待ち伏せ
『階段だ。普通に廊下で歩く音とは違う。キスはそれで下に行ってないと考えたのだろうな』
「この階段は木で作られていて、軋む音がします。普通の足音とは違うので、アルカイズ様は下に行ってないのでしょうね」
死神とメアリの意見が一致。木の階段による音で一階へ移動していないと判断。これはキスもそう考えたからこそ、一階から調べる事にしたのだろう。
カイトは二階に着くなり、目を細め、辺りを注視。アルカイズの姿よりも、三の姿を意識する。
アルカイズは気配を消した動きになれているかもしれないが、三は彼と二人で行動するのは初。その動きに慣れていない可能性がある。
だが、それはすぐに出来なくなった。遮る物があったからだ。
「ディアナ様も一階を調べに行くのですか? それとも……私に何か用事でもあるのでしょうか?」
カイトとメアリが二階へ上がると、ディアナと十が待っていたからだ。二人は二階にある部屋や廊下を調べる様子もない。
一階に向かうにしても、メアリとカイトが二階に来るのを待たなくても、移動出来る幅はあった。
「人形は所持したのですか? 他の人形がどのような物なのかを確認したいと思い」
ディアナはキスとアルカイズに会わなかったのか、二人が情報を渡さなかったのか。人形が消えた事を知らされていないようだ。
自身が従者の部屋に行くのを拒み、先に準備をするのを選んだのだから、二人にしてみれば当然か。
彼女は三人の中で、メアリならば話をしてくれると声を掛けたのかもしれない。
「いえ……人形は持ち去られたのか、部屋には一つもありませんでした」
メアリは嘘をつかず、人形が無くなった事を教えた。いずれは分かる事だ。
「それともう一つ。彼女……零が部屋で休んでいるので、彼女が起きるまでは入室禁止となっています」
「なるほど。全員分の人形が……皆が十のようになる事を示す可能性があると。従者の部屋を調べるのは昼過ぎがいいようですね」
ディアナは人形が消えたのは、十のように死を予知する事に使用される考えているようだ。そこはキスとアルカイズも同じだ。
「……それを聞くために私を待っていたわけでもないはずです。本当の目的は何ですか?」
『人形は従者の部屋に見に行けば済む話だ。他にメアリを待つ理由があるのだろう。あの場で単独行動の話だったが、協力の申し出か?』
「協力の申し出です。十の人形の事もありますし、今日だけでも貴女と行動を共にして、警戒を強めたいのです」
死神の想像通り、ディアナからの協力の申し出。行動を共にする事で、危険を軽減、警戒を強める事が可能だ。
『……この時、ディアナはメアリと行動を共にしてないな。予知があるなしにしろ、違った行動が出来る。ただし、書斎を調べるのは後になるぞ。一発で鍵の場所を見つけるのは、怪しく思われる』
死神はそう言うが、決めるのはカイトではなく、メアリ。
ディアナの前で、カイトがメアリに意見を言い、それに従うのは魔法使いと従者の関係としては頂けない。