従者の数
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「無事、館に着きましたよ。カイトも気を張り巡らせ過ぎです。現に何も起こらなかったわけですから。館ではもっと気楽に。警戒も過ぎると、怪しまれますよ」
「用心に越した事はありませんから。ですが、館では気をつけます。それと……僕の名前を呼ぶのもここまでです。ちゃんと壱と呼んでください」
夕暮れが過ぎ、夜に差し迫るところで、二人は館に到着した。
カイトが周囲を警戒して進む事で、必要以上に時間が経過したのは言うまでもない。
死神も事件が起きるのは館内だと死者の記憶から読み取り、早く先に進むよう進言したが、カイトは折れなかった。
すでに誰かが森の中で息を潜めてる可能性、自身の参加による変化も考慮していると、彼は死神に伝えた。
「……分かってます。それにしても館にまで結界がないなんて。別の事に魔力を要しているのでしょうか?」
目の前には大きな館があり、門の先に庭園が広がっているのがカイトの目にも視認出来る。屋敷の広さ、敷地は魔法使いのランクの高さが知る事が出来、メアリの倍以上あり、位の高さが伺える。
そんな場所で、結界が張られてない事に、彼女は疑問を抱いているようだ。自身の住処、工房には他の魔法使いに隠したい情報が沢山ある。それを守るための結界であるはずが、無防備になっているのだから。
「……罠が仕掛けられてるとかですか? 庭に幾つもの像が見えます。あれが襲ってきたりは」
「大丈夫です。あれに魔力は感じられませんし、私達は招待されたわけですから、襲ってくる事はないでしょう。それよりも」
像は魔法によって動くのだろうが、今は魔力を宿していない。像に魔力を注ぐより、結界を張った方が安全のはずだ。
「門番の従者の姿がありませんね。門が開いてるという事は……勝手に中へ入れと言ってるのでしょう」
『門番となる従者? 魔法使いが命約するのは従者一人ではないのか? メアリは君を連れて行けず、一人で向かったのだろ?』
従者を多数従えるのであれば、メアリはカイトとは別の従者を何故連れて行かなかったのか。他の魔法使いも従者が多くいれば、命は失っていないのではないか? と死神は疑問に感じたようだ。
「主……メアリ様が従者を僕しか取らなかっただけで、本来、複数人に命約するはずです。ですが、命約による肩代わりを出来るのは側にいる従者のみ。距離が離れれば、発動しません。そして、今回連れて来れるのは一人のみと制限されてます」
カイトは従者の知識を死神に伝えた。頭の中で思い浮かべたら良いのだが、口にしたのは自身にも再度確認するため。
この間は時が止まっているのもあり、メアリの耳には入らない。
『そうなると……メアリが疑問に思うのも当然なのか。この館を管理するにあたり、従者が複数人必要そうだからな。魔法使いが従者を一人も付けない事はあるのか?』
彼が知る限りではいない。メアリ自身がカイト一人だけしか取らない事で、周囲にも知られていた。誰も取らないのであれば、メアリの耳にも届いていてもおかしくない。
『いないみたいだな。流石に館内にはいるか? 従者の少なさに疑問を持つべきなのか。事件がどう起こるのが楽しみだ』
死神は楽しそうに呟いた。
「僕が先に入ります。用心に越した事はありませんから」
カイトからすれば、ここからが本番。殺人事件の舞台に突入する事になる。メアリを守るよう、カイトは先に館の門をくぐり抜けた。