⒉20代配信業女性の場合
〈みんなこんたむ〜!今日もびぃたむの配信、はっじまっるよ〜!〉
▫︎こんたむ〜
▫︎こんたむ〜
▫︎¥1000 びぃたむ今日もかわいい
〈〇〇さんスパチャありがとう!今日も可愛いなんて嬉しいな♡〉
〈そんでねぇ、今日の配信は雑談なんだけど…〉
私は『びぃたむ』という名前で配信者をしている。
もちろん顔出しはしていない。いわゆるVtuberというやつだ。
わたしのアバター『びぃたむ』は、ピンク髪のツーサイドアップにどでかいリボンをつけている。完っ全に二次元だね。なお実際の私はボブカットの茶髪。
そして極めつけはオッドアイに、自分じゃ絶対着ないようなフリフリのミニワンピ。
イラストレーターの友人に「配信がしたい」と言ったところ、たった1日でこのイラストが送られてきた。
そればかりか、アバターのモデリングが済まされているだけでなく、Vtuberとして配信するための機材やハウツーも教えてくれたのだ。それもタダで。
いい友人を持ったものだ。相場なら一体いくら払えばいいのやら…
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最初は、こんないかにもぶりぶりした見た目の配信に人が来るのか疑問だったけど、その心配はすぐに消えた。待機上には100人もの人がいたのだ。
こんなにたくさんの人、リスナーにできたら一気に伸びるだろう。
私が配信者になったのは、たくさんの人にチヤホヤされるためだ。
__人気になりたい。注目されたい。
現実では、顔が良くなければ何かに秀でていなければ、ただのモブで終わる。
でも、バーチャルの世界なら違う。誰もが好きな姿になれる。チヤホヤルートのスタートラインに立てる。
そのためには、初配信を失敗させるわけにはいかない。
運命の時。
〈みんな〜こんたむ〜!新人Vtuberのびぃたむでーす!〉
▫︎こんちゃ
▫︎配信乙
▫︎声可愛い
▫︎うわ声媚びててキモい
…賛否両論。悪くはない。同接人数もあまり減ってない。
頑張ればどうにかなる。
〈今日デビューしたての新人です!まずはプロフィールをご覧ください、ドドン!〉
マウスをいじり、配信画面にあらかじめ考えておいたプロフィールを表示する。
〈えーっと、名前はびぃたむ。モブBとかのBからきてます!〉
〈好きな食べ物はガトーショコラ…これやっぱ違うな、キムチです。ガトーショコラも好きだけどね!〉
そう言いながら、マウスで線を引いて書き直す。
▫︎モブBってw
▫︎ガトーショコラじゃないのかよ
▫︎キムチはギャップ萌え
うん、ウケてる。
これは即興ではなくあらかじめ仕込んでおいたこと。キムチは本当に好き。
〈系統はうさぎ×下剋上!〉
〈みんなにちやほやされるために配信を始めました!私を推してくれる人募集中で〜す♡〉
▫︎正直で草
▫︎かわいい。推そうかな
▫︎ファンネーム決めてるの?
〈あっファンネーム決めてなかった!何がいいと思いますか…?〉
これも計画通り。ある程度視聴者の意見を取り込むことも大事。
▫︎びちゃみんとか
▫︎びぃたみ?
▫︎モブ
▫︎リボン
〈全部いいなぁ…うーんじゃあびちゃみんで!ファンは配信者の栄養だからね〉
びちゃみんか。なかなかいいな、気に入った。
〈びちゃみん…んふふ嬉しい〉
▫︎かわいい
▫︎かわいい
▫︎これはびちゃみん確定
▫︎同じく
▫︎それな
〈主にゲーム配信をする予定です!おすすめのゲームがあったらプイッターの投稿にリプください!〉
〈それでは、おつたむ〜〉
▫︎おつたむ〜
▫︎チャンネル登録しました!
▫︎おつたむ〜
「ふぅ」
終わった…なかなかよかったと自分では思う。
さて、結果は…
_最高同接人数:1416人、チャンネル登録者:307人
これは個人勢にしてはかなりの好成績では…!?
友達に報告すると、とても喜んでいた。
・
・
〈…あっごめんね、ちょっと初配信のこと考えてたの〉
▫︎あーキムチ
▫︎リアタイした古参です
〈うーキムチ…キムチ食べたくなってきたから早く終わらせちゃおう。私最近VRMMOの『ヴァルモ』買っちゃったんです!〉
今や私のチャンネル登録者数は20万人。
流石にこれだけで食べていくのはキツいけど、収益化も通ったし固定ファンもついた。1年ちょっとでよくここまでこれたよね。
▫︎配信終わらせる理由それでいいんかw
▫︎おーヴァルモか
▫︎VRMMOって配信できるの?
〈配信できるらしいけど、それってびちゃみんさんと出会ったらオフ会みたいになるじゃん?VRMMOの良い所で悪い所だよね〜…だからオフでプレイして動画にするつもり〉
〈事前登録はもう終わったから、早速今からキムチ食べてやってみる!それでは、おつたむ〜〉
▫︎動画楽しみ
▫︎オフ会企んでたのに…トホホ
▫︎↑通報
▫︎おつたむ〜
▫︎あれ?配信切れてなくない?
「新作ゲーム楽しみだなあ…さて、キムチキムチっと」
VRMMO本当に楽しみにしてたんだよね。3Dモデル手に入れたら大手さんみたいにVRゲーム配信とかやってもいいかも。ダンスもいいなぁ。
「やっぱびちゃみんさん達に喜んでほしいから、頑張らないとな」
そんな事をブツブツ呟きながら冷蔵庫からキムチを取り出す。
卵黄漬けとキムチと焼いた豚肉をたっぷりのご飯に乗っけて…
「うんま〜〜〜!!!!!」
何杯でも食べれる!!
▫︎やだ配信外でも俺たちのこと…(トゥンク)
▫︎めっちゃキムチ好きなんだなあ
▫︎ただのサービス回
▫︎中の人もかわいい貢ぎたい
▫︎中の人なんていねぇびぃたむはびぃたむだ
「ご馳走様でした」
お皿を水につけて、ゲーミングチェアにもどる。
組み立て、接続も完璧だな、ヨシ!
「名前はとりあえずBにして…さーてアバター作り〜…強い女風にしてみよっかな!」
長身赤髪のスタイル爆発ねーちゃんよきすぎる。
職業は剣士がよきだね。双剣かっこよ。
「めっちゃ強そう。最高だね」
▫︎センスいい
▫︎びぃちゃんアバターバレしちゃったけど大丈夫かな
▫︎配信気づいてくれ頼む
▫︎びぃたむ待ってるね
▫︎自重しろキモオタ
▫︎びぃちゃん逃げて超逃げて
配信が切れていないことも、ログインしたらゲーム世界で危険が迫っていることも、私は気づかなかった。
「完成!それじゃあソフトを起動してヘルメット装着!」
それから衝撃の展開が次々と待ち受けているとも知らずに……
〈この度は、VRMMO『ヴァルモ』をお買い上げいただき、誠にありがとうございます〉