疑心暗鬼の中で
《思いの外、今日の美咲の帰りが早いから会ってしまっただけだよ? 再会はもう少しだけ先の予定だったのに》
元カレ篠崎の言葉が頭から離れない。
アイツの予定では、私と予想外で鉢合わせしてしまった風な言い草ね。
私の留守を狙って私のマンション周辺をウロウロって? 待ち伏せでも無いのなら何のために?
監視目的? 私が出かけていると知っていたみたい? ううん。道端で見かけたなら、向かう方向で帰る途中だって分かるもの。私を不安にさせようと、お見通し風を装った発言とも考えられる。
いろんな可能性が考えられる。
もしか、本当に私の予定を知っていたのかも・・・?
今日、河原崎と会うことは誰にも言ってない。そこから予定より早く帰ったのは事実だもの。
河原崎に相手にされて無いことを知った傷心から私が席を立ったのは、偶発的な出来事。
スマホの位置情報は必要外ではオフにしてる。プライバシーにはなるべく用心してる私は交通もICカード派なの。
まさか・・・私の部屋を盗聴盗撮なんてこと? 実際リアルにそんなことが私に起きるなんて想像することも無かったけど、可能性が無きにしもだ。怖い。
背筋が冷えて行く。今も私を見たり聞いたりしてるかもなんて・・・
不気味だわ。私、あんな人と付き合っていたなんて信じられない (>_<")
最高に気持ち悪かった。アイツの吐いた言葉全てが。
思い出したら胸くそ悪くて、マグマがグツグツ煮えたぎる思いだ。
《僕たちは終わってないよ。あの猫さえいなければ俺たちはまた元通りだから。美咲は必ず僕に戻って来るってわかってる》
んなことあるわけない。なんて傲慢で自己中な男なの? 三葉さえいなければなんて。
ん!? 待って!! 私の留守を狙ってここに来たってことは???
────まさか・・・目的は三葉・・・?
三葉に対して縁起でもないこと言ったよね?
バッグからガサゴソと部屋のカギを取り出して握りしめた。1秒でも早くあの子に会いたい。
7階建てワンフロア4室の賃貸マンション。私の部屋は最上階隅っこ704号室。
普段よりジレジレとエレベーターが7階に到着し、ドアが開いた途端に飛び出る。
河原崎も私に続く。
アイツに合鍵は渡してはいないけど、密かに作られる隙はあった。マンションのエントランスだって、出入りの他の人に続けばタイミングで入れる。
三葉ちゃん、大丈夫よね? 今日もいつも通り私の帰りを待っててくれるよね?
焦り過ぎて鍵穴にキーが入らない。手が大きく震えて。
「大丈夫? 俺がやるよ」
見かねて河原崎が開けてくれた。カギの音がすれば三葉は玄関で出迎えてくれるはず。
「じゃ、気を付けて。これ、いいから。俺はここで」
私がテーブルに置いて来た5000円札とカギを一緒に私の手に返し、口元だけで微笑んだ。
「あ・・・今日は本当にごめんなさい。改めて連絡すること許してくれる?」
「当たり前じゃん。俺たち友だちだろ?」
私、河原崎の優しさに甘え過ぎてたみたい。こんな女、河原崎の眼中に入らなくて当然だ。
「そう言ってくれて救われたわ。今日はありがとう。じゃあまたね」
このドアを開けたらそこにいると念じながら、ドアを引っ張る。
「三葉ちゃん! 帰ったよ〜」
────いない・・・
心臓にズキンと一度だけ強い痛みが走った。
「・・・三葉ちゃん?」
振り払うように足を振ってパンプスを脱ぎ捨て、部屋に上がる。
「三葉ちゃん? どこにいるのー・・・?」
リビングをぱぱっと見渡しながら、心臓がバクバク始まって身体がフワフワして、変な感覚になった。
そうよ、キッチンかも? 床にカリカリご飯とお水が置いてあるから。
「三葉ちゃん? 出ておいで」
あ、気配がする! よかったぁ・・・ごはん中だっただけね。
はぁ~ (;・∀・) めちゃくちゃホッとしたぁ〜・・・
疑心暗鬼になって考え過ぎてたみたい。
私が帰ったのに見向きもしないで夢中でご飯食べてる。こんなことは初めてね。
どこから? キッチンに濃く漂うお菓子の甘い香り・・・
────どこから?
「三葉ちゃん、ちょっとごめんね。ごはん見ーせて!」
「にゃっ!!」
エサを取り上げられ私の足にネコパンチ。うふふ、こんなしぐさも愛らしい。
「エッ、エッ・・・な、なんで?・・・キャァァーーー!!」
☆☆☆
今さっき降りたばっかりなのに。行っちゃってたのか。
タイミング悪く、1台しかないエレベーターは下り中になっていた。戻って来るまで、はめ殺しの窓からガラス越しに、通りを行く人たちをなにげ眺めてる。
河合がまたもやストーカー被害とはな。
────あれ? 俺は偶然にもまた河合を守ったってこと?
河合の猫が不自然な眠りに落ちたことが俺たちの再会のきっかけとなった。その猫が見てた夢にはミツハシさんらしき猫、そのバックには河合のおばあちゃんがいるはずで・・・・
なんとなく仕組まれた感はあったけれど、河合のおばあちゃんの目的は、中1の約束を果たさせるためではなくてこっちだったってことだよな?
今回の謎が解けてきたぞ。
あれ? 向かいマンションのエントランスの日陰に立っているの、篠崎って男に似てる? けど、遠目だし気の所為だろう。いちおう下に降りた時に確認しよう。
ようやくエレベーターが戻って来た。開いた扉の中は無人。乗り込もうとした時だった。
「キャァァーーー!!」
くぐもった女性の悲鳴が聞こえた。
河合の声だ!!




