名前
「……これで四人の死体が揃ったわけなんだけど……ダンは……」
零と十の声が遠ざかっていく。カイトはキス殺害等の多数の情報が頭に入り、全ての会話を拾う事が出来なかった。
「……ふぅ。ここからちゃんと離れてくれてたら良いんだけど……危ない」
こちらからでは声や音以外で判断する事が出来ない。零達が会話や足を止め、どちらかがカイトの動きを観察する可能性も残っている。迂闊に声を出さない方がいい。
カイトは声に出さず、頭の中で情報を整理するのを続ける。その間に死神が戻ってくれば御の字ではあるのだが。
零と十の会話で数字以外の名前が出てきた。セシルとダン。
『セシル』というの三の事だろう。従者の中で残っているのは彼女しかいない。
零が口にした『ダン』という名前も、話している相手に対して言っているのだから、十で間違いないだろう。
三と十にはちゃんとした名前があった。そうなってくると零や七にもきちんとした名が存在するのだろう。
これを死神が知れば、記憶の本を見つける事が可能なのだろうか。
この事件の死者でなければ、見る事を許されない可能性も十分ある。
下手すれば、犯人を教えているような事になりかねないからだ。
「名前……そんなはずは……メアリ様だけが特別ではなくて」
カイトは思わず口に出してしまった。
魔法使いは従者に名前を付けず、数字で呼ぶ。キス達三人はそうであり、メアリも隠すようにしていた。
それだけで他の魔法使いから奇異、異端の目で見られる。
従者に名前を付ける主は滅多にいない。メアリが稀なのだろう。
だとすれば、彼女達に名前を付けたのは……メアリであるとカイトの頭に過ぎってもおかしくはない。
彼を生存させようとする事自体が怪しく思わせる部分がある。
メアリが館の主なのか。
「それはないはず。館の主がメアリ様と同じ混血なだけで」
館の主もメアリと同じ立場。混血であり、後に魔法を使えるようになった。
従者に対する気持ちは、普通の魔法使いとは違う。それはメアリも同じだろう。
従者に名前を付ける可能性もゼロではない。
それにメアリでないという決定的な事がある。
死神がメアリの記憶の本を持っていた。つまり、本来起きた事件で、彼女が死んでいる事を示している。
だが、名前を変化させて、別人として生きていく可能性はどうなのか。記憶の本からすれば、どう反応するのか。
「……ちょっと待って!! 重要な事を零が言ってた」
カイトは死者の記憶の本によって、ある事に気付いた。




