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2話:それぞれの理由

「助けていただき、本当にありがとうございました!」

「はいはい、今後は気をつけなよ」


 しばらく続いたリンカによるチェルシーへの説教タイムは、助け出した女性からの声掛けによってようやく終わっていた。

 女性は商人で、王都アポロンへ向かう最中に狼の群れに襲われたとのことだ。


「街道には獣避けの処理がされていると聞いてます。今後は何かあっても、できるだけ道からは外れないようにしてくださいね」

「すみません、気をつけます……あの、何かお礼をさせてください」


 女性はそう言うと、背負っていた大きなリュックを下ろし、中を探り始めた。


「今出せるものは、商品しかありませんが……」

「お礼の品なんていらないわ!」


 突如、チェルシーがストップを掛けてきた。


「ですが、それだと私の気が……」

「『チェルシー・ド・スカーレットという美少女戦士に助けられた』、って宣伝してくれるだけでいいわよ!」


 この人はいきなり何を言っているんだ。だが、これは悪くはない案ではある。


「それは良いねぇ。実はあたし達、まだ駆け出しの賞金稼ぎでね、名を宣伝してくれるなら、それが礼になるよ」

「『リンカ、ミモザ、チェルシーの三人の賞金稼ぎに助けられた』、と王都で宣伝していただけるなら幸いです」


 手柄がチェルシーだけにならないよう、私達の名前を付け加えておいた。


「わ、わかりました!王都についたら、沢山宣伝させていただきます!」


 女性は、何度も頭を下げてくるのであった。


※※※


 助け出した女性と別れ、私達三人は再び隣町を目指し歩き始めた。

 時刻的にはそろそろ正午か、日が高く昇っている。


「しかし、突出したとはいえ、チェルシーは剣の腕前はすごいんだね」


 ふと、先の戦闘についての感想を述べてみた。


「それはあたしも同意見だ。説教した手前なんだけど、てっきり要救助者が一人増えるのかと思ったよ」

「そうでしょう!ふふん!」


 私とリンカの感想を受け、チェルシーは大きく胸を張った。


「これでも、十年は訓練したんだからね!その成果よ!」

「十年かぁ、チェルシーって今いくつなの?」

「今年で16になるわ!」


 思ってたよりも若い、というか、幼い。見た目的に年下だろうなとは考えていたが、それ以上だった。


「ってことは、六歳位から訓練してたわけだ。すごいね」

「その通り!まっ、その内半分くらいは独学でやっちゃったから、本格的に訓練したのは五年くらいだけどね!」


 更に胸を張るチェルシー。自分は同じ歳くらいの時、将来に向けた事は何一つ考えていなかったので、これだけでもチェルシーが偉く思えた。


「そんな幼い内から訓練するんだなんて、チェルシーは武人の家の出とかだったりするのかい?」


 リンカが尋ねる。確かに、武家だったらそういうこともあるであろう。


「いいえ、実家は鍛冶屋よ。何の変哲もない、普通の鍛冶屋。父も母も、戦ったことなんかありゃしないわ」

「へぇ、そうなんだ。じゃあ、なんでまた賞金稼ぎなんかを目指したんだい?」

「目立ちたかったの!以上!」


 そのはっきりとした答えに、思わず躓きそうになった。リンカも同じような体勢になっている。


「め、目立ちたかったって……それだけの理由で幼い頃から訓練して、危険な職に身を置いたの?」

「そうよ、悪い?」


 チェルシーはなにかおかしな事でも言ったかしら?と言わんばかりに首を傾げている。


「悪くはないけど……なんというか……その……」

「ほら、普通はもっとあるでしょ。親の復讐だったりとか、助けてもらった恩返しとか……」

「ないわよ?」


 チェルシー、嘘はついていないようだ。その堂々とした様子に、ついため息が出てしまった。


「なんか、とんでもないのと組んでしまったねぇ……」

「ちょっと!とんでもないってどういうことよ!」


 リンカの言葉に、チェルシーは頬を膨らませた。なかなかぶっ飛んだ人物ではあるが、こういうところは年相応と言うべきか。


「じゃあ、二人はどうなのよ!?賞金稼ぎになったのに、さぞかし深い理由があるんでしょうね!?」


 チェルシーが睨みつけてきた。


「私?私は昔、賞金稼ぎの人に助けてもらって、同じ様になりたいなって思ったから」

「お、これは聞き応えありそうな理由じゃないか」

「もう六年になるかな、私の村が賊の集団に襲われたことがあってね。その時、一人の賞金稼ぎの人が賊を全員倒してくれたんだ」


 思い出す、あの時の記憶。恐怖の底に沈んだ私達を救ってくれた、あの頼もしい姿を。


「すごく、かっこよかったんだ……だから私は、その姿に憧れて、同じ様になりたいって」

「なるほどねぇ」

「良い話じゃないの!」


 リンカとチェルシーは、私の話に聞き入ってくれている。それが、とても嬉しかった。


「その助けてくれた人って、もしかしてうちのギルドの人?」

「それがわからないんだよね……ただ、もし再び出会えるなら、もう一度ちゃんとお礼を言いたいかなって」


 そして、しっかりと伝えたい。あなたと同じ道へ、英雄への道へ進むことにしましたと。


「それじゃあ、リンカはどうなのよ?」


 チェルシーが、リンカの方へと顔を向ける。


「あたしは、出身の国が平和になっちゃってさ、戦いが無くなっちゃったからこの国に来たんだよね」

「平和に?」

「そう。分裂してた諸国が一つに統一されてね。物心ついたときから戦いの訓練を受けてきて、ずっと戦いの中で生きてきたから、平和になった後にどう生きたら良いのかがわからなくなってさ」


 リンカの表情は、少し暗い。


「そんで、戦いを求めて流れに流れて、この地まで来たってわけよ」

「そうだったんだ……」

「ごめんね。二人と違って、あんまり前向きな話じゃなくてさ」


 リンカは無理やり作ったような笑顔を見せた。


「ううん、謝らなくてもいいよ。理由は人それぞれだもん」

「そ!良いことじゃないの、身体は闘争を求めるってやつ?嫌いじゃないわ!」


 チェルシーの言っていることは良くわからない。


「まあ、そんなわけで二人よりもずっと長く戦いに身を置いてきたわけだから、頼りにしてくれよな!」

「こちらこそ、これまで本番で戦ったことなんてほとんど無いから、頼りにさせてもらうね、リンカ」

「私のことも頼っていいのよ!」

「はいはい」


 チェルシーを軽くあしらいつつ、リンカへ笑顔を返す。

 戦闘面においては、この中でおそらく自分が一番弱い。二人とうまく連携が取れるよう、しっかりと着いていかなければならない。


「あ、二人とも、見えてきたよ。あれが目的地のアルテラの町だよ」


 進む街道の先に、建物の群が見えてきた。アルテラの町は王都ほどではないが、そこそこ大きな町だ。


「おお、ようやくかい。さっさと目的の人物を見つけて封書渡して、昼飯でも食べに行きたいねぇ」

「私もお腹が空いてきてるわ!大きな町だし、お店は期待できそうね!」

「二人とも、一応ギルドに報告するまでが仕事だって忘れないでね」


 とは言いつつも、私も空腹を感じていた。

 私達は昼食に期待しつつ、足を少しだけ早めるのであった。


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