三人の魔法使い
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「すみません。メアリ=アルザス。只今、到着しました」
カイトは館の入口の扉に付いてるドアノッカーを使用し、メアリが到着した事を中の者に伝える。
門から庭園、館までの間には何も仕掛けられていなかった。無数の像が動き出す事もなく、襲われる事もなかった。
気になるところがあるとすれば、庭園の手入れが杜撰であるところだろう。枯れた花もあれば、雑草が生い茂る場所もある。木々も綺麗に整えられていない。
魔法で手入れしていたが、それに魔力が回らなくなったとしても、従者が庭園を管理すればいいはず。この館に従者は一人もいないのだろうか。
「……返事もないみたいですね」
カイトだけではなく、メアリが扉の前に立っても、自動で扉が開く事もない。
「勝手に中へ入っても構わないわよ。何も仕掛けられてないから」
「君以外、全員揃っている」
「この館には従者が一人しかいないらしいのです。私達の従者達も泊まる部屋の掃除を手伝わせてるぐらいですから」
扉の先、館の中から返事が来た。館の魔法使いではなく、言葉からしてメアリと同じ候補者である三人の魔法使いだろう。
「そうなのですね。それではお言葉に甘えて、中に入らせてもらいます」
メアリの言葉に、カイトは扉を開ける。彼の体に異常はなく、本当に何も仕掛けられてはいなかった。
「ディアナ様、アルカイズ様、キス様、遅れた事をお詫びします」
館の中に入ると、目の前にあるのは二階へ続く大きな階段。踊り場には大きな肖像画が置かれている。
初老の魔法使い。この館の主だろうか。そうだとすれば、継承権の話が嘘という可能性は低くなるのではないか。
「構いませんよ。約束の時間にはなっていませんから」
「安心しろ。この館の主も、まだ私達の前に姿を現してはいない」
「私達と一緒に雑談をしながら、時間が来るのを待ちましょうか。従者は片付けに協力してきなさいよ」
中央にある階段のすぐ側、左右に大きな柱時計が置いてあり、近くに四人掛けのテーブルがある。
その右側に魔法使いの三人が椅子に座っている。女性が二人、男性一人。
女性の一人がカイトに命令してくる。主であるメアリの言葉でなくても、魔法使いの言葉であるなら、極力指示に従わなければならない。勿論、第一は主の命令なのだが。
『君に命令した細身の女性がキス=ラブか。初老の男がアルカイズ=ソード。太っている女性がディアナ=マーベルか。メアリと面識があるようだが、カイトも会った事はあるのか?』
カイトは死神の言葉に頷く。だが、彼が知ってる情報は容姿だけ。得意な魔法等は知らされてはいない。
キス=ラブ。細身の女性であり、赤のマントを身に着けている。長い黒髪に赤い瞳。年齢は三十ぐらいか。
アルカイズ=ソード。髭を蓄えた六十ぐらいの初老の男性。赤や黒ではなく、髪と同じ色の白マント。魔法使いによって、服の色は違うようだ。
ディアナ=マーベル。キスとは対照的に丸々と肥えた女性。アルカイズと同じ、髪とマントの色を揃えてる。その色は青。
今のところではあるが、三人からはメアリを敵視するような感じはなく、懇意的な雰囲気だ。
「分かりました。まずは館の魔法使いの従者を捜せばいいですか? それとも二階の方に向かえば良かったでしょうか?」
カイトはメアリから離れたくないが、拒否する権利を従者は持ち合わせてはいない。他の従者が動いてる以上、メアリの評価を下げるわけにもいかないのだ。