表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第2章: 新しい現在の痛み

忘れられない痛み。

身体の異変と共に、過去の出来事が影を落とし始める。

変化したのは世界か、自分自身か——それすら曖昧な中で、主人公は生き抜く術を探し続ける。

仲間とのやり取り、朽ちた街の命令、そして日々繰り返される異常な“儀式”。

静かに進行する歪みの中で、確かなものはただ一つ:

「変わってしまった」という確信。


生き延びるための行動が、かつての“自分”を遠ざけていく。

それでも、進まねばならない。

理由はもう、問いかける必要すらないからだ——。

 《《第四章:頭痛》》


 頭が、まだ時々痛む。


 あの日から……


 爆発の後、何が起こったのか思い出せない。


 でも、常に警戒している。


 決して油断しない。


 一瞬の隙が、命取りになる。


 あの爆発以来、何かが俺を変えた。


 何かが……体内に入り込んだ。


 ウイルスだ。


 ただのウイルスならよかったのに。


 それ以来、俺の体は異常な変化を遂げた。


 今の俺は、別の存在。


 新たな何か。


 ……病んだ何か。


 幸い、俺は病気が好きなタイプだ。


「エゴウ、今日は港で食料を集めてきてもらうぞ。」


 あの老人の声。


 俺をゴミのように捨てられていたところから拾ってくれた人。


 彼の顔は決して見えない。


 何百ものボロボロの革の布が、全身を覆っている。


 唯一見えるのは、重力を無視したように逆立った髪だけ。


「チッ……禁肉市場に行くのが怖いのか?」


 皮肉な笑みを浮かべて言った。


 今や、過酷な生活も俺にとっては冗談のネタだ。


「ここ『墓場』の住人は、皆協力しなければならない。」


「わかってる……」


 本当は、他人を助けるのが嫌いだ。


 でも、カイムの言うことは正しい。


 結局、俺は彼に命を救われた。


「収集は何時だ?」


「19時30分だ。30分以内に到着しろ。ホステを持って行け。


 探索部隊には気をつけろ……最近、周辺をうろついている。」


「よく知ってるさ。もしかしたら、妹に出くわすかもな?それならちょうどいい。俺が彼女よりも優れていることを見せてやる。」


「目標達成を祈ってる、エゴウ。できるだけ早く戻ってこい……最近、皆腹を空かせている。」


 でも、それは……


 今に始まったことじゃない。


 彼は離れ、朽ちた木の扉の向こうに消えた。


 木材がきしむ音……古く、壊れ、疲れ果てた音——まるで何世紀も存在しているかのよう。


 まるで助けを求める叫びのように。


 出発する前に……俺はため息をついた。


 日課の儀式。


 自動的な動作。


 日常の第一段階。


 壁に掛けられたひび割れた鏡に近づく。


 曇っていて、悲しく、命のないこの部屋のよう。


 自分の姿を見つめる。


 人々は、俺の目が野性的だと言う。


 視線が鋭く……暗いと。


 まあ、他人の言うことなんて気にしたことはない。


 指で髪をかき上げる。


 軽く乱す。


 ただの反射的な動作。


 最近、気づいたことがある……


 黒い髪の束が伸びてきている。


 白髪を少しずつ侵食している。


 考える。


 あの爆発が、俺をこうしたのか?


 それとも、元々俺はこうだったのか?


 もしかして……これが本当の俺なのか。


 まあ、どうでもいい。


 今は虚栄心を満たす時じゃない。


 長いシャツを脱ぐ。


 乾いた、正確な動作で。


 チェックの時間だ。


 二日に一度、何かが腐り始めていないか確認しなければならない。


 そう、文字通り。


 腕を見る。


 もう……人間のものではない。


 暗く脈打つ血管が、汚染された血を流している。


 でも、最悪なのは肩だ。


 余分な皮膚の層。


 青白く、不気味。


 グロテスクな蔓に覆われている。


 毒の袋のように見える。


 説明?それは後回し。


 それでも……体は引き締まっている。


 割れているほどに。


 少し奇妙だが……機能的だ。


「美しく輝いてる?確認完了。」


 さて、面倒な部分だ。


 唾を飲み込む。


 机の上の注射器を見る。


「大丈夫……もう慣れてる。平気だ……」


 完全な嘘。


 でも、時には自分に嘘をつくことも必要だ。


 限界を押し広げる助けになる。


 人間の脳は、すべてに鍵をかけたがる。


 でも、常にその鍵を壊す方法がある。


 だから、俺は嘘をつく。


 …


 始める時間だ。


 右腕を伸ばす。


 いつもここから始める。


 最初の注射器を手に取る。


 手首に近づけると、感じる。


 磁力のようなもの。


 小さな開口部が現れる。


 もう血も出ない。


 痛みは……?


 ほとんど懐かしい。


「よし……行くぞ。」


 針を刺す。


 一瞬で、腕が注射器を吸い込む。


 肩の皮膚が広がる。


 腕を通って、赤い線が走る。


 迷路のように。

「頭痛」というこの章は、外的な出来事よりも、むしろ内側の崩壊と再構築を描いたものです。

主人公が抱える“痛み”は、単なる症状ではなく、記憶と存在の揺らぎ、そして「変異」という名の再定義を象徴しています。


爆発の記憶が断片的であること。

身体が自分のものでなくなっていく感覚。

誰にも見えない、見せられない場所で行われる“日課”の儀式。

それらすべてが、彼の孤独と、人間であろうとする執念を浮かび上がらせます。


読者の中には、「なぜ彼はそこまで冷静で、同時に皮肉を忘れないのか」と感じた方もいるかもしれません。

その答えは、絶望の中で唯一守れる“自我”が、ユーモアという最後の防衛線だからです。

そうしなければ、完全に“何か別のもの”に呑まれてしまうから。


次章では、この変化が何をもたらすのか、そしてそれが周囲の人々との関係にどう影響を与えるのかが、より明確に現れていくでしょう。

人は、壊れるときにこそ、もっとも人間らしくなる。

そう信じて、この章を締めくくります。


——また次の頁で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ