ミス
「僕が死神……アインズ様のミスを指摘するのですか?」
「その通り。偉そうにしながらも、依頼者にミスを指摘されるのはアインズにとっては屈辱でしょ」
ツヴァイが質問に答える代わりの条件として、アインズに頼らず、カイトだけがどのような質問をするかを考える。だが、その前にアインズに更なる屈辱を与える事をツヴァイは忘れない。
彼女はアインズに余程執着しているように思える。
「私の事は気にするな。ミスをしたのは間違ってない。初歩的なミスだ。この場所に戻ってからの会話等でも、君なら読み取れるさ」
アインズはツヴァイの煽り、嘲笑にも動じない。それだけで彼女は苛つきを隠せず、カイトにヒントが与えられた事に気付かないようだ。
「……分かりました。一つは記憶の本です。メアリ様の記憶に仕掛けをしていた事に、アインズ様が気付かなかった」
メアリの記憶の本だけ変化しているのは、ツヴァイが仕掛けをしていた。最初から気付いていた場合、メアリが黒幕とまではいかないが、共犯者と分かっただろう。
「正解。僕は何度も邪魔している。そこは注意しておくべきでしょ。といっても、記憶の本を弄ったのは今回が初めてだけど」
アインズは途中からではあるが、ツヴァイが介入している事に気付いていた。だが、最初からというのは難しい。しかも、いつもとは違った形にしているのなら尚更だ。
「……ですが、僕はそれを最初から知らなくて良かったと思います。メアリ様が黒幕、共犯者と言われても、信じる事は無理だったと思います。ここまで来たからこそ、メアリ様の行動を受け入れる事が出来たわけですから」
カイトはこのミスでアインズの評価を下げる事はなかった。
仮にアインズがツヴァイの仕掛けに気付いていたとしても、カイトに伝える事はしなかったのではないか。
アインズはカイトの話を聞き、最初からメアリに疑いを向けさせるのは避けたはず。
メアリの記憶だけに仕掛けた事自体が罠だと判断して、証拠が揃うまでは口に出す事はしなかったのではないだろうか。
加えて、彼女はミスの言い訳を何一つ言ってない。敵相手に負けを認めようともした。
そんな彼女の評価を下げようなんて事は、カイトには一切ない。
「……ふん。そんな事は僕も分かってるよ。僕の方がアインズとの付き合いは長いんだから。もう一つは何? さっさと答えてよ」
ツヴァイはアインズではなく、カイトに敵意を向けてきた。自分の方がアインズを知っていると考えているのが、余程腹が立ったのだろうか。
彼女のアインズに対する執着が物語っている。
「もう一つのミス……メアリ様の記憶に仕掛けたように……犯人を示す物があった?」
ツヴァイが言うアインズのミス。メアリの記憶の仕掛けに気付けば、犯人は特定出来た。それと同等のミスだと考えた方がいいのか。




