乙女心デジャビュ
ポツンと一人残された診察室で、私は困惑に包まれてる。
やはり河原崎は猫語を理解し、喋れるのよ。
これは決定的だよ!
《へぇ・・・広いお屋敷で三毛猫と、可愛い人間の女の子と・・・》
三葉ちゃんとニャーニャー言い合いながら、河原崎は確かにそう呟いた。
河原崎はただニャーニャー言って猫と戯れていたわけではないよ。ちゃんと三葉と会話してたんだ!
広いお屋敷・三毛猫・可愛い女の子。
これらは世界でたった一人、私だけが理解するキーワードのセット。
────私が12の夏に見た不思議な夢。
広いお屋敷は田舎のおばあちゃんのお家。
三毛猫はおばあちゃんの飼っていた猫のミツハシ。
可愛い女の子は子ども時代のおばあちゃん。
そう考えればぴったりだ。
そして眠ったままの猫。
きっと三葉もあのリアルで不思議な夢の中に入っていたんだ!! そしてミツハシ猫とおばあちゃんと遊んでたんだわ!!
河原崎はきっと三葉からそのこと聞いたんだ!
(。ŏ﹏ŏ) 私のドッキンドッキン鼓動がグッと強くなって、胸が痛い・・・
ただでさえ今夜は心に負荷がかかっていたの。
三葉が心配で心配で焦って病院探し。
真夜中に初めての道のりを運転してここまで。
初めて来たこの動物病院の受付嬢にはツンケンした対応された。
足元から頭のてっぺんまでジロジロ見られて。
飼い猫が起きないだけで夜間に来るなんて迷惑な飼い主だって思われてるからだろうと思ってたけれど・・・
診察中、覗いて来た彼女。
あんなオーラ出してたからすぐに気づいた。あの人、河原崎にどうも気があるの。
私が河原崎と親しげだったから見に来たんだと思う。
「河原崎先生・・・お手伝い要りますか?」
「あ、いや。何でもないから1人で大丈夫です」
「でも・・・」
河原崎の口調と表情からして、私の見立てではこの人は河原崎の彼女ではないと見た。しかも河原崎は何も気づいてない鈍感。
健気を纏い、河原崎へ送る西田さんの物憂げな視線。
そして私へチラッ、チラッと刹那向ける敵意の視線を私が見逃すわけない。
そう言うの私、カチンと来るのよね。私はただの来院猫ちゃんの飼い主なのにライバル視してるの? この人、女性の飼い主が来る度にそんな態度してるの?
河原崎は言ったの。
「西田さん、この方は私のただの昔の知り合いなので、大丈夫です」
私はすかさず西田さんとやらにマウント。
「ちょーっと待った! ただの昔の知り合いってナニッ!? 私たちそういう簡単な仲じゃないでしょ?」
これはウソじゃないもん。ホントだもん。河原崎は私の同窓生だし、なんたって命の恩人だしね。
西田さんはたぶん不埒な想像をしてショックを受けた様子だったから、ちょっと溜飲が下がってスッキリ。
私、急にちょっと性格悪くなった。
ん? (´・ω・`)
河原崎の前で、この感覚・・・前にもあったような?
えっと、えっと・・・背が高くて・・・大人しそうに見えて実は積極的な女の子。
私が河原崎と喋ってると、シャラって横から割り込んで来てた子・・・
そう、中学で同じクラスだった天文学部の吉川さんだ!
河原崎に天体観測の誘いを断られたのを知った時、心の中でザマァって思った。
・・・私、嫉妬してた?
エッ、エッ?! まさかまさか。
そんなことないし。考え込んでしまうじゃない・・・
「お待たせ。さあ、食べていいよ。三葉ちゃん。ずっと寝てたのならお腹減ってるよな」
河原崎が戻って来て、お皿に乗せたキャットフードを診察台の三葉の前に水も添えて置いた。
三葉は即座に食いついた。だって寝ていて丸一日何も食べて無かったんだもの。
愛おしそうに三葉を見てる河原崎の横顔。
うふふ、そうよね? 猫って最高にかわいいの。
私は二月前、同じ年の彼氏と三葉のことでケンカして破局した。たった半年で終わったの。彼が私と結婚したいと願っていたのは気づいてた。だからこそのこの発言。
『美咲は、僕と猫とどっちが大切なんだよ? どうして僕より猫を優先するんだ? 美咲は猫なんか飼うべきじゃない。何で僕に相談もなく急に飼い始めたんだよ? 保護猫なんだろ? 価値だって無いんだし、保護元へ返したら?』
私はアイツと出会うずーっとずーっと前からずーっと猫を飼いたくて、最近やっと一人暮らしでもペットを飼える自信も持てて、やっと運命の子はこの子だって思う猫と出会えたのに、あなたより三葉ちゃんの方が優先に決まってるの。
いくらイケメンで将来性ある人でも、三葉を受け入れてくれない人とは付き合えないわ。命への考え方も相容れない。第一、人間がこんなに愛らしい猫と競って勝てると思う方がおかしいのよ。猫に嫉妬する人なんて要らない。
「にゃぁん!」
あら? 三葉ちゃんはお腹も満たされてご機嫌に戻ったようね。すり寄って来た三葉を抱っこした。
「今夜は河原崎に診て貰えてラッキーだったわ」
────河原崎、ホントに猫語がわかるんだ。
「お大事に。この食いっぷりならもう心配もないだろ。けど、様子はちゃんと観察しててくれ」
「はい、わかりました。河原崎先生」
────私、河原崎をすごく尊敬してる。
「あれれ? 河合、随分殊勝じゃん?」
「それはそうよ。大事なこの子を診て頂いたんだもの。ありがとうございました」
私は感謝を込めてお辞儀をした。
「・・・・どういたしまして」
「ねえ、明日の日曜日のお昼はあいてる? 今すぐ河原崎に聞きたいことは多々あるけれど仕事中だし、それまで取っておくわ。一緒にランチしながら話そうよ」
「わかった、約束だもんな・・・けど察しはついてるだろ?」
まあね。けど、他にも謎は残ってるの。
私と会うことに気乗りしてなさそうな口調。
「・・・迷惑? もしかして何か支障があるの? もう結婚してるとか、彼女に怒られてしまうとかだったら申し訳なく思うけど、これは私の方がずーっと昔に約束したことだから許して貰ってよ」
「全然そんなんじゃないって。そんな人いないし。河合こそ大丈夫なのかよ? 後から男にクレーム電話寄越されたりしてw そこの獣医は買い主をナンパしてるとかって」
「フフッ、まさか。残念ながら私にもそんな人いないよ。じゃ、日曜日にね。場所は後から連絡するね」
「うん、待ってる。気をつけて帰れよ」
私は受け付けの西田さんに来院時よりさらに割り増しツンケンされて、割り増し夜間診察料金をお支払いし、河原崎のいる動物病院を後にした丑三つ時。
三葉ちゃんはケージに入って助手席。帰りは、車内で流してる音楽に合わせ、ニャーニャー歌って元気一杯!
運転しながら私の気分もなぜか上がってる。
ほんと、変な夜!
思いの外なかなか終われませんが、あと数話で終わるはず φ(・ω・ )




