転移
「これは……私の知る限りでは、魔法書ではなさそうですね。全てが白紙の魔法書はありません。魔力で解除するとしても、文字で無くとも紋様等があるはずです。両方にそれがないですから。食堂にあった絵は魔導具ではなかったですが、あのような物かもしれませんね」
ディアナは本が魔法書である事を否定し、メアリに返した。魔導具として、仕掛けを解除するための道具と判断。本に対して、魔法を使うつもりはないようだ。
『仕掛けを解除するための道具か。本ともなれば、書斎で使ってもおかしくはないな』
鍵はメアリを含め、四人の魔法使いに一つずつ渡った。全員が一緒に行動すれば、この本を使う場所も分かるのだろう。
単独行動だった場合、魔導具の事を他に知らせなかったら。その状態で先に死んでしまったら、先の攻略が不可能になるのではないか。
『この本は手に入れておきたいところだが』
この部屋の鍵を持っていたのはディアナ。報酬を手に入れる権利は彼女の方にあってもおかしくはない。
協力関係として、一冊手に入ったところで、二冊なければ意味がなさそうではある。
「この二冊両方とも私が手に入れても」
メアリも一冊ではなく、二冊とも必要だと考えたようだ。
「ディ……ディアナ様!!」
十が驚きの声を出した。カイトとメアリだけでなく、ディアナも本の方に意識が向いていて、十の鏡の変化に対して、何が起きたのかを見失っていた。
気付いた時には十の体が鏡の中に半分以上が吸い込まれ、手を差し伸べる前に暇もなく、全てが中に。
「十!!」
ディアナは鏡に触れようとしたが、手が止まる。何が起きたのかを把握しておらず、危険に飛び込むわけにもいかなかったからだ。
「別の鏡に移動する魔導具だったようですね」
鏡の魔導具の効果は様々あり、移動手段として使う事はディアナの説明にもあった。
だが、それは使用者を吸い込む物なのか。
従者であれば、勝手に鏡の中に入る事はせず、主の指示を待つはず。
それが出来なかったのは、あちら側の鏡から引っ張り込まれた可能性もある。
「魔力が弱まってます。すぐに移動すれば、こちらに戻ってこれないのですか?」
鏡はディアナやメアリではなく、繋がった先を映している。
何処かの部屋のようで、その先に移動した十の背中が見える。あちら側が確認出来るのであれば、移動出来る時間は残っているはず。
ディアナは鏡の魔力が弱まり、移動手段が消える事を察するが、その声は十がいる場所まで届いていない。
十は主のディアナの役に立つべく、少しでも情報を得るため、移動した場所を見回しているのが鏡越しからも分かる。
それに十以外、人の姿は見当たらない。誰かに引っ張り込まれたのではなさそうだ。




