思惑とハンバーガー
もう夏休みも残り少なくなった頃、河原崎から連絡があった。
ようやくギプスが取れたって。やっと足を洗えたことに至上の喜びを感じてるらしいよ。
私も嬉しい。
河原崎の怪我は犯人のせいで私のせいではないと思うけど、因果関係的にはホント申し訳なく思ってたから。
他の友だちにも声をかけてお祝いしてあげようと思ったけど、私は是非とも河原崎と二人きりで会いたい。これはチャンスだ。私の目的を果たすための────
*
夏休みの残りが、あとたったの3日となった木曜日。
今日は約束の日。
ちょっといつもとは違った気持ちで朝を迎えた。
私、緊張してる?
事件後の思い切ったショートヘアから少し伸びてきた髪を梳かし、ヘアアイロンでストレートに丹念に伸ばす。
キラキララインストーンがついてるかわいいピンでサイドを止める。
薄い色がついたリップを塗って、ヨシ、完成。
服はお気にの白色のワンピース。裾の広がり方がかわいくて好き。
ちょっと笑顔の練習。
ニコッ・・・
ニコッ・・・
ニコッ・・・
ん??? 私はなぜこんなことを? 河原崎と会うだけなのに。
私は鏡の中の私と目を合わせ問答。
美咲、変なテンションだね。なんで?
さあ?
河原崎とみけかわの謎を暴く目的があるからじゃない?
うん、そうだね。
さて。今日は聞き出してみせる。みけかわ、もといミツハシ猫と河原崎の関係を。
*
私たちの待ち合わせ場所はもちろん緑道のあのベンチだけれど、今朝は雨だった。どうやら降ったり止んだりで1日雨みたい。
仕方がないから急きょ場所変更。10時に駅前のファストフードになった。
*
少し早めに着いた。
店の2階席の一面ガラス張りの壁に沿ったカウンター席から、駅前の人の流れをぼーっと眺めてたら、後ろから肩を叩かれた。
「河合、久しぶりじゃん! 元気だった?」
「わ、びっくりしたぁ・・・久しぶり」
河原崎が時間通りに来た。
ほんの一ヶ月ちょっと見ない間に、急に外見が中学生っぽくなったみたい。小学生みたいな無邪気なあの笑顔が今日はちょっと何かが違ってて、男の子みを感じる。
「私は相変わらずだよ。河原崎が普通に歩けるようになって良かった。ほら横に座って」
隣のカウンター席に腰掛けながら、河原崎は視線を私の上から下までささっと滑らせた。
「私服だと最初マジ誰だかわかんなくてスルーしてたんだよな・・・」
「そう?」
「女の子って制服脱ぐと変わるよな・・・河合、今日はオシャレじゃん」
それって褒めてるの? それともいつもと違って違和感なの?
「そうでもないよ。これは普通だよ? 今日はさ、河原崎のお祝いだから私にゴチさせて。何がいい? 私が下で買って来るから」
「いいよ、自分で払うって。だって俺は河合に貸しなんてないし」
「だって私を助けてくれたじゃん」
「そんなこと俺にとってはとっくに相殺されてんだって」
「どういうこと?」
「まあ、それはまあ・・・。あー、俺、急に腹減って来た。ほら、一緒に買いに行こうぜ」
河原崎は私に気を使ってるの?
無理やり奢るのも変だし、河原崎に従うことにした。
*
ハンバーガーのセットを並んで食べてる河原崎と私。
お行儀が悪いけど、私は左ひじで頬杖をつき。右手でハンバーガーを持ちながら、隣の河原崎の横顔をじーっと見てる。
河原崎がクッと首を回横にして、眉間にムムッと力を込めた顔で私の顔を見た。
視線がガツンとぶつかった。
「・・・おい、そんなにジッと見てられると非常に食いにくいんだけど?」
「ごめーん。だって、夏休み前の河原崎と今日の河原崎がどこか違って見えて、どこが変わったんだろうって」
河原崎がオコだからって、私はこの姿勢を変えはしない。合った目線も外さない。
「俺が?」
「うん」
あれ、照れてる? 視線をサッと外された。
「・・・えっと、髪が伸びたせいじゃね? なあ、えっと・・・そうだよ! ミツハシさんの埋葬はどうだったんだよ? 河合、終わったら俺に連絡くれるって言ってなかったっけー?」
ちょっと文句ありげな口調の河原崎。
「アッ、ごめん。忘れてた。無事におばあちゃんちの生き物専用のお墓に納めたよ。写真見る? 待っててね。すぐに出すから。神聖な空気に包まれてるって感じの場所だったよ」
本当は忘れてた訳じゃない。今日話すために取っておいたんだ。
一番よく撮れてる写真を選んでから、河原崎にスマホを差し出した。
「・・・ありがとな。ここは林の中? きっと自然の神様ってこういうとこにひっそりいるんだろうな・・・なんか安心した。けどさ、生きもの用の墓が建ってるなんてすげー家だな。ザ・金持ちって感じ」
「だたの大きな農家だよ。私もこのお墓は今回始めて見たんだ。母屋の近くだけれど林で隠れた裏側で、私が立ち入ったことがない場所だったんだ」
「へぇ。河合のおばあちゃんちってすごくい広大な敷地なんだな。想像がつかないけど」
今日の目的は河原崎の全快祝いだけじゃない。
「まあね。その生きもの専用墓石にはね、過去代々三橋家で飼われた生きものの歴史が刻まれていたんだ。すごい昔からあるみたいだった」
いい感じに話が向かったね。
「・・・えっ? ・・・三橋家って?」
河原崎の困惑顔。ワード「三橋家」に反応アリ!
「うん、おばあちゃんち三橋さんなんだ。私のママの旧姓だよ。でもって私も今回知ったんだけど、おばあちゃんは三橋ミツハシって名前の猫を飼っていたんだよ。墓石にそう刻まれてたんだ」
─────さあ、河原崎は私になんて答えるの?




