鈴の音
「……鍵が掛かっているわね」
ディアナがドアノブを回したところで、鍵が掛かっている事に気付いた。ノックしなかったのは、主と従者の関係にある。主が部屋に入るのに対して、拒否出来る従者はいない。
今回、事前に零が部屋の鍵を閉める事はメアリ達に伝えている。
彼女の主はゴールド=ゴール。ディアナ達は魔法使いであるが、零も拒否する権利は少なからずはある。
「言ったでしょ。アイツはまだ部屋から出てないって。強く扉を叩いたら、起きるんじゃないの? 魔法でドアを壊すのも勿体ないし」
冗談なのだろうが、キスは鍵を開けるよりも、扉を壊すと物騒な事を言っている。
「その魔法で彼女が巻き込まれたら洒落にならないわ。前者の強くノックしてみる事にします」
ディアナは冗談めいたキスの言葉を普通に返し、扉をノックする。これも代わりにカイトや七にさせようとはしなかった。
『ん? 鈴の音が聴こえたぞ。ノック音で君には聴こえなかったか?』
「鈴の音ですか。僕が持っているのは使ってませんよ」
カイトはメアリと離れた時用に、彼女から魔導具の鈴を持たされている。同様に、相方となる鈴は主であるメアリが所持している。
「メアリ様も同じです。その音を聴き逃すわけがありませんし、振動が僅かにするので、気付かないわけがないです」
カイトはチラッとメアリを見る。彼女は零に感視をするため、集中しているようだ。鈴は手にしていない。
だが、死神の聴いた事には間違いはない。カイトが逃した音や言葉、目に捉えられなかった物を、代わりに死神が伝える事になっている。それを彼女は疎かにはしないだろう。
「……はい。着替えますので、少し待ってください」
少し間を置いて、零の声が返ってきた。寝起きなのか、少し声が霞んでいる。
もしかしたら、死神が聴こえた鈴の音は零が持っていて、従者の部屋から漏れ聴こえたのだろうか。
「ゆっくりで構いませんから。遅くなる事で、怒る等もしません。落ち着いてから、出て貰えたら良いので」
キスが何かを言おうとしたのを、ディアナはすくざま口を押さえた。彼女の性格上、何を言うつもりだったのかは予想出来る。
「彼女の感情を落ち着かせた状態の方が、メアリの魔法も使いやすいはずです」
キスが急かせば、零は従者の部屋に出る前から動揺するだろう。出来る限り、彼女の素の状態からの変化をメアリの感視で見せるべきだと、ディアナは考えたようだ。
キスもそれに納得して、ディアナやメアリよりも後ろに下がった。余計な事を言い、感情を揺さぶるだろうと自身で判断した結果だろう。
そして、十分程が経過したところで、従者の部屋の扉が開いた。




