十の死体
「あの死体はディアナ様で間違いないはずなんだけど……」
ディアナの顔は確認出来る事から、その死体が別人である事はないだろう。
心臓部に槍のような物が突き刺さっているのも、他の死体と変わらない。
ただし、その槍は突き刺されて間もないのかもと思わせる。
その槍を握っている相手がいたからだ。
その人物は片手しかなく、だとすれば一人しかいない。
ディアナの従者である十だ。彼が彼女の胸に槍を突き刺す瞬間を見た……わけではない。
その彼自身も倒れていて、ピクリとも動かない。その背中にはナイフが刺されている。
彼は何者かに殺された事になる。
いや……殺害出来る人物は限られているのではないだろうか。
十が会話しているのを聞いたのは、ほんの少し前だ。その会話相手が当然怪しい事になる。
零。彼女の仕業なのか。三は負傷しており、休んでいるという話だった。
メアリが捕まっている場所から抜け出したとしても、簡単に人を殺せるのかどうか。
ナイフを使用しているのもある。仲間でなければ、不用意に接近を許さないのではないだろうか。
これに関して、メアリが生きていた場合になる。一番に頭に浮かぶのは、やはり……
「彼女だとしても、理由が全く分からない。今になって、十が裏切ろうとしたなんて事は……意見の食い違い?」
七が殺害された理由もそれだろう。キス殺害の失敗。カイト殺害未遂。独断専行が続いたのかもしれない。
だが、ここまでの準備が出来ている状態での裏切りはあるのか。
二人は普通に会話をしており、十は三を助けて、キス殺害にも貢献している。
「……あれは!?」
二人の死体が置かれている部屋ではないが、その近く、隣の部屋の位置にカイトが抜け出した仕掛けと同じ物があった。
触れてみると、鍵は掛かっておらず、下に行く事は可能のようだ。
ただし、下に誰かいるかまでは把握出来ない。その部屋を見るための隙間がない。
カイトの部屋のように天井裏に続く扉の鍵はなくとも、廊下に繋がっている扉が施錠されているのなら意味がない。
「……十の死体を調べても、僕に何か分かるかどうか。優先するべきなのは、メアリ様の生存確認。それと……彼女達の居場所もそうだ」
カイトがメアリの生存確認を一番にするのは当然として、彼女達……複数なのは三も含まれているのだろう。
十を殺したのは零である可能性もあるが、彼女自身も殺されているのかも分からない状態だ。
十が殺され、零の安否も不明であれば、三の状況も気にしなければならない。
身動き出来ない状態でいるのなら、殺害しやすい状況でもあるという事だ。




