今回
「……館の主はすでに亡くなっているんですか? それも……あの首無し死体だとしたら……」
「そうだよ。彼女が館の主だったわけ。壱が気にしてるのは、私達従者達が彼女を殺害したのかどうかかな?」
「それもですけど、色々とあり過ぎます。この出来事は本当に館の主が仕掛けた事なのか。館の主が亡くなっているのなら、儀式をする必要はあるのか。そんな中で……」
カイトは途中で口を閉ざした。
他にも聞きたい点はある。零自身の目的。カイトを生かす理由等。
だが、彼女が黒幕だった場合、真相を語った時点で擬似的世界は終わってしまう。
彼としては最後にメアリの無事を確認したいのもある。それ以上に不安が押し寄せてくる。
「そんな中で? 続きは何? まぁ……私が何処まで話していいのかだけど……答えられるところはね。彼女も全部知ってるわけじゃないから」
零のその言葉でカイトの不安がより増していく。
零以外にこの出来事を話せる人物がいる可能性がある。
彼を助けるとして、何処に連れて行こうとしているのか。
館の主が死んでいるのなら、彼女に対抗するための魔法使いが必要となる。
しかも、零はまたしても彼女という言葉を使っている。
総合して考えると、怪しいのはメアリになってしまう事に、彼も気付いてしまった。
「まずは継承争いでディアナ様達を呼んだのは館の主ね。けど、今回に関しては違うかな。それについては彼女も分かってたはずなのに、急に信じなくなるから」
継承権争い。メアリ達魔法使いを集めて、殺害していく。それを考えたのは館の主だと零は認めている。
だが、『今回』というのはどういう意味を示しているのか。館の主は儀式的な物を何度も実行していたという事なのか。
それだけでなく、零の物言いは主であるゴールド=ゴールを殺害したかのようにも聞こえてくる。
今までしてきた事を館の主は否定し、零達はそれを許せなくなった。『急に信じなくなるから』という言葉がそう思わせる。
「……『今回』というのはどういう意味ですか? 何度もこんな事を起こしていたら、ディアナ様やアルカイズ様は事件に気付きそうな気がします。だとしたら、別の意味があるのではないですか?」
この出来事以前に魔法使いの失踪事件が続いていれば、回復魔法の継承自体を怪しみ、ディアナやアルカイズ、キスも警戒したはず。
「そこを聞き逃さないのは流石だね。私達が館の主を殺した理由を遠回りに言ったのにも気付いてる感じがするし」
零は館の主が寿命ではなく、自身らが殺害した事を告げた。
『殺害までいかなくとも、死体を利用した事自体は間違いではないからな。それと……』
死神は何かを言い渋っているようだ。『今回』という言葉に心当たりがあるのか。




