命約
「僕は自分の体よりも、メアリ様が大事なんです。危険な場所だと分かっているのでしたら、館に着くまでに命約をしてください。そうでなければ、メアリ様の代わりにもなれないですから」
『命約……それはあれか? 身代わりにする物か? 別の世界でもあったぞ』
死神はカイトに正解かどうかを語り掛け、それを彼は頭の中で肯定する。その時、メアリは微動だにせず、時間が止まっている事が分かる。それだけでなく、カイト自身の体も動かないようだ。
彼女に対しての行動に関しては、会話のみが許されているようだ。
命約。それは魔法使いが最初に従者と結ぶ契約。魔法使いの身体における影響を従者が肩代わりをする。怪我だけでなく、呪い、死も同様。従者が死ぬ事によって消えるのだが、魔法使い自身によって解除も出来る。
だが、それは自身を危険に曝す行為であり、普通の魔法使いであるなら、命約を従者から切る事はない。説明を付け足すのであれば、一定以上の距離が離れてしまった場合、肩代わりは無理となる。だからこそ、魔法使いは常に従者を引き連れているのだ。
『それがあるから、君は同業を疑う事はしなかったわけだ。魔法使いよりも先に死んでしまうのは従者になるわけだからな』
死神の言う通り、カイトは従者達を疑う事はしなかった。メアリとカイトの関係が稀有であり、従者が魔法使いを恨んでる可能性はある。
それでも、命約に縛られている以上、先に死ぬのは従者になる。主を殺そうとしても、自身に跳ね返ってくるからだ。
「駄目です!! 主として、それは許可しません。カイトの不調の原因も命約のせいだったかもしれません。これ以上、体に負担をかければ、死ぬ可能性だって……」
メアリは泣きそうな顔になり、カイトはそれ以上何も言えなくなった。
カイトの病気は呪いに近い。外にある魔力を過剰に取り入れてしまう。だからといって、その魔力でカイトは魔法を使えるようにはならなかった。
魔力は様々であり、カイトの体にとっては毒でしかなかった。魔法を使えれば、魔力を消費出来るが、無理であれば毒は溜まる一方。
メアリはカイトの魔力を自身の体にある程度抽出する事で、何とか凌いでる状態。彼女にとっても相性は良いわけではなく、吸い取った後は自身の体調を悪くする。
カイトの死も、引き取った魔法使いが魔力を吸えない……吸わなかったのが原因だった。従者相手に身を挺する必要がないからだ。
「それに……カイトの治療を他の魔法使いがしてくれるのであれば、私は継承権を放棄してもいいと思ってます。争いに参加する事はありませんよ」
だが、メアリがカイトの元に戻ってくる事はなかった。その言動が嘘か本当か、メアリ自身が疑われた可能性はあるのではないか。もしくは、どちらに就くかと魔法使い達が疑心暗鬼になり、処分されたのか。
「……メアリ様。それを他の魔法使いに話しては駄目です。メアリ様が嘘をついてると思われて、怪しまれる可能性が高くなります。僕の名前も昔の番号で呼んでください。自身と違う者を異物だと判断されると面倒ですから。お願いします!!」
カイトも事件を知ってるからこそ、無駄だと知りながらも彼女に警戒を促した。事実は変えられないが、擬似的世界の中だけでも犯人を見つけるだけでなく、彼はメアリを救うつもりでいるのだろう。