⒌初陣
「おっせーな、エイト……誰それ?」
ギルド内に設置されたポータルゲートの前で、腕を組んで待っていたのは__ツキ。
長身に黒銀の軽鎧を着こなし、片手に巨大な斧を構えた、いかにも脳筋前衛タイプ。
「ツキ、遅れて悪い。こっちは……初心者のB…じゃなくて『イナホ』。今日始めたばっからしいからクエストに丁度いいだろ」
「ふーん……で、なんでエイトが初心者連れてんの?教えるタイプに見えないけど」
その問いに、エイトは少しだけ口ごもった。
「……ちょっと、厄介に絡まれてて。放っとけなかっただけだよ」
「へえ〜?」
ツキが軽く斧を担ぎ直して、ナホ(Bはバレているのでイナホに改名した)をじろっと見た。
イナホのアバターは、赤髪で双剣を背負った女剣士。
派手で見た目だけは一丁前に強そうだが、姿勢は少し緊張していた。
「……ま、いっか。予定のダンジョンはいつでもいいし。できないと思ってたクエできてラッキー!」
「……ありがとうございます…えっと、よろしくお願いします!」
「ん、よろしく。名前なんて言うの?」
「……イナホ、って呼ばれてます(さっきエイトさんが言わなかったっけ…)」
「イナホか、よろしくな!俺が先導するからついてきな!」
(やっぱりこの人、雰囲気的に女の人かと思ったけど、めちゃくちゃ男前だな……)
ナホがそう思うのも無理はない。
・
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ダンジョンは「迷いの石林」。
視界が悪く、パズルのような構造のフロアが続く。
「エイト。右奥、影のやつ隠れてる」
「了解。……ツキ、イナホ、距離取って。処理する」
「よし、イナホも下がって―」
エイトの探知魔法が敵の位置を浮かび上がらせ、同時に発動させた氷魔法で串刺しにする。
お得意の合わせ技だ。
「双剣タイプなら、このタイミングで後ろ取って。いける?」
「はい、やってみます!」
──ザシュッ
初撃。連撃。撃破。
「おおっ……倒せた……!」
「ナイス、イナホ!エイトより飲み込み早いかもな〜!」
「うるさいな」
エイトは照れ隠しのようにそっぽを向く。
(……あー、なんか今日のエイト、ちょっと変。レイナに対して、珍しく言葉多くないか?初心者保護ってタイプじゃないし……)
(……なーんか、嫌な予感するな)
ツキが内心訝しんでいるのを2人は知らない。