声
「確か……感覚的には二人は北から来て、南に行った感じだった?」
零と十がカイトを閉じ込めた部屋を通り過ぎた時の事だ。話し声は右から左へ、左から右へと声の聞こえ方が小→大、大→小へと変化した。
「……違う。真っ直ぐ向かったのかもしれない」
二人は途中で曲がり、そこから真っ直ぐに進んだ可能性もある。
彼が閉じ込められていた部屋は南東の位置にあった。ここが地下だとすれば、上は食堂になるのか。
食堂の絵の入れ替えによって、地下への道が開けた可能性がある。絵の入れ替えは別の謎解きでも使用するとも考えてはいた事だ。
二人が進んだ道を追いかけるのではなく、別方向に向かうのが正解だ。
そうなってくると、向かうのは北側。西側だと鉢合わせする事もある。少しでも調べる時間は持っておきたいところだ。
それに西側に行くため、真ん中を通る事が可能なのか。死体を東西南北に置いたとして、重要なのは中央部であり、儀式を執り行うとすれば、そこになるのではないだろうか。
だとすれば、やすやすと入れるようにはしないはず。それが天井裏だとしても。
「北側にしよう。一つずつ確認していかないと……真ん中にいる可能性も十分あるんだから」
メアリが儀式に重要であるなら、中心部に死体が置かれていてもおかしくはない。
だとすれば、東西南北に死体を配置するのに数が足りない状態になる。
ディアナ、アルカイズ、キスの三人で別の図形を描いている可能性もあるわけだ。
『そっちを選ばず、南側にしなさい』
「……えっ?」
カイトが北側に行こうとするのを止める声が聞こえた。
当然、それは零や十ではなく、キスでもない。
彼の頭の中だけに話し掛けている状態。その感覚を何度も経験しているから分かる。
『……なんてね。そっちの方が面白い物が見られると思う。勿論、決めるのは君なんだけど』
カイトは死神ではないと、すぐに分かった。口調、雰囲気、話し方が違う。
しかも、相手もすぐにそれを理解し、自身の話し方に戻したようだ。
だが、カイトの頭の中に話し掛ける事が出来るのは死神だけではないのか。
館の主が魔法で、彼に話し掛けている。それもおかしな話になる。
館の主が儀式の準備を進めているのであれば、邪魔になるような事を教えるだろうか。
勿論、『面白い物』と言っているだけで、カイトは何も分かっていない。




