刺された人形
『これは……十の人形か。謎解きをしたのが十であると予知したというのであっても、驚きはしただろうが』
ディアナの目の前に置かれたのは眼鏡を付けた人形。従者の部屋で見た、十に似た姿の人形だ。
三や七ではなく、十の人形。昨夜までは従者の部屋に確かにあった。わざわざ、本人があの場所に置くとは考えにくい。
本人とは別の誰か。人形は魔導具ではないが、魔法を使えば、移動させる事は可能なのかもしれない。
それをしたのはゴールド=ゴールになるのか。謎解きをした者を予知で当てたとなると、信憑性は増してくる。
だが、それだけで話が終われば問題は無かった。キスやアルカイズの二人は予知が正解した事で驚くのとは少し違った。
二人の表情からは恐怖が感じているようにも見える。
「十。今から貴方達の部屋に行き、他の人形があるのか確認しに行きなさい」
「三、お前も一緒に行ってこい」
「七もよ。確認してきて」
ディアナはすぐに十を従者の部屋に行かせる。十の人形がそこにあれば、複数用意されているのが分かる。
そうでなければ、誰かが故意にそうしたわけだ。キスとアルカイズが従者を向かわせたのも、人形の姿に関係があった。
十の人形にはナイフのような物が刺されていた。
零からゴールド=ゴールが予知の魔法を使えると教えられた以上、これの意味する事は先々で十が刺される。
予知が完璧でなくとも、死ぬ可能性が高い。
皆の人形が用意されたのは、予知された死を現すためだとしたら。
キスとアルカイズが従者に指示したのも、人形の有無もあるが、十が調べに行った事で、この状態になる可能性もあるからだろう。
しかし、メアリはカイトに従者の部屋に行くように指示をしなかった。
「メアリ。これは貴女の仕業ではありませんよね。魔法を使い、食堂に移動させた」
ディアナはメアリに声を掛ける。従者の部屋に入った魔法使いはメアリだけ。魔法で人形を移動させる事は可能ではある。
「それはないです。それだけのために魔法を使うわけがありません。まして、彼を選ぶ理由もないです」
「そうですよね。魔法の回数は制限されてます。こんな嫌がらせのために使用するなんて事は」
食堂に最後に来たのはメアリであり、調べた事も皆に伝えた。普通なら怪しまれるのだが、あまりにもタイミングが良すぎる。
魔法を使うとしても、自身の身を守るために使う。人形を移動させるためだけに使うのは行動的に馬鹿げているのだ。
「戻りました。私の人形は無くなっていました。この刺された人形がそれだと思います。ディアナ様の人形は部屋で確認出来ましたので、ご安心を」
十は無事に食堂へ戻ってきた。その後を追うように三と七も主であるキスとアルカイズの後ろに付き、報告する。
「キス様と私の人形が無事であるのを確認しました」
「アルカイズ様の人形は消えていません。私も人形も同じ場所にありました」
「ふぅ……一安心とでも言っておくべきなのかしら。これが予知に関係するかだよね。完璧じゃない事だけが救いじゃないの?」
キスは人形が無事である事にホッとした顔をして、ディアナの心配をする。
この人形が予知と関係するなら、十が一番に離脱する事になる。それは命約によってなのか、十自身の失敗からなのか。
どちらにしろ、十がいなくなり、それでも継承権の争いを続けるなら、ディアナの身の危険性は増してしまう。