刻まれた人形
『姿を消したところで、血の跡が居場所を示すのか。それが鏡や扉付近にないのは、死体を動かしてない証拠だな。流石にそれを完全に消すのは難しいだろう』
この部屋の血溜まり以外の血を消したところで、廊下に痕跡は残るはず。
死体と凶器、血の跡の消滅。犯人自身の気配も消す。魔法の回数が制限されている以上、全部は不可能。
これが館の主であるゴールド=ゴールは含まれないのであれば、彼しか十の殺害は無理ではないだろうか。
「罠は無さそうですね。魔導具は鏡以外にありませんし、魔力の痕跡も見当たりません」
「こちらも同じです。やはり、彼は誰かに殺されたのではないでしょうか? この状況を作るまでの魔法回数を考えると」
「ゴールド=ゴールですか。人形が従者の部屋から消失。従者はある場所から動かないと言ってたはずですが」
零は主の言葉に従っただけで嘘は吐いていない。ゴールド=ゴールがそう言われただけなのかもしれない。
「……拾うのですか?」
「念の為にです。これを辿ってきたわけですが……万が一の事もあります」
それは加護付きの上着が偽物である可能性。魔力を真似る魔法があるのかもしれないが。
「……加護は破られていますが、間違いなく私が渡す従者の服ですね」
燕尾服は十が着ていた物で間違いないようだ。ディアナ達は衣装室にいたのだから、予備をここに持ち込むのは難しいはず。
「待ってください。服があった場所に何かあります。人形です!!」
血溜まりにあった服をディアナが引き揚げると、そこに人形が隠されていた事に気付いた。
それは従者の部屋にあった人形の一つであり、紛失していたはずの物。
この部屋に十以外の誰かがいた証拠にもなる。しかも、キスやアルカイズが従者の部屋を訪れ、人形が消えていた事に驚いていたのは間違いない。
つまり、アルカイズが人形を置けるはずがない。即ち、十を殺したのはアルカイズではない。それに……
「人形……それは誰を示す人形ですか」
ディアナは恐る恐るカイトに聞いた。人形を全て確認しているのはカイトだけだからだ。
十が死んだとしたら、順番を考えると従者の誰か。もしくはディアナが一番死に近い事になるはず。だが……
「……アルカイズ様の人形です。所々が刻まれている姿になってます。その人形から血が出たというわけではなさそうですが」
血溜まりにあったのは傷だらけになったアルカイズの人形。この姿も死を意味していると考えていいだろう。
アルカイズ本人が自身の死に繋がる人形を置くわけがないのだ。