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思春期未来志向  作者: メイズ
応報の少年編
3/39

猫語にて、猫と会話

 

『・・・動きまどろっこしき人間よ。苛つくではないか。(それがし)に用があるならさっさと参れ』



 *



 人生初、猫に話しかけられ体験!!


 聞こえたのはニャーニャー言ってる猫の声だけど、俺には難なく猫語を理解。


 思いがけぬ向こうからの声かけに動揺し、首をカクカクさせながら左に回すと、三毛猫とバチッと目が合った!



『そなたのことである』


『・・・あ、すんませんっ』


 わわわ (>_<") 猫に怒られた?!


 親しみ湧く愛らしい三毛猫の姿とは裏腹に、高飛車な口調。


 実際に猫と話すのに、こんなに緊張するとは思ってもみなかった。


 あんなに探し求めていた猫が目の前だってのに、次の言葉が出て来ない。



 数秒見つめ合った後、三毛猫が斜め上を向いてフッと呆れたように鼻を鳴らしてから、スマートな足取りで俺に向かって歩き出した。


 三毛猫は途中、片脚を前にピタッと歩を止めた。


『そなたは(それがし)に用があるのだろう?』


 真っ直ぐ上を向いてるシッポの先がゆらゆら揺れている。


『たっ、助けて下さいッ! 俺、朝起きたら猫語しか話せなくなっていて、どうしたらいいのか分かんなくて』


『・・・そなた、落ち着け』



 三毛猫は俺の目の前まで来て、白い前脚を揃えてファ~っと大きな伸びと欠伸をしてから姿勢を正し、再び置き物のように姿勢良く座った。


 近くで見ると更に美猫だ。ツヤのいい毛並み。ぴんと立った耳、お月様みたいな色の目。首には俺が拾ったのと同じようなレトロな鈴がついてる。


 ならどこかの家の飼い猫だな。



 あ? もしかして、馴染みのあるこの鈴の音に引かれて出て来たのか?


 あれ? 手に持ってたはずなのに、さっき拾った鈴が無い。探っても短パンのポケットにも無いし。



『先ずは名乗るがよい』


 鈴を求めて足元の地面に目線を這わせてたら、猫に急かされた。鈴なんてもういいや。


『おっ、俺は河原崎沙衣(さい)です』


『そなたは沙衣とな。某はミツハシだ』


 うん? 三橋さんちの猫さんってっことかな? 


『ミツハシさん! 俺、なんでだか分かんないけど、猫語しか話せなくなっちゃったんだ!』


『ほお?・・・で?』


『猫語とバイリンガルだったらバンザイだったけど、人間の言葉が話せなくなった。すっごく混乱してる。助けて下さい! 元に戻せる方法を知りませんか?』


 ミツハシさんは、俺を見上げてる首をクイッと傾げた。奇妙なものを見るような視線を俺に投げかけて。



『???・・・別にいいではないか。人間の言葉が話せなくとも、猫語が話せるのだから。これからは猫と話せばいいだけである』


『そっ、そういうわけには行かないんだ! こんなんじゃ学校にも行けないし、家族とも話せないよ』


『ふうん? それを嘆くのはおかしいではないか。人間の言葉を捨てたのはそなた自身なのだろう? 本人が望んでいないのに今まで使っていた言葉を失うことはないのだ』


『ええっ?! 俺はそんなこと望んでないよ!』


『・・・うーん。人間とはなんと愚かしいのだ・・・。自身の意思と行動は、全て(おのれ)が支配しているはず。自身が深層で望むことを無意識にしているに過ぎないのである。心当たりがあるのではないか?』



 ────心当たり?



 ・・・そういえば。学校で女子にからかわれてムカついて。こいつらとなんか話すもんかって思った。イラついた俺は、家に帰っても不機嫌丸出しで一言も喋らず、俺を気遣う妹すらシカトした。話す気分じゃなくって。


 けど、たったそれだけのことでなんで? 誰とも話したく無くなることなんて、誰にだってない? なんで俺だけに?



『・・・ミツハシさん、なんとか元に戻す方法は無いの? 俺には心当たりはないことも無いけど、今までの言葉を失うほどのこととは思えない。それに猫語にとって変わるのもおかしくない?』



 景色が滲んで来た。こんなの納得できるわけない。ミツハシさんはこの現象全ては俺自身のせいだっていうの?


 俺にだけこんな特別、要らないってば・・・


 ミツハシさんと向い合せの地面に座り込んで、膝を抱えて丸くなって顔を沈めた。


 涙が、ポツッと地面に小さな黒い染みを作った。




『まあな。沙衣殿の不運もある』


 ────どういうこと? この三毛猫は、AIが知らないことも知ってるみたい。


『・・・ミツハシさん、教えてくれませんか? 不運でってどういうこと?』


 抱えた膝小僧から少しだけ顔を上げて、ミツハシさんを間近正面からチラッと見た。本当に猫と猫語で喋ってる自分に自分で今さらおののく。



『これは推測だが、そなたが本来の言葉を失い、同時に猫語を得たのは、言わば不運な事故だと思われる。事故とは、誰にでも訪れる可能性があるものだ。心が不安定になっている時は、とかく事故を引き寄せ易いもの。もののけが残した、普段なら益体もない脆弱な思念にさえ入りこまれてしまうこともあるわけで』


『俺の心の揺れと、その辺を漂う思念が偶然出会って適合して、俺が意識失くしてぐっすり寝てる間にマリアージュしたってことかよッ!?』


『適合でマリアージュというより、空いた隙間を見つけて入り込んだのだ。空き家を見つけた猫が、そこに住み着くように。ある意味、沙衣殿の言葉が無にならなかっただけ幸運とも言えるのではないか? しかも得たのは高貴な猫語である』


『・・・ねえ、助けてくれよ。解決策を教えてくれ! 俺、今はなんも持っていないけど、のちほどお礼はする』


『・・・礼か? 某が沙衣殿の願いを叶えたら、次は某の願いを沙衣殿が叶えてくれるとな?』


 ミツハシさんが、にやりと嗤った?



 な、なに、この意味深なシタリ顔。


 俺、なんかまずいこと言った? Σ(・∀・;)



『ならば沙衣殿の問題が解決した暁には・・・』


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眠りにつく前に
魔女狩りに遭う運命を察知した少女の運命は・・・
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