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3話:人形

「うわー、結構な人だかりだねぇ」


 町の入口であるアーチを潜ると、道は人で溢れかえっていた。

 時刻は正午辺りであるため、昼食を求めて出歩く人も少なくないだろう。


「ここは王都にも近いだけあって、色んな人が集まってくるんだよね。それこそ、さっき助けた商人さんみたいな人とか、観光客とか」

「良いじゃないの!こういう人並みが活発なところで仕事ができれば、私の名を広めることができるわ!」


 何故かチェルシーは胸を張っていた。


「と言っても、今日の仕事は封書渡して終わりなんだけどね……」

「さて、とっとと探して済ませてしまおうかねぇ」


 リンカはそう言うと、懐から一枚の写真を取り出した。出発前にミリーさんから預かった、封書の届け先の人、ライゼルさんの写真だ。


「たしか、ライゼルさんだったかね、誰に聞けば良いのやら」

「こういう時は、まずは衛兵さんに聞けば良いと思うよ。ほら、ちょうどあそこにいるし」


 アーチの麓にいる衛兵さんを指差す。あの人なら、町に出入りしている人を見ているはずなので、まず町の中にいるか否かを知っているはずだ。


「じゃ、ちょっくら聞いてくるよ。すいませーん!」


 リンカは衛兵さんの方へと小走りで駆けていった。


「ライゼルさん、早く見つかると良いね」

「そうね!この調子でどんどん仕事をこなして、私の名を広めなければね!」


 相変わらず、チェルシーは胸を張っている。


「さっきも言ったけど、あまり焦りすぎないようにね。私達はまだ、新人なんだから」


 一応、釘を差しておく。一人で暴走してトラブルを引き起こされるのは、あまり好ましいものではない。


「わかってるわよ!流石に、二度も同じ過ちを繰り返すようなことはしないわ!」

「それなら良かった……」


 とりあえず、一安心である。

 ほっと胸を撫で下ろしているところに、リンカが戻ってきた。


「どうだった?」

「あの衛兵、ライゼルさんの知り合いだったよ。今の時間はこの通り沿いにある食事屋で昼飯でも食べてるんじゃないか、だってさ」


 これは嬉しい誤算である。場合によっては、ライゼルさん探しで一日を費やすことも覚悟していた。


「そっか、それじゃあそこに行って、ついでに私達もお昼にしちゃおうか」

「私も賛成よ!結構歩いたし、お腹が空いて仕方がないわ!」

「あいよ、そしたらちゃっちゃと向かってしまおうか」


 私達三人は、人混みの中へと足を踏み入れていくのであった。


※※※


「あーもう!なんでこう地味な仕事ばかり押し付けられるのかしら!」


 ぷりぷりと怒るチェルシーを引き連れ、私達は町外れを歩いていた。


「ばかりって、まだ二つ目の仕事じゃないかい」

「そうだよチェルシー、まだ我慢の時だよ」

「それはわかっているけど、でも!」


 当初の目的だったライゼルさんには、無事食堂で会えた。依頼の封書を渡し、さあ昼ごはんでも、といったところで、ライゼルさんから新たな任務を言い渡されたのであった。


「しかし、『怪しげなオブジェクトの調査』とは、あたし達でなんとかできるものなのかねぇ」


 リンカが軽くため息をついた。ライゼルさんからの任務は、『町外れに怪しく見慣れないオブジェクトがあるから、それが何物なのかを調査してほしい』というものであった。


「わからなかったら他の詳しそうな人に引き継いでも良いって言われてるし、とりあえず見てみるしかないよね」

「はぁ、いつになったらこの私の素晴らしい剣技をお披露目できる任務に着けるのかしら」


 アルテラまでの道のり同様、チェルシーは文句を言いつつ歩いている。よくもここまで不満が出るものだと、逆に尊敬したくなってきた。


「剣技はさっきお披露目できたから良いじゃないか」

「狼の時は、チェルシー・スラッシュしか見せられていないの!もっと、チェルシー・スパーダとか、チェルシー・ブレードとか、見せたい技があるのよ!」

「自分に技名つけるのって、まるで子供みたいね…」


 私とリンカは呆れつつ、チェルシーの文句に付き合っていた。


「さて、そろそろ目的の場所だけど…あ、あれかな?」


 リンカが前方を指差した。その先には、何やら人の形をしたものが複数横たわっている。


「え、何あれ?人形?」


 目的のオブジェクトにさらに近づくと、その異様さに目を奪われた。

 大人と同じくらいのサイズの人形が、四体ほど横たわっている。いずれも木製なのか、年輪の模様がはっきりと見えた。


「なるほど、たしかにこれは怪しげだねぇ」


 人形の側に立ったリンカが、槍の石突で人形を突いた。当然だが、人形はぴくりとも動かない。

 人形の顔には目や鼻といったパーツは付いておらず、のっぺりとしている。


「あれ、でもこれって…」


 側に寄ってみて、人形の特徴に気づいた。仰向けになっている人形の胸の真ん中に、白い石のようなものが付いている。


「これ、ただの人形じゃなくて、人形操作魔法用のやつじゃないかな」

「人形操作魔法?」


 もし、自分の記憶が正しければ、これは単なる木製の人形ではない。

 数年前、魔術学校で学んだことを思い出す。


「魔力で構築した骨組みを無機物に埋め込んで、自在に操る魔法があるんだけど、多分それ用の人形だよ。似たようなやつを見たことあるの」


 本当に基礎だけだが、人形操作魔法は少しだけ学んだことがある。ただ、ものすごく難しい魔法で、このアポロニア内でも扱える魔法使いは五人にも満たないはずだ。


「へぇ、そういうものなんだねぇ」

「気になるのは、なんでそんなものがこんなところに、しかも四体も落ちてるってところかな」


 人形操作魔法用の人形は、決して安いものではない。魔力の骨組みを埋め込みやすいよう、魔法触媒に適した材料で作る必要がある。


「結構高価な物なんだけど、これの持ち主はどうしちゃったんだろう」


 周りを見渡すが、特に持ち主に繋がるような形跡は見えない。ただ何もない場所に、人形だけが放置されているような状況である。

 人形には、いずれも損傷らしきものは見えない。捨てたとは考えにくい。


「元の持ち主が廃棄した、とは考えにくいし、盗品だとしても、じゃあなんでここに放置した?ってなるし」

「うーん、正体がわかっても、なお謎を呼ぶか」


 リンカも首を傾げている。とりあえず、この状況だけではこれ以上の考察はできない。


「一旦報告して、この件は終わりかな。もしかしたら、持ち主が戻ってくるかもだけど」

「まあ、仕方ないか。それじゃ、一度アルテラの方へ戻ろうかねぇ。チェルシーもそれでいいかい?」


 リンカが伸びをしながら、チェルシーの方へと目を向ける。そういえばチェルシー、人形の話が始まってから全然喋っていない。


「チェルシー?どうかした?」

「…ねえ、これってさ…」


 チェルシーはすごく神妙な顔をしている。何か考えがあるのだろうか。


「唐突に動き出して、街に襲いかかって、そこを私達が華麗に討伐するって話にならないかな」

「ならねぇよ」


 チェルシーの唐突な発言に、リンカが鋭くツッコんだ。


※※※


「ご苦労さまです。次の任務はまた明日伝えますので、今日の所は上がってもだいじょうぶですよ」


 王都のギルドに戻った私達は、早速ライゼルさんへの封書の件と、人形の件をミリーさんへ報告していた。


「わかりました。ではまた明日、よろしくお願いします」


 ふーっと、大きく深呼吸をした。まずは一つ目、二つ目の任務をクリアできた。全てはここからだ。


「次の任務は、もっと派手なやつをお願いね!」

「…善処します」


 大きく胸を張るチェルシーに、ミリーさんは冷ややかな視線を送っていた。


「それじゃ、あたしはここらで失礼するね。ミリーさん、二人とも、また明日ね」


 ヒラヒラと手を振りながら、リンカはギルドの出入り口へと足を進めた。それに続こうと、私も足を進めようとする。


「また明日ね、リンカ。それじゃあチェルシー、私達も行こうか」

「ええ!今日は身体は全く疲れなかったけど、心はちょっと疲れたわ!」


 やはり胸を張っているチェルシーに苦笑いをしつつ、足を進め始めた。


「…ミモザ、チェル。今後の活躍に期待してますよ。では」


 ミリーさんの言葉を背に、私達はギルドを退散していった。


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