遮断
「大丈夫……のようですが、早くこちら側に戻ってくるべきですよね」
メアリも十を心配している。人形の事があり、十も危険なのは承知のはず。
メアリ達から十が見えるように、十からディアナ達の姿は映ってないのだろうか。彼はまだ鏡の方に目を向けていない。
「この館の何処かにある部屋であれば、中から鍵を開けて、ここに戻ってこれるはず。そこから調べ直してもいいのですが」
「少しでも情報をディアナ様に持ち帰るために……ですか。安全を考慮するため、壱をあちらに向かわせるのは」
ディアナがカイトに視線を向けた。十にディアナの言葉を伝えるため、鏡の向こうの部屋へカイトを行かせたいのだろう。
だが、それは十だけでなく、カイトの身も危険にする行為。
それに命約がない以上、カイトはメアリと離れるわけにもいかないのだ。
「メアリ様。十がこちらに気付いたようです」
十が体をこちらに向けた。だが、鏡の魔力が切れそうなのか、彼の姿が乱れたように映る。
「鍵を開けなくていいので、早く戻ってくるのです」
ディアナは鏡に手を差し伸べる姿を十に見せる。鏡の中に手を突っ込む行為は、魔力切れの事を考えると危険なのだろう。下手すれば、腕だけが飛ばされる結果に終わってもおかしくはない。
従者であれば、声が届かなくても彼女の姿の意図は読み取れるだろう。それだけで十分のはずだ。
十もそれに応じて、鏡へと一歩踏み締めたところで止まってしまった。
その直後、彼が前に倒れ込む姿が映る。それによって、鏡は後ろへ倒された。
「何が起きたのですか!? まさか……」
メアリがあまりの事態に声を出した。
鏡の向こう側はブレた天井が見えるだけで、十がどうなったのか見当がつかない。
「あの時、十以外に誰も見えませんでした。彼もそれを確認していたはずです」
部屋を調べるうえで、誰がいないのかも確認するだろう。カイトだけでなく、ディアナやメアリもその姿を見ていた。
「罠が発動したのですか? おかしな行動はしてなかったはずです。発動するにしても、タイミングが良すぎます」
鏡に向かう前に罠が発動した。だが、十があちらに転移した際、発動はしていない。
それもどんな罠だったのかを調べてみないと判断がつかない状況だ。
『鏡が倒された時、彼の背中に柄が見えた。ナイフか何かで刺されたのだろうな。それも魔導具だったかもしれないか』
死神は十が倒れた時も冷静に観察し、鏡が倒れる直前、彼の背中にナイフがあった事を確認した。それもそのナイフが魔導具だと。
「……命約が切れました」
ディアナはボソッと言葉に出した。彼女が命約を解除したわけではなく、途切れたのだとしたら、意味する事は一つ。
十が死んでしまったという事だ。




