結界なし
「うぅ……そこまで言うのであれば、妥協します。全てを拒否して、カイトに嫌われたくないですから。再度確認しますが、本当に名前が嫌になったわけではないのですね」
「勿論です!! この名前は僕にとっての宝物ですから。戻った時、もう一度名前を呼んで欲しかったです」
メアリはカイトの返事に満足して、カイトの名前を呼ぶのを禁止するだけではなく、継承権の放棄を他の魔法使い達に言わない方針にした。
『何度も話に割り込むのも申し訳ないが、君もメアリ同様、余計な事を言わない方がいいぞ。例えば、全員が殺されると言葉にしてみろ。魔法使いでもない君が予言みたいな事を言っても、誰も信じないだろう。だが、犯人だけは警戒する。第一に君を狙うかもしれない。君が死んだ時点で擬似的世界は終了だ。そんな簡単に死んで貰っても、私は全然楽しめないからな』
カイトが死んだ時点でゲームオーバー。この疑似的世界は消えてしまう。重要なのは犯人を見つけるのは当然として、彼自身が生き残らなければならない。それは他の誰かの死を犠牲にしてもそうであり、メアリの命でもあってもだ。
『君が彼女を守ったところで、死の先送りでしかない。彼女達が死んだ事実が変わる事はない。それをよく考えておくべきだ』
それに対して、カイトは『……善処します』と頭に思い浮かべる事しか出来なかった。
彼自身も頭で理解していても、主が襲われでもしたら、命約がなくとも、盾になるように、体が動いてしまうと分かってるいるのだ。
「馬車が止まりましたね。この先は歩いていかないと」
馬車が止まり、カイトはメアリの荷物を持ち、外に出ると、そこには広大な森が目の前にあった。
この森の中に事件現場となる館がある。カイトは主の行方を捜すため、館に一度だけ行った事がある。だが、見つける事は出来たものの、中に入れずにいた。
魔法による結界。当時、カイトは単独で向かった事もあり、結界を解除する方法がなかった。
「この森の奥にある館が舞台となるはずなのですが……」
カイトが手を貸し、メアリは馬車から降りた。そして、メアリは魔法で馬車を縮小化。馬車は元は玩具だったりする。
「この一帯が魔法使いの敷地ともなれば、結界が張られていてもおかしくないはずなのです。しかも、今回に限っては結界は強化すべきところを」
魔法使いは警戒心が強く、自身の敷地内に結界を張り巡らせる。許可を得た者だけが入る事を許されるか、同等の力で調和する。もしくは、破壊するしかない。
結界を調和や破壊しても、魔法使いに侵入を教える事にもなるわけなのだが、結界自体が張られていない。
「……結界がなければ、別の魔法使いが来る可能性もありますよね?」
「ゼロではないですが、可能性は低いです。継承は決めた候補者しか無理となってます。下手に乱入すれば、私と三人の魔法使いが協力して、相手を倒す事になるでしょうね」
『この情報は君の記憶にもないな。覚えていても損はないだろう。継承権とは無関係な第三者の出現。もしくは、別の理由があるのか』
「それに……かの魔法使いの死期が近く、この広大な森に結界を張れる魔力がないのかもしれません」
メアリは死神の言葉が聴こえてないはずなのだが、別の理由の答えの一つを提示した。