第2章: 新しい現在の痛み
忘れられない痛み。
身体の異変と共に、過去の出来事が影を落とし始める。
変化したのは世界か、自分自身か——それすら曖昧な中で、主人公は生き抜く術を探し続ける。
仲間とのやり取り、朽ちた街の命令、そして日々繰り返される異常な“儀式”。
静かに進行する歪みの中で、確かなものはただ一つ:
「変わってしまった」という確信。
生き延びるための行動が、かつての“自分”を遠ざけていく。
それでも、進まねばならない。
理由はもう、問いかける必要すらないからだ——。
《《第四章:頭痛》》
頭が、まだ時々痛む。
あの日から……
爆発の後、何が起こったのか思い出せない。
でも、常に警戒している。
決して油断しない。
一瞬の隙が、命取りになる。
あの爆発以来、何かが俺を変えた。
何かが……体内に入り込んだ。
ウイルスだ。
ただのウイルスならよかったのに。
それ以来、俺の体は異常な変化を遂げた。
今の俺は、別の存在。
新たな何か。
……病んだ何か。
幸い、俺は病気が好きなタイプだ。
「エゴウ、今日は港で食料を集めてきてもらうぞ。」
あの老人の声。
俺をゴミのように捨てられていたところから拾ってくれた人。
彼の顔は決して見えない。
何百ものボロボロの革の布が、全身を覆っている。
唯一見えるのは、重力を無視したように逆立った髪だけ。
「チッ……禁肉市場に行くのが怖いのか?」
皮肉な笑みを浮かべて言った。
今や、過酷な生活も俺にとっては冗談のネタだ。
「ここ『墓場』の住人は、皆協力しなければならない。」
「わかってる……」
本当は、他人を助けるのが嫌いだ。
でも、カイムの言うことは正しい。
結局、俺は彼に命を救われた。
「収集は何時だ?」
「19時30分だ。30分以内に到着しろ。ホステを持って行け。
探索部隊には気をつけろ……最近、周辺をうろついている。」
「よく知ってるさ。もしかしたら、妹に出くわすかもな?それならちょうどいい。俺が彼女よりも優れていることを見せてやる。」
「目標達成を祈ってる、エゴウ。できるだけ早く戻ってこい……最近、皆腹を空かせている。」
でも、それは……
今に始まったことじゃない。
彼は離れ、朽ちた木の扉の向こうに消えた。
木材がきしむ音……古く、壊れ、疲れ果てた音——まるで何世紀も存在しているかのよう。
まるで助けを求める叫びのように。
出発する前に……俺はため息をついた。
日課の儀式。
自動的な動作。
日常の第一段階。
壁に掛けられたひび割れた鏡に近づく。
曇っていて、悲しく、命のないこの部屋のよう。
自分の姿を見つめる。
人々は、俺の目が野性的だと言う。
視線が鋭く……暗いと。
まあ、他人の言うことなんて気にしたことはない。
指で髪をかき上げる。
軽く乱す。
ただの反射的な動作。
最近、気づいたことがある……
黒い髪の束が伸びてきている。
白髪を少しずつ侵食している。
考える。
あの爆発が、俺をこうしたのか?
それとも、元々俺はこうだったのか?
もしかして……これが本当の俺なのか。
まあ、どうでもいい。
今は虚栄心を満たす時じゃない。
長いシャツを脱ぐ。
乾いた、正確な動作で。
チェックの時間だ。
二日に一度、何かが腐り始めていないか確認しなければならない。
そう、文字通り。
腕を見る。
もう……人間のものではない。
暗く脈打つ血管が、汚染された血を流している。
でも、最悪なのは肩だ。
余分な皮膚の層。
青白く、不気味。
グロテスクな蔓に覆われている。
毒の袋のように見える。
説明?それは後回し。
それでも……体は引き締まっている。
割れているほどに。
少し奇妙だが……機能的だ。
「美しく輝いてる?確認完了。」
さて、面倒な部分だ。
唾を飲み込む。
机の上の注射器を見る。
「大丈夫……もう慣れてる。平気だ……」
完全な嘘。
でも、時には自分に嘘をつくことも必要だ。
限界を押し広げる助けになる。
人間の脳は、すべてに鍵をかけたがる。
でも、常にその鍵を壊す方法がある。
だから、俺は嘘をつく。
…
始める時間だ。
右腕を伸ばす。
いつもここから始める。
最初の注射器を手に取る。
手首に近づけると、感じる。
磁力のようなもの。
小さな開口部が現れる。
もう血も出ない。
痛みは……?
ほとんど懐かしい。
「よし……行くぞ。」
針を刺す。
一瞬で、腕が注射器を吸い込む。
肩の皮膚が広がる。
腕を通って、赤い線が走る。
迷路のように。
「頭痛」というこの章は、外的な出来事よりも、むしろ内側の崩壊と再構築を描いたものです。
主人公が抱える“痛み”は、単なる症状ではなく、記憶と存在の揺らぎ、そして「変異」という名の再定義を象徴しています。
爆発の記憶が断片的であること。
身体が自分のものでなくなっていく感覚。
誰にも見えない、見せられない場所で行われる“日課”の儀式。
それらすべてが、彼の孤独と、人間であろうとする執念を浮かび上がらせます。
読者の中には、「なぜ彼はそこまで冷静で、同時に皮肉を忘れないのか」と感じた方もいるかもしれません。
その答えは、絶望の中で唯一守れる“自我”が、ユーモアという最後の防衛線だからです。
そうしなければ、完全に“何か別のもの”に呑まれてしまうから。
次章では、この変化が何をもたらすのか、そしてそれが周囲の人々との関係にどう影響を与えるのかが、より明確に現れていくでしょう。
人は、壊れるときにこそ、もっとも人間らしくなる。
そう信じて、この章を締めくくります。
——また次の頁で。