不明
「……誰……ですか?」
カイトは頭の中に語り掛ける。こちらの声も耳に入っているなら、何かしらの反応があるはず。
気になる点がもう一つ。
聞こえているのは女性の声。館の主は男だと考えていたのだが、違っているのか。
それだけじゃない。話し方は違えど、メアリの声をしている。真似した声だとしても、その声をいつ聞いたのか。
口調が違えば、声だけを真似るのは難しいのではないだろうか。
だとすれば、本人である可能性は?
メアリは身動き出来ず、魔法でカイトに話し掛けている。
だとすれば、彼女は生きている事になる。口調が違うのは、こんな風に話したい気持ちがあったという事も……
「君も分かってるはず。私も君の事を知っているし、今起きている事も。私の正体は…………」
「会話が途切れた? 本当に誰だったんだ? 館の主ではないと思う。メアリ様という事は……ないはず」
謎の声は、カイトが正体を知っていると告げている。謎の声も彼の事を知っているらしい。それだけではなく……事件に関してなのか、この状況についてなのか。
謎の声がメアリである可能性は低いだろうが、ゼロではない。
館の主だとしたら、『君も分かっているはず』という台詞がおかしくなる。今起きている事を話せば、零達従者を裏切る事になる。
「彼女以外にも死神が……いてもおかしくはないと思うけど……だとしたら、彼女は? 割り込む事を許すなんて事は……」
彼女以外にも死神らしき物は存在するはず。館の主が出会った事があるのが、それではないのか。
メアリに似ただけでなく、死神の姿に似た絵もあったのもある。
それだけじゃない。時間が止まる感覚。死神との会話時に周囲の時間が止まるわけだが、先程はそれと同じ……似た感じがあった。
天井裏では他に反応する物がなく、人がいれば分かりやすかったのだが。彼自身の体が動く事を確かめるよりも、意識は彼女の声に向かい、記憶していない。
とはいえ、カイトに接触する理由は予想はつかない。すでに儀式は始まっていて、この場にいるのか。
「どっちにする……謎の声を信じる? 信じるというのはおかしい?」
謎の声はメアリの居場所を教えたわけではない。面白い物が見えると言っただけだ。
謎解きの邪魔をしている可能性もある。
北側に行かせないようにしている。零達を追いかけさせて、捕まるように仕組もうとしているなんて事も。
「けど……メアリ様の声で言われたら」
騙されているかもしれないが、メアリであってもおかしくない状況ではある。
だとすれば、カイトは自身の考えよりも、そちらを優先する。




