んでも探してもムダだ。猫の抜き足差し足は人間とは違って完璧だにゃ』


 まさか・・・!! 


『その男がキミのごはんにあの黒い物を入れたってこと? いつ帰った?』


『ついさっきにゃ。美咲が帰る少し前。オレはその間ごはんが食えなくて、やっと出て行ったから腹減って夢中で食ってたら美咲が帰って来て、そしたら美咲が1人でキャーキャー騒いでで、ついでにお前にまで来られて迷惑だったけど、ゴールド猫缶ゲットだから許す』


 河合の元カレとすぐそこで鉢合わせしたのは、ここに侵入して帰ったところだったんだ!!



『あの黒くて甘い匂いの塊はさ、食うとすっごく腹が痛くなって気持ち悪くなって即刻病院行きだからな? あっても食べたらダメだぞ』


『・・・マジ? アイツ、オレのごはんになんてことをッ!! シャーッ!』



 ヤバい。これって留守中に侵入されてるじゃん! なるべく動揺させないように河合に伝えないといけない。


 この子が狙われてる。河合の愛が猫に向いたから嫉妬して。



『そう言えば、あれも数日前にアイツが来て、帰ったらあったんだ』


 他にも何かを?


『来て! これにゃ!』


 三葉が手でカリカリ示したものは、リビングのチェストの陰になってるコンセントに刺さる、タコ足配線に使う3個口のコーナータップ。


「河合、これ知ってる? ずっと前からあったの?」


「・・・さあ? 分からない。あったような無かったような」



 ドライバーを借りて中を開いてみると、謎の小さな機器が入っていた。たぶん、盗聴器だ。


 やはり見かけた似た男は篠崎で、近くに潜んでこの部屋を盗聴していたんだろう。


 踏みつけて水に沈めておいた。


 河合は薄々感づいていたようで取り乱すことは無かったがやはりショックを受けていた。


 ────そうかッ!!


 これの前の侵入の時にこの盗聴タップを仕込み、ついでにこの部屋にある河合の風邪薬かなんらかの薬を猫の餌入れに混入させたんだ! この部屋にあるものを猫に誤飲させたら、原因がわかったとしても河合の自己責任にしかならない。


 だから三葉が眠り続けて。河合の落ち度ではなかった。


 ────なんてやつだ!


 ったく、猫にヤキモチってどんだけ心が狭い男なんだよ? あの男が猫好きだったら今頃は相思相愛で河合とうまく行ってたんだろうな・・・



 亡くなった河合のおばあちゃん、ミツハシさんの計らい。



 ────河合と俺の再会の意味。


 河合をストーカーから守るため。この猫を守るため


 俺は河合にフラれているのに今後もこんな風に使われて振り回されるの? 猫語の代償として?


 それはツライって・・・・



「河合、この子はチョコを食べてない可能性が高いけど、体調変化が無いか、今から6、7時間くらいは特に注意して見ていないといけない」


「わかったわ。ありがとう」


 河合は愛猫を抱き上げ、ぎゅっと抱きしめてから床に置いた。


「・・・三葉ちゃん頑張ったね。約束通りキッチンに美味しいごはん用意したよ。食べておいで」


「ニャオン!」



 *



 隣同士で座った2人掛けソファ。


 小さなローテーブルの洒落たコースターの上には、冷たい麦茶2つが並んでる。


「三葉ちゃんはお腹いっぱいで眠くなったみたいね。こんなところで寝てしまうなんてこの子、河原崎にも心を許してるってことね」


 俺たちの隙間で、河合の膝に半分乗っかって無防備に伸びて寝ている。


「・・・だと嬉しいけど。この子は人を見る目があるんじゃね? ふふふ・・・」


 実際そうだよな。悪意の人間が寄越した餌は避けてたんだから。


 こいつ、ほんとかわいい寝顔してる。買い主に似て性格もしっかりしてるよな。お陰で盗聴も暴かれたし。


 そっと猫の胸に手を当て心音を確かめたけど、異常は無い。


「特に変化はないね。今んとこ」


「・・・よかった」



 不意に沈黙が訪れた。



「・・・もう聞かなくても確信してる。河原崎の猫語のこと。あれはただの猫マネじゃ無いの」


「・・・・・・」


 俺はデコを擦って誤魔化す。


「いいよ。言いたくないなら。無理に聞こうとは思わない。もう河原崎の口から聞かなくてもよくなってるの。代わりに私の話を聞いてくれる? 私から伝えたいことがあるって和食処で言ったじゃない? それは昔、私が見た夢の話なの・・・」



 わわ、甘い期待してた俺は全くハズレてたな (ー_ー;)


「夢って? 寝てる時に見る夢のこと?」


「うん。不思議な夢だったの。みけかわの埋葬におばあちゃんの家に行った夏休みのことなんだけど─────」



 興味深い話だった。


 夢の中で、おばあちゃんの猫がふうっとみけかわに変化(へんげ)したという。


 河合の話は本当だと思った。


 だって、河合の言う「みけかわ」は俺の言う「ミツハシさん」で、おばあちゃんの猫「ミツハシ」の生まれ変わりだ。俺は前世の記憶を持つミツハシさんに直接聞いている。


 河合のおばあちゃんも幼児から美人お姉さんになったりと変化したというから、三葉の見た夢の中のかわいい少女は、河合のおばあちゃんの幼児形態だったってことじゃない?


 きっとおばあちゃんは、かわいい孫である河合美咲に夢で伝えたんだ。不思議の一部を。



「なるほどな・・・」


「なあに? 1人でわかった顔して。私にはサッパリなのに。憎たらしいわ。私を振った件もあるし」


「エッ! ふ・・・? 今なんて言った???」


「・・・河原崎が憎たらしいって言ったの」


 俺の視線を避けて、ぼそっと言った。



「その次!! 俺が河合を振ったって? なんだそれ? いつのこと?」


 今も昔も俺にそんな覚えはない。河合にフラれたのは俺だ。


「あれ? 私は酔ってなんかいないのに、酔ってることにして私をお断りしたじゃない?」 ( ー`дー´)


「・・・ッ!」 (,,゜Д゜)



 あれってマジだったのッ?! 


 ああ、俺ってヤツは!!



「そ、それは河合の誤解だって・・・」


「さあね? 知らないわ」


「そ、そんなこと言うなってば、さっきフラれて置いてかれたのは俺の方がじゃん」


「それはちがうよ? 河原崎が先に私を振っ・・・」


 

 それだけわかれば十分だ。


 俺は彼女の口を、人差し指を当てて塞いだ。



 ────押し問答はもういいさ。



 俺たちはふと数秒見つめ合い、愛猫三葉を間に挟んだまま、口づけを交わした。



次回で終われるかな _φ(゜Д゜ )

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眠りにつく前に
魔女狩りに遭う運命を察知した少女の運命は・・・
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